アマゾン時給2800円超 米で物流・配送部門の待遇改善と福利厚生拡充、リスキリングも
米アマゾン・ドット・コムは2022年10月、米国内の物流施設や配送部門で働く従業員の平均初任給を引き上げた。
人件費、今後1年で10億ドル増加
同社の時間給従業員の初任時の平均時給はこれまで18ドルだった。これを19ドル(約2800円)超にした。アマゾンによると、実際の支給額は職務内容や勤務地によって異なり、1時間当たり16〜26ドルの範囲になるという。今回の給与引き上げに伴い、人件費は今後1年で10億ドル(約1500億円)近く増えるとみている。
アマゾンは1年前の同じ時期にも賃上げを発表している。この時の初任時の平均時給は18ドル。契約時に一時金3000ドル(約44万円)を支払うほか、勤務時間帯によって時給を3ドル加算するというものだった。米労働市場の需給が逼迫(ひっぱく)する中、待遇改善で人員確保を図り、需要が急増する年末商戦の物流体制を整える狙いだった。
増えすぎた物流資源削減中
その一方で、同社は、新型コロナウイルス禍で増やしすぎた人員を調整し、コスト削減を進めている最中。アマゾンは年末商戦時の需要増と、最近の芳しくない業務実績とのバランスを取るという、難しい判断を迫られていると、米ウォール・ストリート・ジャーナルは報じた。
アマゾンは20年から22年3月までに倉庫や仕分センターなどの物流拠点を数百カ所新規に開設し、同期間に従業員数を2倍の160万人超に増やした。この施策が奏功し、売上高は20〜21年に60%以上増加し、利益は3倍近くに増えた。しかし、その後のEC(電子商取引)需要は同社の予測を下回り、物流資源が過剰になった。
これがその後の業績に大きく響いた。同社の22年1〜3月期決算は、売上高が前年同期比同7%増の1164億4400万ドル(約16兆8400億円)。1〜3月期として過去最高を更新したものの、伸び率は過去10年間で最も低い水準となった。直営EC事業の売上高は511億2900万ドル(約7兆3900億円)と同3%減少した。純損益は38億4400万ドル(約5600億円)の赤字で、15年1〜3月期以来7年ぶりの最終赤字に転落した。続く22年4〜6月期も20億2800万ドル(約2900億円)の赤字で、2四半期連続で最終赤字となった。
アマゾンは人員調整も進めてきた。新規採用を抑制することで、自然減による人員減少を促している。22年3月末時点で162万2000人だった世界従業員数(期間従業員を除く)は、22年9月末時点154万4000人となり、半年で8万人近く減少した。
余剰倉庫施設の削減も進めている。カナダのサプライチェーン・物流コンサルティング会社MWPVLインターナショナルによると、アマゾンは今年、発送センターや宅配ステーションなど計60以上の施設について、閉鎖したり、新設計画を中止・延期したりしている。
重要分野に集中投資
ただ、こうした中でも同社は大規模物流施設の建設プロジェクトを推進中だ。コスト削減を進めながらも、中核となる重要施設には投資を続けている。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、今回の賃上げも同様の施策だと報じている。給与上昇に加え、福利厚生を拡充することで、重要な年末商戦時の人員確保を狙っているという。
アマゾンは22年9月、配送ドライバーの待遇改善のために今後1年間に米国で4億5000万ドル(約660億円)を投じると明らかにした。
同社が起業を支援する「デリバリー・サービス・パートナー」と呼ぶ中小配送業者のドライバーを対象に、大学の学位などを取得できる教育プログラムや年金制度を提供する。前者では、1人当たり最大で年間5250ドル(約77万円)を支援する。
今回も、時給アップに加えて、教育プログラムを用意している。時間給従業員を対象に実施している「キャリアチョイス(職業選択)」プログラムの一環として、新たにアマゾン傘下のクラウドサービス事業、アマゾン・ウェブ・サービスのエンジニア職に就くためのリスキリングプログラムを提供する。
- (本コラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年9月30日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)