南北会談の見どころは?韓国側は「全力」で臨む構え
1月9日に迫った南北会談。韓国からは異例となる統一部長官と次官の同時参席が明らかになる一方、北側の代表団も決まり、会談は閣僚級会談となる見通しだ。会談準備の現状と内容を見通す。
9日の会談開始の時間はまだ決まらず
会談をめぐる現在の状況は、6日午後、韓国側が代表団の名簿を書面(ファクス)で送り、7日に北側から代表団の名簿が届いた状態だ。
韓国側からは首席代表として趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官、4人の代表として統一部、平昌五輪主管部署の文化体育観光部、国務総理室、五輪組織委員会から各1名が含まれる。
北朝鮮側は、李善権(リ・ソングォン)祖国平和統一委員会委員長を団長とし、やはり4人の代表として、祖国統一委員会から2人、体育省、民族オリンピック組織委員会から1人ずつが参加する。
また、会談の時間は7日午後2時現在、決まっていない。
気になる議題についても「平昌オリンピックへの参加をはじめ、南北関係改善問題」という5日午前の北側の提案以上に具体化していない状態だ。
韓国メディア、野党からは議論百出
丸2年以上、758日ぶりとなる南北会談を控え、韓国メディアでも連日トップニュースとして扱っている。
地上波テレビ局のSBSは3日の夜8時のメインニュースを、板門店までわずか10キロしか離れていない統一大橋の前で放映する気合の入れ様だった。
報道の内容は、北朝鮮側代表団の人選から始まり、会談内容まで様々だ。北側は3日に会談受諾を発表した祖国統一委員会の李善権委員長を中心に代表団を派遣するという見方が強かったが、現実となった。
会談内容については、北朝鮮側の「揺さぶり」を憂慮する声が強い。今回の南北会談の発端となった金正恩氏による元旦の「新年辞」からが、米韓の足並みを乱すために「くさび」を打ち込む性格のものだという立場だ。
このため、平昌オリンピックを成功裏に開催させたい韓国の弱みにつけ込んでくるという見立てだ。
国際制裁に伴う外貨収入の減少をカバーするための「開城工業団地再開」や「金剛山観光再開」など無茶な提案をしてくるのではないかという意見が、保守系メディアを中心に散見される。
野党側も政府へのけん制を強めている。
核武装を党論として採択するなど、北朝鮮への強硬姿勢で知られる第一野党(旧与党)の自由韓国党は5日、論評で「南北会談では、北朝鮮の核の除去が前提とならない、あらゆる対話や交渉も朝鮮半島の平和に意味を持たないという認識がいる」と強調した。
「非核化」の目標を明確にせよ、という意見だ。さらに「北朝鮮の無理な要求を遮断せよ」としながら「米韓軍事訓練の延期も含め、平昌五輪を利用した北朝鮮の核開発完成のための時間稼ぎに引き込まれているのではないかと深刻に憂慮している」とした。
第2野党の国民の党もやはり、5日の論評で「南北高位級会談の順調な出発を歓迎する」としながらも「北朝鮮の無理な議題設定と要求に対する断固とした原則を堅持しなければならない」とした。
その上で「会談の成果を急ぐあまり、北朝鮮に引きずられる形の会談は徹底して遮断しなければならない」と「過度の期待は絶対に禁物」とクギを刺した。
統一部の「両エース」が会談に参加
こうした中で会談に臨む、文在寅政権の立場には並々ならないものがある。それは今回の南北会談の韓国側の代表団を見れば明らかだ。
代表として趙明均統一部長官、そして千海成(チョン・ヘソン)統一部次官も参加する。言わば南北関係を主管する統一部の「ツートップ」が直接、北側と交渉にあたる。
7日、統一部に筆者が問い合わせたところによると、統一部の長官と次官が一緒に参加するのは初めて。理由は「特に無い」とかわしたが、統一部の意気込みを計るには十分だ。
ここで二人の経歴を簡単に紹介したい。趙長官(61歳)は統一部で24年間を過ごし、2000年の金大中(キム・デジュン)大統領と金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の南北首脳会談に関わった。
さらにその後、軽水炉事業支援企画団政策調整部部長(04年2月~10月)、統一部開城工団事業支援団団長(04年10月~06年2月)を務めるなど、南北交流協力の実務の最前線に居続けた。
こうした趙氏の経歴について聯合ニュースは、「2001年から交流協力局長を務め、3代経済協力事業とされる開城工団事業、鉄道・道路連結事業、金剛山観光事業を軌道に乗せた『南北経済協力の生き証人』」と評している。
また、06年2月から08年2月まで、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下で青瓦台(大統領府)入り。大統領秘書室安保政策秘書官の要職に就き、07年10月の南北首脳会談の実現に大きく貢献し、首脳会談にも同席している。
08年に保守派の李明博大統領が就任した後は長きにわたり干されていたが、進歩派の文在寅政権になり、統一部長官として華麗に返り咲いた。林東源(イム・ドンウォン)元統一部長官とも近い。
一方の千海成次官(53歳)も「統一部最高の政策通」(聯合ニュース)とされる統一部のエースだ。9年続いた保守政権の中、統一部を支えた実務型の官僚の一人で、内部での人望も厚い。
金大中(キム・デジュン)政権下では外交安保首席室所属の行政官として、2000年6月の歴史的な南北首脳会談の実務に関わる一方、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下では2003年から2006年まで国家安全保障会議(NSC)の政策調整室に所属した。
その後統一部に戻り、07年10月の盧大統領訪朝時には統一部南北会談本部・会談企画部長として会談の成功を支えている。
趙長官とは異なり、朴槿恵政権下でも、発足直後の2013年6月に南北実務会談の韓国側代表として参加するなど、やはり南北の対話には欠かせない人物として重宝された。
2014年10月の仁川(インチョン)アジア大会閉幕式に北朝鮮の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長、崔龍海(チェ・リョンヘ)朝鮮労働党書記、金養建(キム・ヤンゴン)同統一戦線部長(いずれも当時)が「電撃訪問」した際にも、韓国側の代表団に名を連ねている。
南北会談の期待値は?専門家との一問一答
では実際、南北会談の見どころはどこになるのだろうか?
