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海底探査を開始するノルウェーに批判 海の鉱物ビジネスはパンドラの箱となるか

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
深海の未知数に開発の手を出し始めた人類(提供:イメージマート)

深海には野生動物だけではなく、さまざまな鉱物も眠っている。

ノルウェー政府は海底鉱物探査の解放を開放することを与野党の支持を獲得して5日に可決した。

海底には、風力タービンやソーラーパネル、電気自動車を作るために必要な重要な鉱物が含まれており、ノルウェー大陸棚には莫大な鉱物資源が眠っているとされている。

しかし、海底での採掘は、海洋環境にどのような影響を及ぼすか分からないという不確実性が高く、国内外の環境保護団体らから反対の声が上がっていた。

政府が探査のために開放を狙う海域は28万1000平方キロメートルで、バレンツ海とグリーンランド海に位置している。

これによりノルウェー鉱物採掘のために海底を大規模に開放する最初の国となる。

この計画が6月に発表された時は、探鉱調査が予想以上に深刻な環境影響をもたらすことが懸念された。そのため、採掘技術が環境、生物多様性、漁業などの他の商業活動に及ぼす可能性に関する知識の増加など、「環境への影響が持続可能で正当化できる特定の地域で採掘が許可されるように」、厳しい要件を追加した上での合意となった。

鉱床や深海の環境、種の多様性に関する知識を深めることで、将来の大きな価値創造に貢献し、新産業への投資に関する十分な予測可能性を業界関係者に提供するだろうと、政府は希望を持っている。

ノルウェー世界自然保護基金WWFは、「1970年以降だけでも、海洋生物の36%が姿を消している。鉱物を抽出するという目的のために、脆弱な深海の生態系を破壊するリスクを背負うことになる」と警鐘を発している。

他国からは反対の声

深海の生物多様性を研究する科学振興を目的とするノルウェー科学文学アカデミーのリーセ・ウヴレオス会長はノルウェーの研究ニュースサイトforskning.noでこう述べている。

「ノルウェーの研究者として国際的なフォーラムに参加するのは、今のところ恥ずかしい。政治家は科学者の言葉に耳を傾けない。BMW、ボルボ・グループ、グーグル、マイクロソフトでさえ、持続可能でありたいから海底鉱物を使いたくないと言っているのに、ノルウェーはブレーキをかけようとしない」

ブルームバーグ・ニュースによると、フランスは深海採掘の全面禁止を主張している。深海保全連合は深海には手を出すべきではないという慎重な意見は、20カ国以上の国連加盟国にもあるとしている。

The Guradian紙によると、フランスのエルヴェ・ベルヴィル海洋担当長官が「私たちは、その結果を十分に測定することができず、したがって海洋生態系に不可逆的な損傷を与える危険性があるときに、新たな産業活動に着手することはできませんし、してはなりません」と考えている。

「他国がやるよりノルウェーがやるほうがまし」「きっと環境に優しい方法がある」

北欧諸国は今、脱炭素社会に向けて、早急にグリーンシフトを進めようとしている。またフィンランドなどを始め、「中国やロシアに依存する形を避けるために、自国力を強めたい」と焦っている事情もある。

「持続可能かつ責任ある、事実と知識に基づいた海底鉱物資源の管理という点で、世界をリードする国になる」とノルウェー政府はやる気満々だ。

「ノルウェーは環境に優しい方法で採掘できると信じている」というのは、非常にノルウェーらしい理想だ。この考え方はノルウェーの石油生産政策にも反映されており、「世界的に見れば、ノルウェーで採掘するほうがまし・環境に優しい」というのが決まり文句である。

ここまでくると深海に産業開発の手が入る動きを止めることは難しいだろう。まだ前例もない中、いかにノルウェーは「自分たちのやり方が正しい」と証明していくのか。

深海に眠る「金の生る木」に目を光らす政治家と企業、環境破壊にさらに近づくと落乱し憤る人々。海底探査は新たな「パンドラの箱」となるだろうか。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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