今から36年前に最低中心気圧870hPaを観測(昭和54年の台風20号)
台風の最低中心気圧の記録は、アメリカ軍の気象観測機が昭和54年10月12日12時55分に、日本の南海上の北緯16度43分、東経137度46分で観測した870ヘクトパスカルです。これは、北西太平洋だけでなく、世界の熱帯低気圧の最も低い中心気圧の記録です。
地上で870ヘクトパスカルの気圧を観測
昭和54年10月12日12時55分の飛行機観測では、ドロップゾンデと呼ばれる観測機器を台風の眼の中に落下させ、その機器が飛行高度の高さから海面に達するまで送り続けてくる観測記録を受信することで行います。
海に没して観測が途絶える直前の観測が海面上の観測値ということになります。
これをみると、海面付近での気温が26.6度であるのに対し、700ヘクトパスカルになる高度(上空約1300メートル)で30.2℃と、高度が高くなると気温が下がるどころか、逆に地上よりも高くなっています。
台風の眼の上空は60度相当の高温
空気は気圧が低くなると膨張して気温が下がりますので、上空の気温は、地上付近の気圧に近い1000ヘクトパスカルまで持ってきたときの気温で比較します。
台風20号の700ヘクトパスカルの高さ(約1300m上空)で約30度という温度は、1000ヘクトパスカルのところでの約60度という温度に相当します。
猛烈に発達した台風の眼の中は、とんでもなく温められているのです。
台風の眼付近では,水蒸気が水に変わる時に発生する熱で温められています。水に熱を加えると水蒸気ができるのと逆の現象がおきているのです。
また、台風の眼を作っている雲の壁ではものすごい上昇気流ですが、眼自身は下降気流となっています。この下降気流により、一種のフェーン現象が起きていますので、この効果も加わって温度が高くなり、乾燥しています。
昭和54年の台風20号までの記録は、昭和48年の台風15号の875ヘクトパスカルでしたが、この台風も700ヘクトパスカルの高さの気温が30度を超えていました。
記録の更新はもう無理?
飛行機による定常的な台風観測は、昭和62年の台風11号(西進してフィリピンのルソン島に上陸)が最後となり、現在は、台風の強さは気象衛星からの見た目で決めています。実際に観測するのではなく、過去の統計を使った平均的な値が中心気圧となっていますので、870ヘクトパスカルを下回る極値はでてきません。臨時の飛行機観測が行われるか、偶然に島や船の真上を最盛期の台風が通過したときに870ヘクトパスカルを下回る記録が出るかですが、この可能性は極めて低く、事実上、記録の更新はもう無理です。
猛烈に発達する台風のシーズンは8~10月
最低中心気圧が900ヘクトパスカル以下となるほど猛烈に発達する台風を月別にみると、9月が一番多いのですが、10月も8月並に多く、猛烈に発達する台風のシーズンは8~10月です。
870ヘクトパスカルの記録を出した昭和54年の台風20号は10月の台風ですが、全国的に暴風雨が吹き荒れて、北海道東部では漁船の遭難が相次いで、死者・行方不明者115名、浸水家屋5万6000棟などの大きな被害が発生しています。
秋本番の10月になっても、台風に対しての警戒を緩めることができないのです。
図の出典:饒村曜(1986)、台風物語、日本気象協会。