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「スト破り」に対抗する方法 佐野SAのストライキから考える

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 佐野サービスエリアで働いていた運営会社ケイセイ・フーズの従業員たちが始めたストライキは、開始から1ヶ月が経過した現在も未だ解決に至っていない。

 会社側が代替要員によって営業を再開したことや、団体交渉が不調に終わったことが報じられると、インターネット上には、従業員たちに共感を示すコメントが多くみられる一方で、「これが現実か・・・」と失望感が広がりつつある。

ストライキを決行した本人自身が発信しているSNSは下記の通りだ。ぜひ現在の状況をしってほしい。

ツイッター:加藤正樹(佐野SAストライキ続行中)はやく戻りたい・・・@katosanosacojp1

フェイスブック:加藤正樹

 確かに、「スト破り」(使用者がストライキに対抗するために代替要員を就労させて操業を継続すること)によってストライキの効果が減退してしまったため、解決は遠のいたように思える(なお、従業員側が労働局の斡旋を申し立てていることが報じられており、公的機関の介入によって何らかの解決に至る可能性はある)。

 しかし、これをもってストライキ自体に意味がないとは思わないでほしい。法律では、スト破りを防止し、又はスト破りに対抗する様々な方法が認められているし、実際にストライキによって問題を解決した事例はいくつもある。

 また、今回のストライキの正当性に疑義を呈する意見も未だ根強いが、誤解に基づくものが多いように思われる。ストライキを実施するに至るまでの経緯を踏まえれば、正当な争議行為だと判断される可能性が大いにある。

 そこで、今回は、どのような場合にストライキが正当なものと判断されるのか、そしてストライキを有効に機能させる上でどのような方法があるのかについて考えていきたい。

なぜ従業員たちはストライキを始めたのか

 改めて、今回のストライキの経緯を振り返ってみよう。

 ストライキの中心に立った元総務部長の加藤正樹氏から筆者が聴き取ったところによれば、騒動のきっかけは、資金難による経営状態の悪化だ。ケイセイ・フーズの親会社がメインバンクから新規融資凍結処分を受け、7月20日に行われた労使交渉では経営陣は融資凍結と返済滞納を認め、従業員たちに動揺が走ったという。

 経営状態が悪いという情報は取引先にも伝わり、代金の支払いが滞ることを懸念した業者が商品の納入を控えるようになったため、8月4日には売店のバックヤードから商品が次々になくなっていくという事態が発生した。

 帰省の時期であったため、サービスエリアにはたくさんの客が訪れていたが、販売できる商品がなく、従業員たちはただただ謝り続けるしかなかった。

 このままでは従業員への賃金の支払いも滞る恐れがあると考えた従業員たちは、労使交渉を行い、納入業者に対して商品の代金を前倒しで支払うことや、従業員に対して3カ月後までの賃金の支払いを確約することを求めた。

 経営陣は渋々これに応じ、安心した業者から商品が納入されるようになった。その際に、納入業者との交渉の窓口になったのが加藤氏だった。彼は業者からの信頼も厚かったために、従業員、取引先等に売上から平等に配分されるように割り当てをして、合意を得ることができたのである。

 しかし、8月9日、社長は約束を撤回し、資金繰りが厳しいため支払期日を延ばしてもらうよう納入業者と交渉するよう指示を出した。当然ながら従業員側はこれに反発。対立関係が強まるなかで、ストライキ前日の8月13日、突如、社長が加藤氏に解雇を通告した。加藤氏はその日のうちに荷物をまとめるよう指示され、職場を後にするしかなかった。

 8月13日は一番忙しい時期。従業員はみな、深夜まで勤務していた。取引先も含め、加藤氏が解雇されたという情報は深夜に飛び交っていた。加藤氏も、このまま辞めてしまうのか、争うのか迷ったというが、売店の労働者の「どうせ潰れるなら加藤さんと一緒に出ていきたい」という言葉に促された。

 その時点ですでに商品は入れてもらえなくなっており、翌日の昼には商品を売れなくなることがわかっていた。商品がない中で、客に怒られ続けるのは従業員たちだ。労働者にとっても、商品を買えない消費者にとっても、いいことはない。「被害者が出ないように、もう閉めてしまいましょうよという発想だった」という。

