Yahoo!ニュース

「販売ノルマ廃止して」 恵方巻の食品ロス対策を求める若者たち

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです(写真:アフロ)

 節分が迫る2月1日、若者らがつくる労働組合・SDGsユニオン(総合サポートユニオンの支部)が、コンビニ大手3社(株式会社セブンイレブンジャパン、株式会社ローソン、株式会社ファミリーマート)に対して、恵方巻の食品ロス対策を求める要求書を提出し、記者会見を開いた。

提供:SDGsユニオン
提供:SDGsユニオン

 背景には、毎年話題になる恵方巻の食品ロス問題が学生のアルバイトなど、労働者にとっても深刻な問題となっていることがあるという。

学生コンビニバイトが感じた「違和感」

 SDGsユニオン結成のきっかけは、現在もコンビニで働く大学生の片山みどりさん(仮名・20代女性)が抱いた職場での違和感についてのものだった。記者会見で片山さんは、おにぎりやサンドウィッチが大量に廃棄されていることや、食品廃棄作業がストレスで職場を辞めた人が周りにいることなど、職場での体験を語った。

提供:SDGsユニオン
提供:SDGsユニオン

 特に印象的だったのが、焼き鳥のセールの時に店内に張り出されていた各店舗の売上ランキングである。このランキングは、ある「地区の店舗が、焼き鳥をどれくらい売り上げたのかを1週間おきくらいに集計され、各店舗に配布されているもの」だと言う。そして、このような過剰な販売競争を煽る仕組みによって、店長はノルマ達成のために冷凍のままの焼き鳥をまとめて12本常連さんに買ってもらうように「営業」していた。片山さんはその光景をみて、なぜ、特に必要としていないお客さんにまで売りつけるようなことをしないといけないのかと疑問を抱いた。

 また、片山さんが働いているコンビニは大型施設内の店舗であるため24時間営業ではなく、20時閉店である。その閉店時間の4時間前に大量のパスタやおにぎりなどが搬入されてくる様子をみて、「売れ残るのになんで…」と疑問に思いながら、棚に商品を並べたという。

 さらには、仕入れを担当しているバイトの先輩は、「このピスタチオのスイーツ、あまり売れなさそうだけど、どうしても15個以上仕入れるようにって本部から言われちゃって…」と不満を漏らしていたとのことだ。

 このような職場の状況に対して、片山さんは食べ物が捨てられる前提で扱われていないことや、大手コンビニがSDGsを標榜しているにも関わらず食品ロスの問題に無頓着なことに対して、強い憤りを抱いたという。そして、記者会見の最後には、「大量に仕入れて、大量に捨てられていくことが、あまりにも当たり前な状況を変えるしかない」と強く訴えた。

 片山さんはNPO法人POSSEに相談を寄せたことをきっかけに、同世代のボランティアたちとSDGsを守らせるためのユニオンを結成することにした。片山さんの職場だけではなく、多くの職場で理不尽な食品ロスが起きていると考えだからだ。

 SDGsユニオンを2022年10月に結成され、オンラインアンケート調査署名活動などの取り組みをはじめている。

恵方巻の廃棄量を公表しないコンビニ大手3社に対して、申し入れ

 今回の恵方巻の食品ロス対策を求める申し入れに先だって、1月23日付けでSDGsユニオンは恵方巻の食品ロスに関する公開質問状をコンビニ大手3社に送った。その内容は、次の2点であり、1月30日までに各社から回答が出揃ったとのことだ。

【1】例年の生産工場と店舗で発生する恵方巻きの廃棄量について。

【2】恵方巻きの「販売ノルマ強要」、「買い取り強要」の実態について

 回答は、【1】の恵方巻の廃棄量については、3社とも公表していないとの内容であり、【2】恵方巻きの「販売ノルマ強要」、「買い取り強要」の実態については、3社とも本部として加盟店にノルマなどは課していないとのことだった。

