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今、繁盛する飲食店の条件は”驚安”!?居酒屋の「ポスト御三家」の強さの秘密

三輪大輔フードジャーナリスト
(写真:イメージマート)

ポストコロナ社会となり、リモートワークが当たり前になったり、「Uber Eats」をはじめとしたデリバリーサービスが普及したりと、私たちの暮らしも大きく変化しました。それは外食業界も同じです。新しい社会環境に合わせて、人気を獲得する飲食店が大きく様変わりしています。その一つが、「ポスト御三家」といわれる居酒屋です。今回は、なぜ今、ポスト御三家が人気を集めているのか、居酒屋業界の歴史を振り返りながらその理由に迫っていきたいと思います。

居酒屋御三家の誕生から新御三家への変化

そもそも居酒屋業界で「御三家」という言葉が使われ出したのは「養老乃瀧」と「つぼ八」「村さ来」の三社が隆盛を極めた頃です。三社が登場するまで、居酒屋は個人経営のお店が多かったのですが、御三家の三社はチェーンとして店舗を拡大。ピーク時は「養老乃瀧」は約1800店舗、「つぼ八」は約1000店舗、そして「村さ来」も約900店舗とかなりの店舗数を誇り、存在感を発揮しました。日本の居酒屋文化は1970年代以降、居酒屋御三家の発展に合わせて出来上がったといっても過言ではありません。

つぼ八の創業者の石井誠二氏は、ワタミ創業者の渡邉氏や、モンテローザ創業者の大神氏など、次世代の飲食人を育成したことでもしられている
つぼ八の創業者の石井誠二氏は、ワタミ創業者の渡邉氏や、モンテローザ創業者の大神氏など、次世代の飲食人を育成したことでもしられている写真:西村尚己/アフロ

しかし、90年代に入ってバブルが崩壊すると徐々に潮目が変わり、今度はワタミ、モンテローザ、コロワイドの「新御三家」が隆盛を極めます。各社の代表的なブランドの「和民」や「笑笑」「甘太郎」はいわゆる「総合居酒屋」と呼ばれ、駅前の一等地に大型店舗を構え、サラダや刺身、焼き鳥、揚物、つまみ、ご飯ものなど、幅広いメニューを提供しながら多様な客のニーズに応えていました。

御三家の頃は、「村さ来」が若者をターゲットにしていたものの、どちらかというと居酒屋はまだまだ男性のもので、ビジネスマンが多く利用していました。しかし、新御三家の登場で居酒屋が身近な存在になり、女性客が増えるとともに、お客の年齢層も一気に広がります。御三家でつくられた居酒屋文化を、新御三家がより発展させたといってもいいでしょう。

ただ、総合居酒屋は損益分岐点が高いビジネスモデルです。駅前の一等地なので家賃が高いのはもちろん、大型店舗なのでスタッフをたくさん抱える必要があったり、さらにメニューが多いので仕入れ数も膨大だったりします。そうした弱点がデフレ経済下で痛手となり、だんだんとその姿を見かけなくなりました。

東日本大震災を越えて人気を獲得した単一業態

2000年代に入るとマーケットは大きく変化します。特に大きな変化が2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災です。リーマンショック後、デフレの深刻化に合わせるように「金の蔵Jr.」などの単一価格で勝負する激安居酒屋が台頭したかと思うと、東日本大震災後、原発事故を契機に食への関心が一気に高まり、飲食店の専門店化が進みます。そこで存在感を高めたのが「鳥貴族」や「串カツ田中」「肉汁餃子のダンダダン」といった専門チェーンです。2014年7月10日に株式会社鳥貴族が東証ジャスダックに、2016年9月14日に串カツ田中が東証マザーズに、そしてダンダダンを展開する株式会社NATTY SWANKYも2019年3月28日に東証マザーズに上場するなど、一躍時代の寵児となり、今も店舗数を伸ばし続けています。

鳥貴族はリーマンショック後に増えた単一価格のお店の生き残りでもあり、単一業態で上場を実現するという外食業界の新しい流れをつくった企業でもある
鳥貴族はリーマンショック後に増えた単一価格のお店の生き残りでもあり、単一業態で上場を実現するという外食業界の新しい流れをつくった企業でもある写真:西村尚己/アフロ

