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「フードコート」が流行発信地になる深い理由とは?

三輪大輔フードジャーナリスト

ここ最近、フードコートや、フードホールの進化が目覚ましい。従来から、ショッピングモールや商業ビルにフードコートなどは入っていたが、施設ならではの特色を出し、集客装置としてより力強い役割を果たすケースが増えているのだ。精力的なリニューアルを行い、これまで以上にターゲット層に選んでもらえる場所づくりをしているケースも目立つ。

例えば、2024年6月24日に東京ドームシティ内にオープンした「FOOD STADIUM TOKYO」だ。FOOD STADIUM TOKYOでは11店舗の多種多様なグルメやお酒を、約480の客席で楽しむことができる。特に注目が高かったのが「新御茶ノ水 萬龍」だ。同店は「大阪王将」を展開するイートアンドホールディングスが運営する店舗で、FOOD STADIUM TOKYOに出展するまで1店舗しか展開していなかった。そうした希少性の高さもあり、FOOD STADIUM TOKYOとともに大きな話題を呼んでいる。

まるで異国のような“ネオ町中華”の世界観も人気の「新御茶ノ水 萬龍」
まるで異国のような“ネオ町中華”の世界観も人気の「新御茶ノ水 萬龍」

こうした背景を受けて、新たにフードコートへの参入を狙う飲食企業も多い。実際、従来の業態をフードコート用にブラッシュアップし、店舗数を伸ばすブランドもある。顕著なのがコロワイドグループの株式会社レインズインターナショナルが展開する「牛角焼肉食堂」だ。現在、同ブランドの店舗数は40を超えており、急成長を遂げている。同ブランドの一特徴は、「牛角」の味が定食や丼として1000円以下で楽しめる点だ。肉を使ったメニュー以外にも、冷麺やチゲなどをそろえ、幅広い世代に支持をされている。

牛角焼肉食堂で提供されている「牛カルビ焼き定食」
牛角焼肉食堂で提供されている「牛カルビ焼き定食」

もともとフードコートというと、構成ブランドが似たり寄ったりという課題があった。ファストフードや和食、中華、麺と、それぞれジャンルがかぶらないようにする必要があるが、知名度のないブランドだと集客に影響が出てしまう。結果として、有名チェーンのリーシングが優先され、フードコートによる差別化が難しくなっていった。そうした中、ブランド力があるにもかかわらず、フードコートでは真新しい「牛角」の名前を冠した「牛角焼肉食堂」の価値は高かったといえるだろう。

「牛角」側にとっても、フードコートへの出店はメリットが大きい。そもそもコロナ禍以降、新規参入プレイヤーが増えたこともあり、焼き肉業界は激しい競争にさらされていた。そして今、原材料費の高騰などの影響を受けて、苦しい経営を強いられている店舗が増えています。しかし、フードコートなら、ホールの人件費を削れるだけでなく、集客も施設の力に委ねられるため、多くのコストが削減できる。テナント料がかかるものの、安定した集客を見込める施設であれば、それなりの売上と利益を確保し続けられるだろう。

一方で、フードコートを運営する側の課題を、もっと直接的に解決しようという動きもある。代表的なのが、株式会社ぐるなびが手掛ける「GURUNAVI FOODHALL WYE」だ。同プロジェクトでは、ぐるなびが商業施設の飲食エリアを、コンセプト設計から店舗構築、フロア運営まで総合的にプロデュースし、それぞれのニーズに合わせて複数の出店形式でサービスを提供している。「地域の食の発信 新たな『おいしい』に出会える場所。」という共通コンセプトのもと「GURUNAVI FOODHALL WYE」の名称で全国展開を進めていて、天文館(鹿児島県鹿児島市)、栄(愛知県名古屋市)、天空橋(東京都大田区)、新宿(東京都新宿区)、八戸(青森県八戸市)、日立(茨城県日立市)、そして広島(広島県広島市)の商業施設の飲食エリアをプロデュースしてきた。2024年10月には「パークタワー勝どきミッド」(東京都中央区)でのオープンも控えていて、今後、さらなる展開の加速が予想される。 

この他にも、株式会社favyが「re:Dine」というシェア型フードホールを展開し、徐々に存在感を高めている。同社は23年8月にオープンした「汐留横丁」(東京都港区)でも、抵コストでスモールスタートできるモデルを開発し、商業ビル「カレッタ汐留」ににぎわいを生むスポットをつくり出している。

運営側は、どのブランドをリーシングすればいいのかわからないのはもちろん、運営自体が負担の場合も多い。しかし、高い専門性を持つ企業に一括で任せることで施設の価値をスムーズに上げられるため、こうしたニーズは高まっていくだろう。将来的に、複数のブランドを展開する飲食企業が、フードコートを一括で運営、管理する方法が主流になる日も近いのではないだろうか。

フードジャーナリスト

1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。2014年10月に独立し、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。「ガイアの夜明け」に出演するなど、テレビ、雑誌などのメディアに多数出演。2021年12月には「外食業DX」(秀和システム)を出版するなど、外食の最前線の取材に力を注ぐ。

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