 SDGsユニオンは、このような回答に対して次の3点を求めた。

 1点目が、恵方巻きの廃棄量に関する調査の実施と開示である。SDGsユニオンの荻田航太郎代表は、「毎年恵方巻の食品ロス・大量廃棄が問題になっているにもかかわらず、恵方巻の廃棄量を公表しないということは、廃棄が減っているのかどうか分からない」と指摘し、企業の社会的責任として、生産工場と店舗にてどの程度、恵方巻の食品ロスが発生しているのか調査し公表することを求めた。

 2点目は、食品ロスの大量発生につながる過剰な販売競争の実態に関する調査と公表である。本部として「ノルマ」や「売上ランキング」を各店舗に課していないとの回答であったが、SDGsユニオンによれば現場で働く労働者からの相談には、「ノルマ」や「売上ランキング」の実態や、そこから生じる「買い取り強要」といった深刻な労働問題が発生している。

 実際に、数か月前にも「お中元やお歳暮、恵方巻やクリスマスケーキなど行事毎に最低ノルマに達さなければ次の行事にその分もプラスして買わなければならないというノルマがある」といった声がアルバイトから寄せられたとのことだ。このような各店舗で生じている問題について、本部として調査、公表し対策をとるように、求めている。

 3点目は、食品ロスの大量発生を助長する「コンビニ会計」の廃止である。「コンビニ会計」とは、売れ残った商品の仕入れ原価・廃棄コストを加盟店が負担する仕組みであり、それが食品ロスを助長していると加盟店オーナーやジャーナリスト、研究者、国会議員などから指摘され、以前から問題になっている。

労働組合が食品ロスに取り組む意義とは?

 記者会見では、申し入れ内容とともに、この間SDGsユニオンが実施しているオンラインアンケート調査の中間報告も行われた。そこで紹介されていたのは、職場の食品ロスに対する労働者たちの葛藤である。例えば、「サラダチキンのセールのとき、40〜50個納品して、売れたのが2〜3個、残りは全て廃棄ということがあった」(コンビニ)。

 (誰かが持ち帰って食べられないようにするために)「廃棄する食品を中身が出るまで踏んづけて、原型がなくなるぐらいぐちゃぐちゃにしてから廃棄しないといけない」(コンビニ)。といった声が寄せられたとのことだ。

 この調査で明らかになったのが、職場の食品廃棄がストレスで退職した人が約4割にも上ることだ。(有効回答者61人中24人が「食品を廃棄するさいのストレスが要因で退職したことはありますか」という設問に対して「はい」と回答)。調査の回答者の中には鬱状態になっている人もいた。

 最後に、記者会見で荻田代表は、片山さんやオンラインアンケート調査の結果を紹介しながら、職場の食品ロス問題に直面した労働者の前には、現状「辞める」か「耐える」かという選択肢しかなく、どちらも食品ロスの問題解決に繋がっていないと指摘した。「辞める」場合には、その人は食品廃棄の苦しみから逃れることができるかもしれないが別の人が担うことになり、「耐える」という選択肢の場合、食品廃棄作業のストレスが大きく、苦しい状況は変わらない。

 そのような状況に対して、「声をあげる」という選択肢の重要性を荻田代表は強調した。アルバイトをはじめとする労働者が、食品廃棄作業を担っていることは、言い換えれば、労働者たちが食品ロスの最前線を担っているということである。そのような状況にある労働者たち自身が問題点を指摘し、食品ロス対策を企業に求めていく必要があると語った。

 今回の記事でも触れた「ノルマ」や「ランキングの設定」とそれに伴う「過剰な仕入れ」などは必ずしも「違法行為」ではない。しかし、それらが食品ロスを促していることは否定できないだろう。若者たちの訴えが業界に届くことを期待する。

【無料相談窓口】

SDGsユニオン

*今回の記事で紹介した労働組合です。主に学生アルバイトや若い社員たちが、フードロスなどSDGsに関する職場の問題に取り組んでいます。

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

ブラックバイトユニオン

TEL:03-6804-7245 (日曜日、13時から17時まで)

Mail:info@blackarbeit-union.com(24時間受け付けています)

*学生たちが作っている労働組合です。

仙台学生バイトユニオン

TEL:022-796-3894(平日17時~21時、土日祝13時~17時、水曜日定休)

Mail:sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の学生たちが作っている労働組合です。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

今野晴貴の最近の記事