100周年を迎えるフランスの名店はどこ? 日本で行われた一夜限りの記念ディナーの詳細
リヨンのポール・ボキューズ
1924年、フランスのリヨンに開業した世界的なレストランといえば「ポール・ボキューズ」。
ポール・ボキューズ氏は1961年にM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)、1975年にはフランスで最も権威のある「レジオン・ドヌール」勲章を受章した偉大な料理人です。世界最高峰の国際料理コンクール「ボキューズ・ドール」の創設者でもあります。
同店は1965年から55年連続でミシュランガイドの三つ星に輝き、2018年1月20日にポール・ボキューズ氏が逝去した後、2020年1月27日に発刊された2020年度版から二つ星となっています。
メゾン ポール・ボキューズ
日本でも、ボキューズ氏が紡いできた正統派のフランス料理を体験できる場所があります。
それは、日本のフランス料理を牽引してきたひらまつが2007年6月19日代官山にオープンした「メゾン ポール・ボキューズ」です。
2024年から料理長を務めるのは藤久周悟氏。28歳で単身渡仏し、フランス各地のグランメゾンで修業を積み、地方料理とローカルガストロノミーを学びました。帰国後ひらまつに入社して、金沢「ジャルダン ポール・ボキューズ」で料理長として12年間腕をふるい、2024年から「メゾン ポール・ボキューズ」の料理長を務めています。
100周年の節目
「ポール・ボキューズ」は開業してから、今年でちょうど100周年の大きな節目を迎えます。
本店のエグゼクティブシェフを務めるジル・レナルト氏は毎年来日してガラディナーを行っていますが、今回は100周年記念を祝う特別なガラディナーとなりました。
2024年11月15日に、レナルト氏と日本のポール・ボキューズチームが一致団結したガラディナーを開催。2024年11月17日には石川県金沢にある「ジャルダン ポール・ボキューズ」でも同じ内容で、レナルト氏が腕をふるいました。
レナルト氏は公邸料理人などを経て、1995年に「ポール・ボキューズ」に入店。シャンパーニュ地方・ランスの名店「ドメーヌ レ クレイエール」でも研鑽を積んでから「ポール・ボキューズ」に復帰。2004年に28歳の若さでM.O.F.を受章し、2017年にエグゼクティブシェフに就任。ボキューズ氏の伝統を守りながら、新しい風を吹き込む気鋭の料理人です。
コース内容
「メゾン ポール・ボキューズ」でのガラディナーの内容は次の通りでした。
ポール・ボキューズ100周年記念ガラ ~ 日本における「ポール・ボキューズ」の総本山 ~ 50,000円(料理、ワイン。税・サ込)
・白トリュフとマッシュルームのタルト ソース・ペリグー
・甘鯛のクルスティアン スープ・ド・ポワソン サフラン風味のジャガイモのカリソン
・ホタテ貝のサヴァラン カルヴィシウスのキャビア 金沢の金箔 ソース・シャンパーニュ・ロゼ
・青りんごとライムのフレッシャー シャルトリューズのジュレ
・蝦夷鹿のキャノン ヴィエノワーズ風 カシス風味のビーツのロティ
・コーヒーのスフレ 小さなガトーオペラ
・コーヒー 小菓子
ソース・ペリグーやスープ・ド・ポワソン、クルスティアンなどクラシックなフランス料理が見かけられますが、ひと工夫もふた工夫も加えて、モダンに仕上げています。
白トリュフとマッシュルームのタルト ソース・ペリグー
黒トリュフとイタリア・アルバ産の白トリュフを同時に味わえるという贅沢な一品。マッシュルームのジュリアンヌ=細切りをたっぷりとのせ、テクスチャに変化をつけています。ペリグーソースは旨味たっぷりですが、軽めの仕上がりです。
甘鯛のクルスティアン スープ・ド・ポワソン サフラン風味のジャガイモのカリソン
甘鯛は鱗をカリカリにして、身はふっくらと火入れ。旬の甘鯛を素晴らしい上味に紡いでいます。四国のモクズガニ、アラや内臓もついたままの新鮮な岩礁魚でつくられたスープは、繊細で旨味が濃いです。付け合わせは、プロヴァンス地方のカリソンというお菓子を象ったジャガイモ。
ホタテ貝のサヴァラン カルヴィシウスのキャビア 金沢の金箔 ソース・シャンパーニュ・ロゼ
帆立貝のクネル=練り物を、美しく紡ぎ上げました。珍しくシャンパーニュのロゼを使用しているので、チャーミングな香りをまとっています。イタリアのカルヴィシウス(CALVISIUS)のキャビアも惜しげなく使われていて、その塩味が帆立貝の慎ましやかな味わいを引き立てます。