南北関係に詳しい、徐輔赫(ソ・ボヒョク)ソウル大学平和統一研究所研究教授は「離散家族再会がポイント」との見方を示した。
7日、筆者が電話インタビューを行った同教授との一問一答は以下の通り。
−会談の「期待値」についての見方は様々だが
“基本的には平昌オリンピックへの北朝鮮の参加を確定させると同時に、韓国側が図れる便宜、(政治家を含む)北朝鮮代表団の身分・安全の保障などが話し合われることになる”
−北側が提示した議題には「南北関係改善問題」もある
“そうだ。南北の間での相互関心事についても立場を整理することになる。これがどんな話になるのかが、今回の会談のポイントの一つとなるが、文大統領がこれまで数度言及している南北軍事当局会談と離散家族再開が現実的な線になるのではないか”
ここで触れられている「南北軍事当局会談と離散家族再開」とは昨年7月にドイツのベルリンでの「新ベルリン宣言」と呼ばれる演説を受け、同月に韓国国防部と赤十字社が北朝鮮側に提案したもの。南北軍事境界線部分での南北相互誹謗を中止し、2015年10月以降中断したままの離散家族再会事業を再開するというものだ。
一問一答を続ける。
−北朝鮮が韓国側の提案を受け入れる可能性は
“北朝鮮側が提案を受け入れる可能性が高いと見る。だが問題は、提案を受け入れる北側に対し韓国側が対価として何を提示するのかだろう。この点としては、離散家族再会の定例化と連係させ、金剛山での交流を一部で再開するという案がある”
具体的には盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領時代(05年)に着工し、李明博時代(08年)に完成した離散家族面会所を利用するということだ。この施設は金剛山にあるため、金剛山観光再開とも一脈通じる内容になるため、北側にとっても重要な提案となる。
−野党の反発が予想される。韓国側が核問題に触れるか
“そうだ。野党や世論の反発に対し、文在寅政府側にそれを突破する意志があるのか、そして現実問題として、この点でいかに準備をしてきたかにかかっている。一方の南北軍事当局会談は相互誹謗をやめようということなので難しくない。今回の会談で韓国側から核問題に触れることは無いだろう”
−統一部から長官・次官が出るのが異例との評価だが
“その通りだ。統一部から2人が出るというのは異例のこと。次官まで出てしまうと統一部長官と緊密にコミュニケーションを行い、統一部や関連部署との調整を行う人物がいなくなるという懸念がある。だがこの点は、青瓦台の統一政策秘書官である李徳行(イ・ドクケン)氏がやる(編注:前統一部報道官。南北対話のキャリアが長い)。こちらも実力は十分なので、心配はないとされる”
−なぜ二人も出るのか。統一部では「初めて」だという
“エースと言われる二人が出て行くというのは、文在寅政府側が今回の南北会談にかける意志の表れと見ていい。今回の会談を政権として重要視しているという北朝鮮側へのアピールではないか”
明らかになる南北関係の現住所
9日の会談まで、残る準備期間はわずかに過ぎない。ここでポイントとなるのは、元旦以前に、南北がどれほど会談開催に向けた下準備をしてきたかだ。
2日、北側に会談を提案した統一部の趙長官は「事前に北朝鮮側との交感は無かった」と、新年辞→会談提案に至るまでの水面下の接触を否定した。
文在寅政権発足から8か月。南北関係の現住所がいよいよ9日に明らかになる。