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新たなトレンドになるか!?原宿でフルーツオレに人気が集まるわけ

三輪大輔フードジャーナリスト

原宿で人気を集めるフルーツオレ専門店とは

原宿でフルーツオレの専門店が人気だ。とはいっても、タピオカのようにフルーツオレというアイテムが人気を集めているわけではない。自分好みにカスタマイズしてパーソナライズされた一杯を楽しめたり、スマートフォン一台で購入できたりする“体験”を含めて、フルーツオレが受けているのだ。

その人気の発信地になっている店こそ、「The Label Fruit」だ。同店は2021年12月のオープン以来、いわゆるZ世代と呼ばれる若い女性を中心に話題を集め、連日多くの客が足を運ぶ。原宿で若者にヒットしているというと、アパレルや広告代理店などが仕掛けた店だと思う人もいるかもしれない。しかし、意外にも仕掛けたのは、株式会社Showcase Gigというシステム会社と、グローリー株式会社という機械メーカーだ。

原宿駅からすぐの場所にある「The Label Fruit」。ターゲットのZ世代を中心に、幅広い世代に利用されていて、同店を目当てに訪れる人も多い
原宿駅からすぐの場所にある「The Label Fruit」。ターゲットのZ世代を中心に、幅広い世代に利用されていて、同店を目当てに訪れる人も多い

Showcase Gigは「日常の消費に溶け込むテクノロジーにより生活を向上させること」をミッションに掲げ、モバイルオーダーサービス「O:der(オーダー)プラットフォーム」などの提供を行い、飲食店を中心に導入が進んでいる。一方のグローリーは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどのつり銭機をはじめ、駅のコインロッカーなどで高いシェアを持つ。飲食店向けに券売機やKIOSK 端末の導入も進めており、その数は業界シェア1位の約1万9000台に及ぶ。

つまり、両社とも飲食店の展開を主な事業にしているわけでもなければ、トレンドをつくるプロデューサーでもないのだ。それでも大ヒットさせることができたのは“体験”に軸足を置いた店づくりをしているからに他ならない。

ヒットの理由は〇〇に受けたから

The Label Fruitの利用の流れはこうだ。まずお客はスマートフォンで事前にオーダーを行う。同店のフルーツオレはベース、ミルクの種類、甘さ、トッピング、ラベルに入れる文字、ラベルカラー、背景パターン(模様)まで、それぞれ自分の好みで選ぶことができる。つまり、パッケージ化された商品ではなく、完全にパーソナライズされた一杯を楽しめるということだ。「HAPPY BIRTHDAY」や「HAPPY ANNIVERSARY」などの特別なラベルも用意されているので、プレゼントのために購入したり、シーズンイベントに合わせて来店したりする人も多い。

ベース、ミルクの種類、甘さ、トッピング、ラベルに入れる文字、ラベルカラー、背景パターン(模様)まで選べて自分だけの一杯をつくることができる
ベース、ミルクの種類、甘さ、トッピング、ラベルに入れる文字、ラベルカラー、背景パターン(模様)まで選べて自分だけの一杯をつくることができる

スマートフォンでオーダーした後は、受け取り時間に店に行く。店の前のサイネージに名前が表示されていれば商品が完成しているので、店内に入って、ロッカー左手の読み取り機にQRコードをかざす。するとデジタルアート演出とともに商品が入ったボックスの位置が表示され、自分がオーダーした品を受け取れるといった流れだ。

ロッカーにQRコードをかざすと、自分だけのデジタルアート演出とともに商品が入ったボックスが表示され、オーダーした品を受け取れる
ロッカーにQRコードをかざすと、自分だけのデジタルアート演出とともに商品が入ったボックスが表示され、オーダーした品を受け取れる

コロナ禍でモバイルオーダーやロッカーを活用する店が増えたが、多くの場合、それらが目的になっていた。しかし、同店ではさまざまなテクノロジーと連携し合いながらロッカーが効果的な手段となっている。その結果、スマートフォンで店舗ページにアクセスした瞬間からパーソナライズされた一杯を受け取るまで、ここでしか味わえない顧客体験がつくり出されている。今後、テクノロジーを使ってどのような提案をするかを考える際、同店が一つのモデルケースになる可能性は高い。

同店のキーワードは、パーソナライズだ。モバイルオーダーとスマートロッカーを活用し、その人だけの商品と体験を届けている
同店のキーワードは、パーソナライズだ。モバイルオーダーとスマートロッカーを活用し、その人だけの商品と体験を届けている

その体験だけでも十分に集客可能だが、同店の人気を牽引している要因は他にもある。それが“推し活”を楽しむ人たちの存在だ。彼女たちは、パーソナライズされた一杯という特徴を活かして、自分が好きなアイドルグループの“推し”の担当カラーや名前などを入れたフルーツオレを購入するだけでなく、写真を撮影したり、SNSに投稿したりして楽しんでいる。そうした利用も多いので、InstagramをはじめとしたSNSには同店のカラフルなボトルがたくさん並ぶ。

近年、飲食業界ではグルメサイトからヒット店舗が生まれづらい。その代わり、TikTokerやInstagrammer、YouTuberなどの存在が重要になっている。若年層にリーチしようと考えたら、なおさらその傾向が強い。そうした流れもうまくキャッチしているからこそ、ここまで流行る店舗がつくれたといってもいいだろう。

「The Label Fruit」が開いた可能性

「BOPIS」と呼ばれる店舗をご存知だろうか。BOPISとは、Buy Online Pick-up In Storeの略で、ネットで購入して店舗で受け取るサービスを指す。コロナ禍では、非接触などが推奨される観点から、そうしたタイプの店舗を実験的にオープンさせる取り組みが増えた。しかし、あまりにも無機質になってしまう店内空間や、サービスレスによる顧客体験価値の低下といった課題があり、世の中に普及するフェーズには入れていない。The Label Fruitは、そこにも風穴を開ける存在として関心を高めている。

壁にデジタルアートを映し出すプロジェクターや、店内のお客の様子を分析するAIカメラも設置され、新しいサービスの開発に活かされている
壁にデジタルアートを映し出すプロジェクターや、店内のお客の様子を分析するAIカメラも設置され、新しいサービスの開発に活かされている

現在、若い世代になればなるほど、モバイル一台で日常の大抵のことが完結するのが通常だ。彼らが求めているのは、パーソナルな体験に他ならない。SNSが生活の中心で、モノよりもコトの消費を好み、クリエイティブ思考が強いため総クリエイター世代とも言われている。これから新しい社会をつくっていくのは、彼らであることは間違いない。いわゆるZ世代をメインターゲットに据えた上で、原宿という若者文化の発信地でThe Label Fruitを成功させたという事実は、外食業界に大きな可能性をもたらす。

数年前、タピオカが流行したとき、タピオカというアイテムよりも“タピる”という「タピオカを飲む行為」がヒットしたと言われていた。The Label Fruitも、フルーツオレというアイテムではなく、テクノロジーによって高めた顧客体験がヒットしているので共通する点がある。こうした発想は応用可能だからこそ、次のヒットアイテムも何気ない商品がテクノロジーによって新たな価値付けされて生まれるかもしれない。

写真提供:株式会社Showcase Gig

フードジャーナリスト

1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。2014年10月に独立し、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。「ガイアの夜明け」に出演するなど、テレビ、雑誌などのメディアに多数出演。2021年12月には「外食業DX」(秀和システム)を出版するなど、外食の最前線の取材に力を注ぐ。

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