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最新作『犯罪都市 NO WAY OUT』を見る前に!アクションと笑いたっぷりのシリーズを予習

渥美志保映画ライター

韓国映画界でいま最も興行力のある作品と言えば、なんといってもマ・ドンソクの主演シリーズ『犯罪都市』。今月公開のシリーズ3本目『犯罪都市 NO WAY OUT』では、日本の青木崇高が日本から送り込まれた最強の殺し屋として登場。めちゃめちゃハードな日本刀のアクションシーンも話題です。主人公マ・ソクトは、これまでは、日本で言うところの所轄署の凶悪犯罪担当「強力班」の刑事だったのですが、最新作ではメンバーも一新し「広域捜査班」(日本で言えば警視庁みたいな)の刑事になっています。つまり3本目だけでも全く問題なく楽しめるのですが、私が最も好きなのはシリーズの2本目『犯罪都市 The ROUNDUP』。アクションはもちろんですが、1本目と同じメンバーが呼吸ぴったりで徹底的に笑わせてくれるから。今回はその『犯罪都市 THE ROUNDUP』の劇場用パンフレットに寄稿した映画評を、最新作バージョンでお届け。最新作を見る前に、ぜひこちらも御覧くださいませ!

ごみごみした街角のコンビニで、騒ぎが起きる。男がナイフを振り回し、人質を取って立てこもっ ているのだ。集まる群衆を割るように、あのでっかい背中がーー前作よりまた大きくなった気がするあの背中が現れる。のしのしと現われたソクト(マ・ドンソク)に、班長は「人目があるからほどほ どにしとけよ」と小声で伝える。3人の部下には表で男を引き付けさせ、自分は裏口からこっそり 回るつもりだが、デカすぎる身体で棚を倒してしまい、作戦はまったく功を奏しない。 俳優マ・ドンソクのすごさは、こうした場面においても、絶対に笑いを忘れないところだ。ソクトは意味不明な会話を繰り出し、相手がポカンとなった一瞬で制圧する。男が持っていた包丁で、その お尻を「痛いだろが!痛いだろが!」とつつくのも最高だ。噛みついてきた男に「ゾンビかよ!」な んていうセリフには、彼の存在を国際的に知らしめた出世作『新・感染 ファイナル・エキスプレス』 を思い出し、ついにやにやしてしまう。 前作『犯罪都市』は、実際にあった犯罪組織掃討作戦を元に作られた作品だったが、そのヒットを 受けて作られた本作は完全なフィクションだ。それゆえに物語は、前作で生まれたキャラクターを軸に作られているように思う。より自由に生き生きと描かれている人物たちの関係性と、テンポのいいかけあいが超絶に面白いのだ。

もちろんその中心には、もはやワールドスターであるマ・ドンソクがいる。今回、衿川警察強力班 に命じられた任務は、なぜかベトナムの韓国領事館に「自首」してきた犯罪者を韓国に護送する こと。久々の海外出張に行くソクトに、「英語が得意」と吹きまくって同行するのは、チェ・グィファ 演じる班長だ。このふたりの出張が何しろ珍道中である。犯罪を見ると捨てておけずつい手が出るソクトに、班長は「ポリコレ担当」でたしなめつつ見てぬふりをするが、実はキレやすいのは班長で、こわもてのソクトがまあまあまあとなだめる。教科書通りの凸凹ココンビの楽しさだ。 ケチでぎゃあぎゃあと文句はたれるが裏表はなく、ソクトの自由にやらせる、考えようによっちゃあ懐の深い班長は、ソクトに完全に貫禄負けしているのだが、実際に演じるチェ・グィファはドンソク より6歳も年下らしい。なかなかの老け顔である。韓国丸出しのおっさん二人が、まるっきりの韓国語を英語風に話しながら押し通す姿も可笑しい。そもそもカナダ国籍のドンソクは、本当は英語はペラペラなのだ。

