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小泉進次郎氏と「リバランス」

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
結婚を発表した小泉進次郎議員は、近ごろ「リバランス」を唱えている。(写真:アフロ)

7日に自身の結婚を発表した小泉進次郎議員は、現在、自民党で厚生労働部会長を務める。厚生労働部会とは、自民党内での社会保障や労働政策の分野の議論を行う会議であり、その取りまとめ役が部会長で、重要な役割であるとともに、自民党内でその政策分野に影響力を強めるための登竜門ともいわれる。

小泉議員は、近ごろ社会保障に関して「リバランス」の推進を主張している。「リバランス」とは何か。

「リバランス」とは、経済社会の担い手を増やし、「支える側」と「支えられる側」のバランスを回復することである。そして、経済社会の構造改革を推進することで、「リバランス」を推進することを目指すという。

そもそも、わが国は少子高齢化が進んでいる。年金・医療・介護の給付が多く必要な65歳以上の高齢世代の人口が増える一方、それらの財源を主に負担する18~64歳の現役世代の人口は減ってゆく。国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」によると、2017年に、1人の65歳以上の高齢者を2.1人の現役世代で支えるという人口構造が、2040年には1人の65歳以上の高齢者を1.5人の現役世代で支える状態に、2065年には1人の65歳以上の高齢者を1.3人の現役世代で支える状態になるという。

そうなると、現役世代の社会保障負担が過重になることが懸念される。

そこで、現役世代の社会保障負担が過重になることを避ける社会保障改革として、社会保障給付の抑制や(高齢者を中心とした)負担増が唱えられてきた。

これに対し、小泉氏をはじめとする自民党議員の中から、「リバランス」の推進という意見が出てきた。

前掲の数字は、高齢者を65歳以上とした数字だが、それを75歳以上に変えると、景色が変わる。

2017年に、1人の75歳以上の高齢者を5.1人の現役世代(18~74歳)で支えるという人口構造が、2040年には1人の75歳以上の高齢者を3.3人の現役世代で支える状態に、2065年には1人の75歳以上の高齢者を2.4人の現役世代で支える状態になるという。2017年で1人の65歳以上の高齢者を2.1人の18~64歳の人々で支えるという構図と比べても、2065年で1人の75歳以上の高齢者を2.4人の18~74歳の人々で支える状態なら、社会保障の1人当たりの負担を過重にしなくても持続できそうな構図である。

これが「リバランス」、つまり「支える側」と「支えられる側」のバランスを回復することが意図することといえよう。

2019年4月に、小泉氏が部会長として、自民党の厚生労働部会が取りまとめた「新時代の社会保障改革ビジョン」には、「給付削減(第1の道)か、負担拡大(第2の道)かという発想とともに 、社会保障改革の『第3の道 (リバランス )』を進める」と記されている。

さらに、「経済社会の担い手を増やし、『支える側』と『支えられる側』のバランスを回復しつつ、受益と負担のバランスを着実に正していくことで、 社会保障制度、さらには経済社会全体の持続可能性を高めることを目指す。」という。

74歳まで全員現役で、というのは容易ではないが、65歳以上は全員「支えられる側」というのも、現状に合わない。いかに、この国で「リバランス」を実現してゆくか、これからが問われよう。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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