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ワセリンを塗ったら日焼けしやすくなるって、ホント?医師が解説

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

陽射しが強くなってきましたね。

こんな時期、私の外来では「顔にワセリンを塗っても大丈夫ですか?日焼けがひどくなりませんか?」という質問が増えてきます

『いえいえ、実はワセリンは、紫外線をむしろ多少ブロックする作用があるくらいですので、塗っても大丈夫ですよ』とお答えすると、驚いた顔をする方も多いのです。

どうもこの勘違いは少なからずあるようですね。

そこでいくつかの研究結果から、ワセリンと紫外線の関係に関して解説してみましょう。

ワセリンは、紫外線をブロックする?

写真AC
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トルコの健康な成人35人に対し、ワセリンを事前に塗っておき、24時間後に皮膚が赤くなって炎症を起こす程度を比較した研究があります。

すると、ワセリンをより厚く塗ったほうが、皮膚が赤くなりにくくなったそうです(※1)。

(※1)Eur J Dermatol 2002; 12:154-6. (日本語訳)

つまりワセリンには紫外線をブロックする効果があり、しかもたっぷり塗ったほうが効果が高いということになります(もちろん、それほど強い効果ではないので日焼け止めになるほどではありませんが…)。

皮膚が潤うと、かえって日焼けしやすくなりますか?

写真AC
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『では、ワセリンではなく、保湿剤を塗っても日焼けしやすくなったりすることはありませんか?』という質問も受けることもあります。ワセリンは保湿剤というよりも、皮膚の表面の皮脂膜という油の膜を補強するという性格を持つ外用剤です。保湿成分を含んだ外用剤だとどうか、という質問ですね。

ドイツのハンブルク大学の研究があり、健康な成人10人に対し皮膚の角質の水分量に差をつけたあとに紫外線をあてて赤くなる程度を比較したところ、皮膚が赤くなる程度に差はなかったという結果になっています(※2)。

(※2)Br J Dermatol 2002; 146:280-4.

つまり、保湿成分を含んだ保湿剤を塗っても、日焼けをしやすくなることはないといえますね。

では、どんな保湿剤でも、日焼けを防御する働きがあるのでしょうか?

写真AC
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ワセリンは、さまざまな外用剤に使われている基本的な外用剤です。ならば、どんな保湿剤でも紫外線を防御する効果があるのでしょうか?

そういうわけではないようです。

トルコの健康な成人29人に対し、ワセリン、基礎クリーム、グリセリン(保湿成分として多くの外用剤に含まれます)、オリーブオイルを皮膚に塗り、紫外線にあてたあとの皮膚への影響を観察した研究があります。

すると、紫外線を軽減する効果があったのは、これらの中ではワセリンのみだったという結果でした(※3)。

(※3)An Bras Dermatol 2018; 93:238-41.

これまでの研究結果からみると、どうやらワセリン、ひまわりオイル、ココナッツオイル、サリチル酸には紫外線を軽減する効果があり、ミネラルオイル、グリセリン、オレイン酸にはその効果は認められないようです(※4)。

(※4)J Am Acad Dermatol 2013; 68:817-24.

では、なぜワセリンで日焼けをしやすくなるという誤解がでてきたのでしょうか?

イラストAC
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みなさんは、日焼けをしたことはありますよね。

皮膚は、強い紫外線を受けると赤くなります。つまり『炎症』を起こします。そして、その赤みが減ったあとに『色素沈着』が残ります。

これが、日焼けという現象です。

たとえば、虫刺されになってひどく腫れたときや湿疹がひどくなったときなどにも、『炎症』が起こります。

その炎症がひどいと色素沈着を残すことがあるのです。

つまり、日焼けと変わらない現象といえるでしょう。

炎症がひどくなったときには、ステロイド軟膏を塗ったりしますよね。

軟膏の多くにはワセリンも含まれています。そしてステロイドは、『炎症』から治していきます。赤みがすみやかに取れてくるわけですね。

すると、『赤みが減った後に、色素沈着が残ったように見える』のです。

私は、この『炎症後の色素沈着』という現象が、『ワセリンが色素沈着を起こすという勘違い』が起こる原因のひとつなのではないかなあと思っています。

炎症後の色素沈着をおさめるにはどうすればいいでしょう?

写真AC
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日焼けをひどくしないためには、皆さんどうされるでしょう?

炎症を収めたあと、紫外線にあたらないように気をつけていきますよね。すると、日焼けは、紫外線という刺激を受けなければ、だんだん薄くなっていきます。

つまり、虫刺されや湿疹の後にのこった皮膚の色素沈着も、虫刺されや湿疹が悪化しないようにスキンケアを続けていると、だんだん薄くなっていくのですね。

少なくともワセリンは、日焼けという色素沈着を起こしやすくすることはないと言えます。

そしてもうひとつ言えることとして、湿疹という炎症そのものが色素沈着を起こしやすくするとまとめられます。

スキンケアをしながら、快適な夏をお過ごしくださいね。

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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