「予想外」のスト突入

 とはいえ、加藤氏は組織だったストライキを、この時点でも決めていなかったという。閉店するかもしれないという事態になれば、会社側が折れてくれると思っていたのだ。同時に、いつでも開店できるような準備をして、すぐに再開できるようにもしていたという。

 しかし、結局会社側の態度は変わらず、ストは回避できなかった。

 加藤氏はSNS上でストライキの経緯を説明。ストライキには従業員の9割に当たる約50人が参加したという。そして、労働組合は、取引業者への代金の支払いと従業員への賃金支払いの確約に加え、加藤氏に対する解雇の撤回を経営陣に要求した。

 ストライキを実行するに至った経緯は以上のとおりだ。従業員からの信頼が厚かった加藤氏の突然の解雇、賃金遅配への不安、商品の在庫不足といった異常な状況のなかで、やむなくストライキ実行の判断に至ったことがわかる。

 また、経営陣の不誠実な対応によって従業員との間の信頼関係が損なわれていったことがここまで大きな事態に発展した要因だといえよう。

ストライキの正当性について

 このように行われたストライキについて、事前の予告なく、また、団体交渉での要求を経ずに行われたようにみられたために、正当なストライキでないとする意見がみられた。

 しかし、以前の記事でも述べたとおり、このようなストライキが正当なものと認められることはあり得る。

 参考:佐野SAストライキは「手続き違反」なのか?

 それは、一言で言えば、憲法が団体交渉権や争議権を保障しているからである。一般に、一定の要件を満たすことによって労働組合法上の保護を受ける労働組合(法内組合)だけが法律上の労働組合だと考えられているが、そうとは限らない。

 労働組合法上の保護を受けることのできない組合(法外組合・憲法組合)であっても、憲法28条の趣旨・目的に沿う組合は、団体交渉やストライキを行う権限があり、かつ、刑事・民事の免責が認められうる。

 実際に、自動車のシートカバーの縫製などに従事していた外国人技能実習生たちが、作業ノルマ集団で抵抗し、仕事をしなかった事件で、これが「ストライキ」として適法であると認められた裁判例がある。

 

 会社は、実習生たちの不就労により取引先を失い2700万円の損害が生じたと主張したが、損害賠償請求は退けられた(一方で、会社に対する未払い賃金等の支払請求が認容された)のである。

 (詳しくは担当弁護士の書いたこちらのブログを参照して欲しい)

 つまり、労働組合法上の労働組合でなくても、憲法上の労働組合として団体交渉権や争議権が認められる可能性があるのだ。

 さらに言えば、労働組合を結成していない場合や団体交渉を経ていない場合、あらかじめ予告をしていない場合などでも、正当なストライキであると認められることがある。

 この外国人実習生の裁判例では、労働組合が結成されておらず、ストライキと銘打つこともなく、単に就労を拒否しただけであるが、それでも憲法上の団体交渉権や争議権の保障を受けるとされ、労務提供を停止したことがストライキとして適法であると判断されている。

 もっとも、正当なストライキであるか否かは個別的な事情によって判断されるものだが、上述した経緯を踏まえれば、今回の佐野SAでのストライキも法的に正当なものと判断される可能性が大いにあるといえよう。

「スト破り」は違法ではない

 一方、経営側が代替要員によって営業を再開したことについて、「スト破りは違法だ」、「スト破りは不当労働行為だ」という声が一部でみられた。だが、残念ながら、これは法的に正確なコメントとはいえないだろう。

 確かに、会社が新たに労働者を雇い入れるなどして営業を継続することができればストライキの効果はほとんどなくなってしまうし、要求を掲げてストライキを行う労働者を無視して「スト破り」によって営業を継続することは著しく不当に思える。

 しかし、これは直ちに「違法」とはされていない。ストライキ中であっても、会社が代替労働者を雇い入れて、操業を継続することは認められている。労働者側に争議権という強力な武器を与える代わりに、会社側にも、一定の範囲でそれに対する対抗防衛手段を採ることを認めているわけだ。

 最高裁も、使用者はストライキ中であっても業務の遂行を停止しなければならないものではなく、操業を継続するために必要とする対抗措置を採ることができるとしている(山洋電気軌道事件・最2小決昭53.11.15労判308号38頁)。

 ただし、会社が、ストライキの際に就労して操業の継続に協力した労働者に特別の手当を支給するといったような行為は、ストライキの効果を減殺する不当労働行為だと評価されうる。

「スト破り」にどう対抗するか

 では、労働組合側には「スト破り」に対抗する方法はないのだろうか?

