ポゼッションとカウンターの狭間。イングランド、スペイン、フランス…スタイルの変化とボール保持の意味変
結果と内容を両立させるのは、難しい。
EURO2024が、佳境に入っている。ここまでのところ、概ね、順当なチームが勝ち上がっている。
一方、注目すべきは各チームのプレースタイルの変化だ。
■スペインとチキ・タカの放棄
スペインは、「チキ・タカ」を放棄している。近年、スペインは、“ポゼッションの呪縛”に苦しんできた。ボールを保持しながら、相手の堅い守備とカウンターに手を焼き、勝利から見放されるという状況に幾度となく陥っていた。
だがルイス・デ・ラ・フエンテ監督の下、スペインは変わり始めた。ニコ・ウィリアムス、ラミン・ヤマルという、若く勢いのあるウィンガーを両翼に据え、縦に速いフットボールを志向するようになった。
中盤でファビアン・ルイス、左サイドバックでマルク・ククレジャが重宝されているように、デ・ラ・フエンテ監督のメッセージは明確だ。そもそも、今大会の招集メンバーを巡っては、パウ・クバルシ(バルセロナ)がリストから外されている。“兆候”はあったのだ。
今大会、グループステージが終わった段階で、スペインの平均ポゼッション率は54%だった。このランキングにおいて、全体で7位の数字だった。1位のドイツ(64.3%)と比較すれば、その差は明らかである。
■フランスと戦い方の変化
スペインと対照的なのは、フランスだ。
フランスは2018年のロシア・ワールドカップで優勝を果たしている。あのロシアW杯で、フランスのポゼッション率は48%だった。それが、今回のEUROにおいて、フランスのポゼッション率は56%(決勝トーナメント一回戦終了時)までアップしている。
ただ、ポゼッション率とゴールは、簡単には繋がらない。フランスの場合、4試合で3得点と、50%超のポゼッション率を誇りながらも苦しんでいる。
また特徴的なのは、イングランドである。
グループステージが終わったところで、イングランドのポゼッション率は59.7%だった。これはドイツ、ポルトガルに次いで、3位の数字であった。
カイル・ウォーカー、ジョン・ストーンズ、フィル・フォーデン、デクラン ・ライス、ハリー・ケイン。この数年、イングランドの”コア部分“を担ってきた選手たちの多くがマンチェスター・シティでプレーしている。避けられないのは、ジョゼップ・グアルディオラ監督の影響だ。
「ベルギー、イングランド、オランダは似たような問題を抱えている。すべての選手が、コンビネーションでのプレーを望んでいることだ。(ジェレミー・)ドクのような選手でさえ、サイドに置かれていて、クロスでプレーを終わらせようとしない」とはイングランド代表で長くストライカーとして活躍したウェイン・ルーニーの言葉だ。
「彼らのスタイルは、ポジショナル・プレーに基づいている。完璧なゴールシーンを演出しようとしているようだ。それはペップの影響だと思う。彼によって、そういう考えが刷り込まれたのだろう」
■イタリアの敗退
もうひとつ、挙げたいのは、イタリアのケースだ。イタリアは格下と見られていたスイスに敗れて、ベスト16敗退に終わっている。
イタリアと言えば、“カテナチオ”の国だ。ゴール前に鍵をかける、と称されるように、伝統の堅い守備を特徴としている。だがルチアーノ・スパレッティ監督は「数年前であれば、自分たちのゴール前で相手を待ち構えて、カウンターを狙えた。しかし、こんにち、それは非常に難しくなっている」と興味深いコメントを残している。
「すべての代表チームには、いろいろな状況に対応できる選手が揃っている。(守備固めのカウンターで)彼らを驚かせるのは困難だ。もっと多くのことをできるようにしないといけない」
スパレッティの言葉には、何か、示唆的なところがある。
カウンターとポゼッションーー。無論、フットボールは、二極化するものではない。
そのスタイルを、巧みに使い分けたチームが、勝利に近づく。重要なのは、どのスタイルが自分たちに適するか、それを見極める力だ。