誰が少年院に入院しているのか
認定NPO法人育て上げネットとキズキ共育塾が協働で行っている多摩少年院での学習支援の様子がTBSテレビ「Nスタ」で放映された。
少年院からの「再起」サポート、NPOの実態(TBS系(JNN))- Yahoo!ニュース
少年院内での学習支援事業の様子と育て上げネット職員である井村良英のインタビューで構成された内容となっている。
私自身、少年院という場所と協働する前は、少年刑務所、少年院、少年鑑別所の役割の違いも知らず、また、どのような少年が少年院に入院するのかよくわかっていなかった。むしろ、テレビでセンセーショナルに取り上げられた少年事件くらいしか、日常生活の中で自然と触れる情報はなかった。
引用にあるよう、彼らは加害者であるため少年院にいる。しかし、「ひょっとしたら、その前に被害者であったかもしれなくて」という言葉は、実際に少年院にかかわるようになってから、そのように感じることも多い。
その「感じ」とは、少年が生まれてから少年院に入るまでの間、もしその環境でなかったとしたら少年院に入ることなく、少年院とは無縁の生活を送っていたのではないだろうか、と思わざるを得ないことが少なからずあるからだ。
・少年の約半数がシングルマザー家庭、実父母がいるのは3割のみ
少年たちの生まれた家庭の複雑性は、法務教官から毎回のようにお聞きする。ここでは実父母の存在が3割程度、約半数がシングルマザーという情報だけだが、そこに至るまでに家庭内DVや離婚といったことも複雑に絡む。
また、親が不在、または、働いていないことで、「働く」ということに間近に接していない経験が、出院後のキャリア形成を簡単にさせない。もちろん、法務教官やキャリアカウンセラーなどが整理や助言を手伝うが、経験値としての積み上げがないため、具体的な将来のイメージがつかないことも多いと言う。
もちろん、すべてのシングルペアレント家庭の子どもが将来設計ができないというわけではないが、生活に余裕がなければ、子育てに余裕もなくなる。学習支援の経験から言えば、学校でわからないことを親に教えてもらえず、そのまま教室で置き去りなってしまった少年も多数いる。少年が「わかる」を自分のものにできるまで丁寧なサポートをすること、自学自習が可能な「学び方」を獲得できるよう十分なケアが大切だと感じう。
・女子の約6割が被虐待経験
幼い子どもたちが虐待によって命を落とすニュースが流れるたび、私たちは心を痛め、どうしたら虐待のない世界が作れるのかを考える。少年院に入院する少年の被虐待経験もデータとして公開されており、女子にいたっては約6割が被虐待経験者である。
身体的、心理的暴力の中で育てられた子どもたちにとって、何かの感情を表す手段もまた暴力になりやすい。また、十分な食事や睡眠を与えられず、ネグレクトの状態が当たり前の日常で育てば、そこに芽生える感情や自尊心に影響がないはずがない。
虐待関係の書籍は多数あるが、読みやすさという意味で『家出ファミリー』(田村真菜)を勧めたい。
貧困家庭、虐待、野宿、服毒・・・この壮絶な幼少期を生きた少女のいまを僕は知っている。
・増加する男子の特殊詐欺、減らない女子の覚せい剤
少年院を訪問させていただくと、各少年院に入院している少年の話をお聞きする。そのなかで、近年目立つのが男子の「特殊犯罪」である。いわゆる、ATMで現金を引き出す役割や、高齢者宅に金品を受けに行く少年が多いそうだ。
これもできるだけ弱い少年が最前線に送り出される。家庭に居場所がなかったり、うまく仕事に就けない、就いても続けられずにいる少年を見つけ、巻き込んでいく。十分な情報を与えられないなかで、現場で逮捕される少年もいる。
過去に少年院にいた経験のある男性からは、最初は小さな窃盗などを迫られ、断ったらばらすという圧力のなかで、わかっていながらもやらざるを得なくなる。そしてより犯罪性の高いことをやらされていくという話を聞いた。
女子で特徴的なのが「覚せい剤」使用や所持によるもので、なぜ男子には少ないのかという理由に、覚せい剤は高額のため、購入にせよ、与えるにせよ、相応の対価は女子に認められるからではないかという趣旨の話をいただいた。
・家族の出迎えがない出院者2割
少年院は矯正教育の場であり、罪を償うことと同時に、出院後に復学や進学、就職などを通じて更生自立が実現できるようにする場である。
少年院で成人式 少年から親への言葉(工藤啓)- Y!ニュース
以前、成人式に参列させていただいたとき、少年院で成人式を迎えることになった少年たちは総じて出院後の更生自立を誓っていた。また、女子の少年院で中学校の卒業を迎えた少年も、同じように出院後の再起を言葉にした。
少年院に入院して、初めて信頼できる大人としての法務教官と出会い、適切な食事や医療、虐待のない環境に触れる。そのなかで、少年たちは過去の行いを悔い改め、出院後の更生自立に向かう。
そのとき、少年院を出院する少年を迎えに来るのは親や家族だ。誰か引受人として少年を引き受けることになるが、さまざまな事情により、家族は現れず、約2割の少年は扉の向こうに家族が待っていない社会に出ていくことになる。
前述の引用で「温かくみんなで応援できるように」という言葉があるが、少年院での矯正教育を終え、再起を誓って出院する少年のがんばろうとする気持ちを力に変え、支えていくためには、より多くの「みんな」の応援が必要な現状である。また、少年院で少年と24時間365日向き合っている法務教官の処遇・待遇にも目を向けて行かなければならない。
現在、少年院を出院して再び少年院または刑務所に入院(所)するのは、出院2年以内で約1割(10.7%)、5年以内で約2割(21.6%)だ。新たな加害者も被害者も生まない社会において、この再入院(所)の割合を減らしていくことが、誰もが暮らしやすい社会へとつながっていく。
※少年院では、各少年院ごとに外部者に対して見学の機会を開いている。関心があればぜひ機会を利用してほしい。