 第一に、ストライキに付随する補強手段として伝統的に用いられてきた手法として、ピケッティングや職場占拠がある。

 

 ピケッティングとは、職場において、会社が製品・資材を搬出入するのを阻止したり、ストに参加していない労働者に協力を要請したりして、ストライキの効果を維持する戦略である。これについて、判例は、原則として「平和的説得」に限って許されるとする立場に立ち、これを超える行為を伴う場合には正当性を否定している。

 つまり、「スト破り」が職場に入ってこないように腕を引っ張るなどして物理的に追い出すといった行為は免責されず、法的に処罰される可能性がある。だが、「説得」をするために事業所の中に侵入することはOKだろうというわけだ。

 第二に、労働協約による「スト破り」の禁止がある。これは、あらかじめ労働組合が存在し、会社と労働協約を締結している場合に限られるが、ストライキ中の労働者の雇い入れを禁止することなどを労働協約で定めておく方法である。この規定は「スキャップ禁止条項」などと呼ばれる。

 第三に、求人ルートへの介入がある。会社が代替要員を確保できなければ、ストライキを維持することができる。

 職業安定法には、ハローワークや民間の職業紹介事業者は労働争議に対する中立の立場をとるため、ストライキが行われている事業所に求職者を紹介してはならないと定められている(第20条、第34条)。

 また、労働者派遣法第24条は、「職業安定法第20条の規定は、労働者派遣事業について準用する。」としており、派遣会社がストライキの行われている職場に新たに派遣労働者を派遣することを禁止している。

 さらに、職業安定法に基づく指針では、募集情報等提供事業を行う者(求人サイト・求人情報誌等)についても同様の内容が定められている。

【参考】平成29年職業安定法の改正について(厚生労働省ホームページ) 

 これらの規定に基づいて、ストライキを行っている間、交渉相手の企業への職業紹介を停止できる可能性がある。

 実際、昨年話題になった株式会社ジャパンビバレッジ東京におけるストライキの際には、東京都労働委員会がハローワークに対して同社の求人を掲載しないよう通報し、続いて大手求人サイト「リクナビ」が求人を停止している。

 参考記事:「リクナビ」がサントリーグループ・ジャパンビバレッジ東京の求人を停止!

 第四に、ストライキを社会的なイシューとしてアピールする手法だ。

 近年は、労働事件が、人々の安全や消費者問題と結びついて注目を集めることが多い。例えば、高速バスの運転手の長時間労働は交通事故の原因となり、人々の安全を脅かしている。

 また、保育士の劣悪な労働環境は「保育の質」を低下させ、時には死亡事故に結びつくこともある。「命を守るためのストライキ」として社会にアピールしていくことで、「スト破り」をやりにくくできる可能性は大いにあるだろう。

 このように、サービス産業化が進んだ今の世の中では、労働問題が社会の問題として認識されやすい。これを活かして、ストライキの正当性を社会に訴えることができるのだ。

 社会へのアピールが成功し、「スト破り」に対する批判が集まれば、会社側も容易には労働者たちの要求を無視できず、労働組合側と真剣に交渉する方向に進みやすいだろう。

さらに強力な業種別ユニオンの力

 これまで日本の労働組合は企業別労組が中心であったため、企業を超えた連携ができず、「スト破り」に対抗するのが難しかった。だが、近年は個人加盟のユニオンが軸となり、職種別・業種別のユニオンが結成されることも多い。

 例えば、先ほども紹介したジャパンビバレッジのストライキを実行した総合サポートユニオンには、介護・保育ユニオンエステユニオン私学教員ユニオンなどが組織され、それぞれ業界の改善に向けて一定の成果を上げている。

 今回のストライキにたくさんの共感の声が寄せられたのは、働く人々を軽視する会社への不満を持つ労働者が多いことの現れでもあるだろう。

 自らの職業に誇りを持ちながらも、現在の職場環境や業界のあり方に疑問を感じているという多くの方に、労働組合やスト権を活用することによって状況を変えていくことができるということを知っていただきたい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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