大阪の中小企業経営者が起業家マインド育成を目指し高校の出前授業に奔走。名付けて「16歳からの起業塾」
関西で中小企業の経営者らが、高校の出前授業を試みている。一般社団法人「関西ニュービジネス協議会」(大阪市中央区)のメンバーたちだ。中小企業の数が減少しているのを危惧し、これから将来の進路を決める高校生たちに「起業家マインドを育てたい」との思いから、経営者自らが教壇に立つ出前授業「16歳からの起業塾」を実施している。2015年夏に企画の検討を始め、翌年から今秋までに3000人を超える生徒たちに授業をした。こうした取り組みが関西を超えて各地に広まるのを願い、関西ニュービジネス協議会でこのほど、会員である経営者の3年間の奮闘記「16歳からの起業塾――ダイヤモンドな君たちに贈る奇跡の授業」を出版した(税抜き1500円、どりむ社)。
高校生に起業家マインド教育
関西ニュービジネス協議会は1990年、ニュービジネスの振興を促し、関西経済発展に寄与しようとの目的で設立された。しかし、2000年ごろから不況下で会員は減る一方。活動を見直す必要に迫られた。いくつかの事業を廃止するとともに、小松範行会長の発案で、若い世代にアプローチする教育事業を新規事業とすることになった。
背景には、欧米に比べて日本は開業率が低いことがある。学生は安定志向が強く、大半は卒業後の進路として「就職」を選ぶ。開業率を上げて民間活力を高めるため、社会に巣立つ前の世代に起業の魅力を伝えようという発想だ。
そして心には、「中小企業の街、大阪」を元気にしたいという大阪への郷土愛があった。
小松会長の号令で新規事業の運営委員会「次世代人材育成委員会」が立ち上がり、委員間でアイデアを出し合った。対象は小学生から大学生まで検討し、事業の形態はセミナーやイベント開催などの意見が出た。3カ月にわたる話し合いの末、高校生を対象とし、こちら側から学校に出かけて行く「出前授業」を行うことに決まった。
次世代人材育成委員会をスタートから牽引した谷岡樹・担当副会長は「当初は学校の先生方が、起業に対してどんなイメージを持っているか分からず悩みました。借金地獄と隣り合わせと思われているのではないかとか、子供に拝金思想を教えると敬遠されるのではないかとか。出前授業は門前払いされるかもしれないという不安がありました」と振り返る。
議論を重ねるうちに、「金儲け」としてのビジネスを教えるのではなく、自分のアイデアや知恵がビジネスとして成立するワクワク感、やりがいを伝えるという方向性が見えてくる。自己実現の一つの方法として「起業」という選択肢があると提示し、生徒たちが自分の中にある無限の可能性に目を向けてくれるようになればいいと気付いたのだ。「このコンセプトに到達して、自信を持って前に進めるようになりました」と谷岡・担当副会長は話す。
講師陣にもワクワク感が広がる
高校生への出前授業は「16歳からの起業塾─―こんな生き方もあったのか!」と名付け、次世代人材育成委員会のメンバー自らが講師を務めることにした。自動車教習所を経営している谷岡・担当副会長のほか、食品会社社長、経営コンサルタント業を営む税理士など。高校の教諭らからは「本物の社長さんたちがビジネスについて話してくれるのは、教師が言うよりも生徒に説得力があります」と好評だ。
授業ではまず、クラウドファンディングという仕組みがあり、金融機関から融資を受けなくても開業資金が集められるなど、インターネット時代の起業の姿を紹介する。会社の数を増やそうという国の方針によって様々な支援策もあり、ビジネスへのチャレンジはハードルが下がっている現状も説明する。
後半は、グループに分かれて「激安量販店で1000円のサッカーボールを5000円で売る方法」を考えたり、ドラえもんの「どこでもドア」に値段をつけたりし、ゲーム感覚でマーケティングについて考える。教室は意見を出し合う生徒らの声が賑やかに響く。
教室の反応の良さに、講師陣もやりがいを感じている。自らの会社の売り上げに直接寄与する活動ではないにもかかわらず、忙しい合間を縫って講師を引き受ける経営者が増えてきた。
次世代人材育成委員会の増尾朗委員長は「僕らの報酬はお金じゃない。授業を受けた生徒が将来会社の社長になって、会いに来てくれたらと想像するんです。僕よりいい車に乗っていたりしたら、ちょっと悔しくて、ものすごくうれしいと思う。そういうワクワク感が報酬です」と笑う。
谷岡・担当副会長は「授業をしている側がノッってきて、書籍の出版まで漕ぎつけることができました。一つの節目として、ステップアップにつなげたい」と話している。
「16歳からの起業塾」に関する問い合わせは、関西ニュービジネス協議会、nbk@nb-net.or.jp (06・6947・2851)へ。