トランプ戦略のキーワードは「ニクソン」と「モンロー主義」だ
フーテン老人世直し録(422)
如月某日
トランプ大統領は15日、メキシコとの国境に「壁」を建設する選挙公約を巡り、議会の承認なしに費用を確保するため、「国家非常事態」を宣言するという「賭け」に出た。
メキシコとの国境から米国に麻薬や犯罪者が流れ込む現状は、国家にとって非常事態であるというのがトランプの主張だが、メキシコとの国境から米国に流入する不法移民は以前より大幅に減少し、また麻薬も正規のルートで持ち込まれているのが大半だと言われている。
壁を建設するより国境警備に力を入れる方が効果的と考える人も多いが、トランプにとっては支持者との約束である選挙公約の実現が優先される形だ。民主主義政治において選挙公約を実現することは基本中の基本だから、トランプが壁の建設にこだわるのには道理がある。
消費増税をしないと選挙公約して政権を奪った政党が、2年後に突然有権者を裏切り、一転して消費増税に転じたどこかの国の政党よりは、トランプの方が民主主義に忠実だと言える。
ただ「民主主義は多数決」と言うのは民主主義の一面に過ぎず、国民の過半数が支持した選挙公約が正しいという保証はない。だから国民から選ばれた議員たちが議会で熟議を重ね、その過程を国民にも理解させ、公約をよりよく修正することも民主主義の重要な側面なのである。
今回の場合、中間選挙で下院の過半数を得た民主党が壁の建設予算を認めず、予算が成立しないことからトランプ政権は政府閉鎖に追い込まれた。そうなれば国民の批判は民主党に向くと考えていたトランプに誤算があった。国民の批判はトランプに向かい、トランプは民主党に譲歩せざるを得なくなった。
そして政府閉鎖を避けるため共和党もトランプの主張より少ない予算でしか壁の建設を認めない。政府閉鎖を繰り返すわけにいかないトランプもその結論を承認するしかない。しかしそれでは選挙公約に違反する。そこで出てきたのが「国家非常事態宣言」である。議会の承認なしに予算の不足を確保するやり方だ。
トランプは軍事予算の一部を壁の建設費に充てる考えだが、そうなると米国の軍事予算に穴が開き、さらには「予算を決める権限は議会にある」という憲法上の問題にも波及する。民主党は激しく反発して法廷闘争の構えを見せており、共和党議員の中からも公然と反対する意見が出てきた。
トランプもそのことは織り込み済みである。15日の「国家非常事態宣言」発表の際に「裁判で負けるかもしれないが最高裁では必ず勝つ」と、この問題が長期戦になることを強調した。おそらく2020年の大統領選挙の前に決着がつかない方がトランプにとっても好ましい。
壁の建設を熱狂的に支持するのは宗教右派の勢力である。聖書に忠実な彼らはイスラエルの信奉者でもある。大使館をエルサレムに移転させたのも彼らだが、イスラエルがパレスチナとの間に壁を作ったのを見て、「国家は壁で守られる」との考えに凝り固まっている。
トランプは宗教など信じていないと思うが、選挙に熱心な宗教右派を利用しなければ権力は維持できないことは分かっている。従って壁の建設に自分は熱心だという姿勢を見せつつ、この問題を「塩漬け」にして結論が簡単に出ないようにしたのが「国家非常事態宣言」だとフーテンは考える。
選挙公約であっても議会で熟議を重ね、修正すべき点は修正していくのが民主主義政治だが、聖書原理主義の宗教右派にはそれが通用しない。今でもダーウインの『種の起源』を否定し、神が万物を創造したと信じる人たちを無視しては米国大統領になれないと考えたのがトランプだ。
だからトランプは壁の建設に熱心であることを宗教右派に見せるだけで支持を繋ぎ止め、2020年の大統領選挙には北朝鮮の金正恩と中国の習近平の協力を取り付け、やはり「北朝鮮の非核化」を前面に押し出すことで乗り切ろうとするのではないか。
フーテンは先日の「一般教書演説」や最近のベネズエラの動きなどからトランプ戦略を読み解くキーワードは「ニクソン」と「モンロー主義」だと考えるようになった。
民主党政権がはまり込んだベトナム戦争の泥沼から抜け出すためにニクソンが考えたのは共産中国との電撃和解である。東西冷戦という枠組みで世界を見ていた人にとっては衝撃の外交だった。
先日の「一般教書演説」の中でトランプは「終わりのない戦争はない」と言った。米国が現在行っている戦争を終わらせるために自分は大統領になったという意味だとフーテンは思った。ニクソンがベトナムから米軍を撤退させたように、シリアからもアフガンからも米軍を撤退させるのである。
そして朝鮮戦争も終わらせれば米軍はいずれ韓国からも撤退する。そうやって戦争を終わらせた米国は平和国家になるのかと言えばそうではない。そこで「モンロー主義」が出てくる。「モンロー主義」はよく「孤立主義」と解説されるが歴史の事実はそうではない。
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