【パンケーキの日】パンケーキのコピー系譜から想いを寄せる
パンケーキの日
2015年は2月17日が「パンケーキの日」です。
昨年の「【パンケーキの日】パンケーキは日本の国民食となれるのか?」でもご紹介したように、「パンケーキの日」はキリスト教の復活祭に連動した歴史ある移動祝日であり、「100年に1度のいちごイヤーを疑う」で疑義を投じた語呂合わせの「いちごイヤー」とは性格を異にするものです。スイーツブロガーとして有名なあまいけいき氏が立案した「パンケーキツアーズ」をご紹介し、日本で啓蒙していく意義について述べました。
「【ポスト・パンケーキ】スイーツブームの兆しを知る」で考えたように、ポストパンケーキが各メディアでフィーチャーされ、フレンチトーストやポップコーン、ハイブリッドスイーツが取り上げられる中、それを横目にパンケーキを主とする店(以下、パンケーキ専門店と合わせて、「パンケーキ店」とざっくり表記)は次々とオープンし、1年経った今でもパンケーキ熱はまだ冷めやりません。
引き続きオープン
最近でも、2015年2月21日、六本木にFORTY NINER(フォーティーナイナー)が出店するということで、メディアによく取り上げられています。FORTY NINERが紹介される際には「元祖ハワイアンパンケーキ」と謳われており、これまでに上陸してきた数多のハワイ系パンケーキと差別化し、まだまだ続くパンケーキブームの最上段に飛び乗ろうという意図が読み取れます。
東京にこれほど多くのパンケーキ店がある中で、新しいコピー(謳い文句)が生まれてきたことに感心し、かつ、「元祖」という<おいしそうな言葉>が残っていたことに驚きながらも、決してこれらを疑っているわけではありませんが、どのパンケーキ店がどのように謳われているのか、気になりました。
パンケーキ店、コピーの系譜
主立ったパンケーキ店がいつオープンして何を謳っているのかをを時系列に並べてみました。なお、なるべく端的なコピーを挙げたかったのですが、見付からない場合にはコンセプトを挙げています。
- bills(ビルズ)【オーストラリア】
- Eggs'n Things(エッグスンシングス)【ハワイ】
- RAINBOW PANCAKE(レインボーパンケーキ)【日本】
- カフェ・カイラ【ハワイ】
- サンデージャム【日本】
- サラベス【ニューヨーク】
- クリントン ストリート ベイキング カンパニー【ニューヨーク】
- シナモンズ【ハワイ】
- モエナカフェ【ハワイ】
- コアパンケーキハウス【ハワイ】
- FORTY NINER(フォーティーナイナー)【ハワイ】
こうやって見てみると、同じハワイ系であっても、Eggs'n Thingsは自ら「カジュアルレストラン」と謳っているように親しみを与えていますが、次のカフェ・カイラから「ハレアイナ賞 オアフ島グルメコンテスト ベスト朝食賞で金賞を受賞」と格を全面に押し出すようになり、それがシナモンズの世代になってくると何かの賞を受賞しなければハワイ系パンケーキ店にあらず、というイケイケな雰囲気になってきています。
受賞パンケーキ店が尽きてくる
最初はゆるいコピーでよかったのですが、パンケーキ店が増えていくにつれて、ゆるいコピーではメディアや消費者の気を引けなくなってきたので、受賞で差別化しようとしたところ、逆に受賞だらけになってしまったという、受賞インフレな状態でしょうか。もちろん、受賞をでっちあげることはできないので、コピーだけがエスカレートしていったわけではなく、日本へ上陸するパンケーキ店の格がエスカレートしていったということです。
受賞歴のないハワイ系パンケーキ店が日本へ上陸してくるのは世知辛い時代になったことを考えると、ここにきてFORTY NINERが日本へ上陸した理由が想像できます。というのも、受賞しているパンケーキ店がもう尽きてきたので、<受賞>に対する方向転換として、<元祖>という方向に焦点が当てられたと考えられるからです。
世界一 vs ニューヨークNo.1
せっかくなので、<受賞>以外のパンケーキ店についても考えていきます。
「世界一の朝食」という強烈なコピーを携えたオーストラリアのbillsがパンケーキブームの嚆矢であると唱えられていますが、その後に続くサラベスは「ニューヨークの朝食の女王」、クリントン ストリート ベイキング カンパニーは「ニューヨークNo.1のパンケーキ」と、世界規模から都市規模へと軽く縮小しています。
ただ、billsが「世界一の朝食」と大きく宣伝されているのは、ニューヨークタイムズが2002年にbillsのスクランブルエッグが世界一であると紹介したことがきっかけだったので、そういった意味では根拠は薄弱という気はしますが、ニューヨークタイムズが世界一と謳ったせいで、お膝元ニューヨークの2大パンケーキ店が世界一を謳いづらくなったとしたら皮肉なものでしょう。
同じニューヨーク系でも、サラベスはアメリカで絶大な影響力を誇るレストランガイドのザガット・サーベイで「ニューヨークNo.1デザートレストラン」に選出されており、クリントン ストリート ベイキング カンパニーよりも格上のような印象を与えるだけに、クリントン ストリート ベイキング カンパニーにとって「ニューヨークNo.1パンケーキ」を名乗れることは非常に重要なことであると考えられます。
日本系パンケーキへ思うこと
ハワイ系、オーストラリア系、ニューヨーク系と考えてきたので、日本系も考えないわけにはいきません。コピーを確認してみると、RAINBOW PANCAKEもサンデージャムも、ハワイ系パンケーキからインスパイアを受けて、それを日本に届けたいという熱い想いと純真なハワイへの憧れが痛いほどに伝わってきます。評価や格付けなどは関係ないという、清々しい気持ちが感じられてくるのではないでしょうか。
受賞や格付けを売りにしているハワイ系やニューヨーク系とは異なり、日本系はハワイへの憧憬をふっくらと抱くだけではなく、ハワイ系を追い越そうという気概も感じられませんが、それは今の段階では悪いことではなく、いずれは<OZmallで口コミ1位>や<食べログ全国ランキングNo.1>を謳ってハワイやニューヨークへ進出してもらい、日本のパンケーキの素晴らしさを伝えてもらえたらそれでよいと思っています。
というのは半分本当で、フランス料理やケーキのようにもともとは海外の食べ物だったものが日本へと入ってきて、日本の料理人やパティシエが世界レベルへと押し上げたことで、世界から注目されるようになったように、もともとはキリスト教徒の大切な食べ物であったパンケーキが日本で独自の進化を遂げて海外へと展開する日が訪れるのであれば、昨年の記事でも述べたようにパンケーキが一目置かれる存在となり、文化としてこれからも日本に残り続けることになるのではないでしょうか。
日本のパンケーキの歴史はまだ浅いと思いつつも、2015年からは<日本へ上陸>ではなく<日本から上陸>というパンケーキ店が現れることを切に願う次第です。
参考
スイーツ図鑑でもパンケーキが詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。
元記事
元記事はレストラン図鑑にあります。