次にマーケットが大きく変化したのがコロナ禍です。コロナ禍の真っ只中は「不要不急」の掛け声の下、日常からエンタメがなくなりました。そうした社会環境の変化もあり「焼肉ホルモン たけ田」や「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」といった、卓上にサワーサーバーを設置し、限られた時間で存分に楽しめる居酒屋が人気を集めました。

ポスト御三家の強さの秘密に迫る

そして、ポストコロナ禍となり、新しいタイプの居酒屋が台頭してきています。御三家の時代のように1000店舗近くの展開は、時代背景の違いから無理があるでしょう。それでも急速に店舗数を伸ばしており、「ポスト御三家」と呼べるほどの存在になろうとしています。それが「おすすめ屋」と「新時代」「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」です。3店に共通する特徴は、客単価が2000円ほどと、驚きの安さを誇っているということです。

創業は「おすすめ屋」を展開する株式会社おすすめ屋が2015年、「新時代」を展開する株式会社ファッズが2006年、そして「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」を展開する株式会社鶏ヤローは、2009年です。創業から本格的なブレイクまで時間があるということは、その間、業態を磨き続けており、その分だけ、独自の強みがあるといえるでしょう。

それを踏まえて、それぞれの特徴を簡単にみていきましょう。まず「おすすめ屋」は、2時間の食べ放題と飲み放題が付いて、2200円という価格設定が何よりの特徴です。同店は料理とドリンクで、それぞれ70品ほど用意していて、メニュー数を絞って低価格を実現しているわけではありません。そうではなく、テクノロジーを活用したデータ分析で徹底した効率化を進め、コストが高騰する中でも低価格を実現しているのです。価格のインパクトは大きく、比較的、家賃が安いといわれている2階以上の空中階でも集客に成功しています。

次に、新時代です。同店は愛知県名古屋市で誕生したブランドです。名古屋といえば、「コメダ珈琲」や「カレーハウスCoCo壱番屋」「ブロンコビリー」など、全国に名を轟かす有名な飲食チェーンが数多くあります。つまり、舌の肥えた名古屋人に評価されたら、全国でも勝負できるといってもいいでしょう。実際、新時代は名古屋で高い人気を獲得した後、東京に進出し、2018年6月にオープンした秋葉原本店では月商4250万円を叩き出しています。生ビール190円、看板メニューの伝串が50円ということを考えたら、その数字のすごさが分かるのではないでしょうか。2022年には100店舗を達成。現在、フランチャイズの加盟希望が増えていて、グループで500店舗の達成を目指しています。

最後に、「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」は、首都圏を中心に60店舗ほどを展開しているブランドです。同店もレモンサワーが50円、ハイボールが99円と、かなりの低価格を売りにしています。同店の特徴は、学生街の近くで出店を重ねていることです。中でも、早稲田大学が近くにある高田馬場店は、かなりの売上を誇っており、学生から高い支持を集めています。

飲食店の在り方には社会環境が反映される?

飲食店は社会を映す鏡です。東日本大震災やコロナ禍といった大きな変化があると、それぞれの時代に合ったブランドが誕生し、お客からの人気を獲得してきました。現在、人気を獲得しているポスト御三家は、ある程度の品質を保ちながら、低価格を実現している点が何よりの特徴です。その背景には、賃上げはあったものの物価高などの影響もあり、生活に余裕がない方が多いという理由が隠されているかもしれません。

今後、しばらく円安傾向が続く見込みで、企業の賃上げ以上に物価が上がるという予測もある
今後、しばらく円安傾向が続く見込みで、企業の賃上げ以上に物価が上がるという予測もある写真:つのだよしお/アフロ

また、現在、若者の間ではお酒を飲まないことが当たり前になりつつあります。つまり、飲み会をしたとき、飲む人と飲まない人が割り勘をすると不公正さが出てしまうということです。そうした背景もあり、ドリンクの値段が安く、料理も充実している居酒屋の人気が高まっている可能性もあります。

こうした動向は社会の大きな変化と結びついているため、ポスト御三家の勢いは、今後さらに増していくかもしれません。

フードジャーナリスト

1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。2014年10月に独立し、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。「ガイアの夜明け」に出演するなど、テレビ、雑誌などのメディアに多数出演。2021年12月には「外食業DX」(秀和システム)を出版するなど、外食の最前線の取材に力を注ぐ。

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