青りんごとライムのフレッシャー シャルトリューズのジュレ
口直しのグラニテは、可憐なアシェットデセール=皿盛りデザートで提供。青りんごのソルベは生き生きとした酸味があって、口中をさっぱりとさせます。しゃきしゃきとした果肉もあって、サラダ風に。
蝦夷鹿のキャノン ヴィエノワーズ風 カシス風味のビーツのロティ
蝦夷鹿のロース肉に、コンテチーズとカシスのパン生地をのせて焼きました。蝦夷鹿の野性味にカシスの酸味がよいコントラスト。2日間かけてつくった赤ワインソースが、蝦夷鹿の妙妙たる味わいに寄り添います。付け合わせは、食味に優れた大黒本しめじと慎ましやかな甘みをもつビーツ。
コーヒーのスフレ 小さなガトーオペラ
フランス本店で提供されているのと同じコーヒーのスフレ。火入れにとことんこだわり、何分後にテーブルに届くかを逆算して完成させているので、見事なふっくら具合です。ビターなガトーオペラ、カクテルグラスの小さなバニラアイスを添えています。
オリジナルエチケットのシャンパーニュ
ワインのペアリングも付いていて、シャンパーニュ、白ワイン2種、赤ワイン1種、食後酒といった構成でした。
シャンパーニュは2024年11月から提供が開始されたばかりの「ひらまつオリジナルエチケット ペリエ・ジュエ グラン・ブリュット」。
フランスの中でも歴史ある老舗メゾン「ペリエ・ジュエ」とのコラボレーションで、シャンパーニュ造りの高い技術と不朽の伝統は、「ポール・ボキューズ」と通じるものがあります。
シャンパーニュは、アロマとフレーバーが融合し、素晴らしい丸みを帯びた大らかな味わい。食欲も刺激され、食事のスタートを切るにはぴったりな一本であるといえます。
抽選会も実施
テーブルにはガラディナーのメニューのほかに、封書が置かれていました。
封書には「ポール・ボキューズ」の歴史や哲学が綴られた特別な小冊子と、番号が付与された「TICKET D'OR」=「金のチケット」が同封。
ガラディナーの最後には、その番号を用いてプレゼントが当たる抽選会が行われ、とても盛り上がりました。
フランスに研修
今回のガラディナーに先立ち、藤久氏は「ジャルダン ポール・ボキューズ」料理長である星野晃彦氏とともにフランスで研修。
「ポール・ボキューズ」のレストラン、ブラッスリー、ホテル、学校などを巡り、レナルト氏とともに調理場に立ち、ガラディナーのメニューについても入念な打ち合わせを重ねました。
藤久氏は「レナルトシェフから得られるものは大きかったです。伝統を重んじながら、自分たちは最善なのかと問いかけ、進化しています。歴史に敬意を払いつつも、伝統を守るだけではありません。どうすればゲストを楽しませ、驚かすことができるのかと、真摯に考えています」と述懐します。
レナルト氏の言葉
レナルト氏はガラディナー開幕時に「スタッフもみんな緊張していますが、お客様に喜んでいただけるよう、私たちも楽しんでいきたいです」といい、大きな厨房を指揮して、66名のゲストをもてなしました。
今回のメニューについては、昨年2023年11月16日に来日してガラディナーを開催した直後から思案を開始。直前まで何度も試作を繰り返し、完成度を高めたと述べます。
最後に「このチームがいなければ、今夜のガラディナーは実現できませんでした」とスタッフを労い、「次の100年が楽しみですね」と笑顔で締めました。
リヨンのシンボル
「ポール・ボキューズ」は100年続くレストランで、リヨンという街のシンボルです。
「Les Halles de Lyon Paul Bocuse(レ・アール・ド・リヨン・ポール・ボキューズ)」=「ポール・ボキューズ中央市場」と名付けられた市場には、肉や野菜はもちろん、果物、チーズ、ワイン、パンなどありとあらゆる食材を扱う約50の店が軒を並べています。
向かいにある建物の壁一面には、ポール・ボキューズ氏のウォールアートが描かれており、その存在の大きさが窺えます。
貴重なガラディナー
ボキューズ氏は偉大な料理人だっただけではなく、ホテル、学校、財団、料理コンクールを創設するなど、フランス料理の発展に身を捧げた人物でもありました。
ボキューズ氏の意志を受け継いだレナルト氏の「ポール・ボキューズ」ではもちろん、日本でも「メゾン ポール・ボキューズ」や「ジャルダン ポール・ボキューズ」でボキューズ氏から継承された美食が味わえたのは喜ばしいことです。
世界の美食界は大きく変動していますが、100周年を機にして改めて、美食の正統派フランス料理の価値が再発見されたように思います。