『HUNTER×HUNTER』のキルアのヨーヨーは1個50kg! 武器として操れるのか⁉
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。
連載再開が待ち遠しいマンガといえば、筆頭は『HUNTER×HUNTER』ですね。この作品、ストーリーの展開も面白いし、キャラたちも魅力的。そして、空想科学的にも注目したいポイントが多々ある。その一つが、キルアのヨーヨーだ!
これ、見た目は普通のヨーヨーなのに、重さが50kgもあるという。両手で1個ずつ操るから合計100kg。キルア自身は、体重45kgだから、その倍以上だ。
こんなモノをズボンのポケットに入れていて、ポケットが破れたり、ズボンが脱げたりしないのか……というのも気になるけど、何より考えたいのは「1個50kgのヨーヨーは、武器としてどうなのか」という問題である。
◆地球のどんな物質よりも重い!
キルアがヨーヨーを使い始めたのは、ゲーム「グリードアイランド」の世界で戦っていたとき。いったん現実世界に帰ってハンター試験を受け、1488人を1時間半で倒し(3.6秒に1人だよ!)、合格して戻ってきたときに手にしていた。
その破壊力はものすごい。大木に当たると、幹を大きくえぐり、へし折る。戦いの相手が驚いて「一体 何で出来ていやがる!?」と問うと、キルアは「兄が特注した合金製で、重さが50kgくらいある」という旨を教えてあげていた。意外に親切なのである。
大きさは普通のヨーヨーと変わらないのに50kgとはすごい。筆者が市販されているヨーヨーを買って、重さを量ってみると52gだった。キルアのヨーヨーは、その960倍! いったいどんな合金でできているのだろうか?
市販のヨーヨーの仕様書を見ると「ポリカーボネート製」とある。ポリカーボネートは、戦闘機の風防や機動隊の盾にも使われる頑丈なプラスチックで、密度は1Lあたり1.2kg。ヨーヨーの重さが52gだったことから、その体積は43.3mLとわかる。
キルアのヨーヨーの体積も、筆者のヨーヨーと同じなら、密度も960倍であり、すると1Lあたりは1150kg。密度が大きいことで知られる金(1Lあたり19.32kg)の60倍だ。通常の圧力下でもっとも密度の高い物質は、オスミウムという金属だが、それでも1Lあたり22.57kgだから、その51倍。
つまりキルアのヨーヨーは、地球上に存在するどんな物質よりも、はるかに重いのだ。こんなモノを特注した彼のアニキはすごいヤツである。
◆キルアは飛んでいく!
それほどすごいヨーヨーを、キルアは自在に操る。
最初の相手との対戦では、目測20mほどの距離から投げたヨーヨーを、相手はギリギリでかわした。人間が何かに反応する時間は最短でも0.1秒といわれ、この相手はかなりの実力者だったから、ヨーヨーはこの距離を0.1秒で飛んでいったと考えよう。
すると、キルアが投げたと思われる速度は、秒速200m=時速720km。新幹線の2倍以上も速い。
もちろん、モーレツにすごいことで、腕を50cm動かしてこのヨーヨーを投げたとしたら、キルアが発揮した力は204t。さすがゾルディック家の殺人エリート教育を受けて育った人物ですなあ。
しかし、そうやって投げたヨーヨーが50kgもあると、いくら力があってもどうにもならない問題が生じる。たとえば、上で紹介した「相手がキルアのヨーヨーを避けた」シーンのその後だ。
科学的に考えると、どうなるか? 普通のヨーヨーなら、紐が伸びきった瞬間に引き戻せば、手元に返ってくる。ところが重さが50kgもあると、そうはいかない。
ヨーヨーが時速720kmで飛ぶ運動の勢いが紐を通してキルアにも伝わり、紐が伸びきった瞬間、キルアとヨーヨーは一体化して飛んでいく!
そのスピードは「運動量保存の法則」から求められる。これは「何かが起きる前後で、重さ×速度の合計は変わらない」という科学の基本法則で、この「重さ×速度」が「運動量」だ。
紐が伸びきる前の運動量は「50kg×時速720km」。一方、紐が伸びきった後の運動量は「145kg(キルア45kg+ヨーヨー2個で100kg)×キルアが飛ぶ速度」。この2つが等しくなるための「キルアが飛ぶ速度」は、時速248km! 何かにつかまっていない限り、どんなに力があっても、キルアは時速248kmという、新幹線みたいな速度でビューンと飛んでいってしまう。
これを防ごうと思ったら、方法はただ一つ。紐が伸びきる前に逆向きに走って、前向きの運動量と後ろ向きの運動量を等しくすればよい。
必要な疾走スピードは、なんと時速379km。そんなスピードで走れるのか⁉と心配になるけど、キルアはゾルディック家の殺人エリート教育を受けて育ったのだ。さり気なく実践していたのではないかと……。
恐るべきヨーヨーである。キルアのような能力を持たないわれわれ一般人には、この武器はとても使いこなせません。