そんな中でソクトは、誘拐ビジネスで荒稼ぎする凶悪犯カン・ヘサンに遭遇するのだが、これを演じるのが、なんとあのソン・ソック。最近の韓国ドラマファンにとっては、『私の解放日誌』の寡黙で孤独な男や、『D.P.』の皮肉なユーモアの将校を思い出すかもしれないが、私が思い出すのは『マザー 無償の愛』の虐待男である。細い筆で「しゅっ」と横に一本引いたみたいな目は、誤解を恐れず言うならどの役を演じてもそれほど表情が変わらず、だからこそ笑ってるのか怒ってるのか分からない。そこから覚える不安が、ラブストーリーでは「なんか気になるセクシー系」になるが、今回の役はこっちが「なんか怖い…」と考える、その「なん」くらいの時点ですでに殺されてるという感じの凶悪な男である。ドンソクとのバランスで身体をかなり鍛えていると思うのだが、それも見せかけだけではない。ガチの全速力で走り、重量感とスピード感を兼ね備えた アクションを繰り出し、まったくためらいなくザックザック殺す。そしてめちゃめちゃ憎々しい。マ・ドンソクとの肉弾戦でも、最後の最後まで徹頭徹尾の凶悪犯を全うする。そのうち脱獄とかして、『犯罪都市5』くらいに出てきそうな気さえする。

だがこの凶悪犯が出てくる以外の場面は、はっきりいって笑いっぱなしなのだ。特に最高なのが前作の生き残り、パク・ジファン演じるチャン・イスだろう。最近では人気ドラマ『私たちのブルー ス』『京城クリーチャー』で知られる彼は、笑えるチンケな悪役を演じたら抜群の俳優で、前作では朝鮮族の組織の親分というそこそこ大人物だったのだが、今回は興信所の看板で密航と国際偽装結婚を斡旋して いる。ソクト相手に「俺だって我慢しねえぞ!」と粋がったそばから「いえ、すみません」と従ってしまうマヌケワルぶりもたまらない。その愚かさと短慮ゆえに、本作では最もクレイジーな悪役に 張り合ってしまうのだが、それが後半の展開をよりスリリングなものにしているし、最後の最後まで笑わせてくれる。最新作でも思わぬところに出演、マ・ドンソク以外で唯一のシリーズのレギュラーとなりそうだ。

『犯罪都市 THE ROUNDP』は、イスに限らず前作と地続きの世界が描かれるのが本当に楽しい(もし可能なら本当を見る前 に、無理なら見た後でも前作を見てほしい)。例えば強力班の唯一のイケメン枠、ハ・ジュン(『真剣勝負 リーガル/クレイジー』)演じる 刑事ボンソクは、前作では情報部から異動してきた新人刑事で、犯人に加熱した油をかけられ大 やけどし「強力班を辞めたい」と泣きが入っていた。それが今回は斧を手に新人刑事サンフンを襲う男にためらいなくとびかかるまでに成長している。前作の強力班No.3からNo.2に格上げと なったホ・ドンウォン(『グローリー 輝ける復讐』)演じるドンギュンは慶尚道なまりがいいアクセントで、後半の見事な活躍も含 めて存在感を増している。

「韓国の名悪役勢ぞろい」だった前作と比べ、今回は強力班(つまりシリーズのレギュラー)の全 員にきっちりと見せ場がある。映画の中のソクトは、強く優しくフラットでおおらか、それでいてここ ぞというときには重低音のBGMとともに現れて悪党をぶっとばし、「やべやべ大ごとになっちまった」と逮捕は後輩に任せて、こそこそと現場を去ってゆく、めちゃくちゃ頼れる理想の上司(韓国的 には「理想のヒョン(兄貴)」)なのだが、それはプロデューサーも兼ねたこの作品のマ・ドンソクそ のままにも思える。自分だけがスターになる映画でなく、仲間と一緒に作っていることをきちんと わかっているのだ。もちろんこれはあくまで想像なのだが、映画の中の強力班があまりにリアル な一体感で、何より楽しそうなのだ。このおっさんたちの仲間に入りたい。映画を見たすべての観 客が、そんなふうに思うラストシーンなのである。

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こちらは最新作『犯罪都市 NO WAY OUT』の予告編。以前よりアクションがパワーアップし、1本でも楽しめる作品ですが、シリーズを見ている人にしかわからない「お約束」もたっぷりのエンタテイメント作品です。日本人俳優たちの活躍もお見逃しなく!

『犯罪都市 NO WAY OUT』

2月23日(金)より全国公開

(C)ABO Entertainment presents a BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A. ENTERTAINMENT production world sales by K-MOVIE ENTERTAINMENT

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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