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“医療者”と“患者”はわかりあえない?!~ポジティブな言動が、相手にポジティブな影響を与えている

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:アフロ)

 「ダカラコソクリエイト(カラクリ)」(大阪市)が、12月に医療者と患者のすれ違いをテーマにした企画「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」のアンケート結果を発表した。

 「ダカラコソクリエイト(カラクリ)」は、「がん経験者の視点を新しい価値に変えて社会に活かす」をテーマに、社会に対して、がん経験者、すなわち社会課題の当事者「だからこそ」できることを模索し、クリエイティブな発想で形にしていくソーシャルデザインプロジェクトとして2015年9月に発足したもので、20~40代の働く世代の意欲的なサバイバー約50名で活動している。

 この活動の一環として、 2018年9月25日から10月14日にWEBアンケートを行い、患者228人、医療者88人から回答を得た結果をまとめて発表した。

・相手の言うことはわかったが、自分の言うことはわかってもらえていない?

 「わかってもらえなかった」、「うまく伝わらなかった」と感じたことが、「よくあった」と「ときどきあった」の回答を合わせると、 医療者は64.7%、患者は57.9%となり、双方ともに「自分の伝えたいことがうまく伝わっていないと感じているようだ。

出典:ダカラコソクリエイト「「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」アンケート
出典:ダカラコソクリエイト「「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」アンケート

・伝わらないと感じている内容が医療者と患者で違う

 しかし、伝わらないと感じている内容を尋ねると、双方の回答には違いがみられる。医療者は、患者が「事実を正しく受け入れてもらえない」、 「都合のいいように解釈される」という回答が多くなっている。 一方で、患者は「不安や辛さが伝わらず、結果納得した対応がしてもらえない」、「話を聞いてもらえない」、「説明不足」などが多くなっている。特に「辛さや痛みなどの症状をうまく説明できない」など、患者からの気持ちや症状などの伝達が難しいと感じているようだ。

・お互い努力はしている

 患者が「説明が難しい」と感じていることに対して、医療者の95.5%が「平易な言葉を使う」などの取り組みを行っており、一方、医療者が患者の「話がまとまっていない」と感じていることに対して、患者の68.8%は「伝えたいことをメモしておく」など、双方コミュニケーションの重要性は認識されており、それぞれ努力をしていることもアンケートから浮かび上がってきている。

出典:ダカラコソクリエイト「「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」アンケート
出典:ダカラコソクリエイト「「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」アンケート

・ポジティブな言動が、相手にもポジティブな影響を与える

 日常でもそうだが、相手からのポジティブな言動は、当事者をポジティブにさせる。「嬉しかった」、「支えになった」言動が「よくあった」、「ときどきあった」を合わせて医療者は96.6%、患者は89.5%とほとんどの人が経験している。

 患者は、そうしたポジティブな言動があった相手(医療者)は、「医師」単独(26.8%)よりも「 医師+看護師+その他」(41.2%)の方が多く、「看護師」からの言葉や対応が大きく影響していると考えられる。

 具体的な記述からは、患者にとっては「大丈夫」、「頑張りましたね」、「一緒に頑張りましょう」といった言葉。医療者にとっては、「感謝の言葉」がそれぞれ大きな支えになっていることが理解できる。一方で、理不尽な経験をし、逆により保守的になったとする医療者、思いを伝えなくなったとする患者もみられた。

出典:ダカラコソクリエイト「「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」アンケート
出典:ダカラコソクリエイト「「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」アンケート

・同じ対応でも受け取る側の状態などで異なる感じ方

 患者の回答からは、同じ対応でも受け取る側の状態などで異なる感じ方をすることが理解できる。例えば、医療者が淡々とした説明を行ったことに「ショックを受けた」と感じた患者がいる一方で、「医療者に自信を感じて不安を払拭された」と感じる患者もいる。

 しかし、医療者の柔らかな伝え方に「聞いたことにちゃんと答えてくれない」と不満を感じる患者がいる一方で、はっきりした回答に「希望を失った」と感じた患者もいる。

・知識や経験、そして価値観の違いによる「視点・視界の差」

 「ダカラコソクリエイト(カラクリ)」発起人で、自身も闘病経験のある谷島雄一郎氏は、「患者は、今の自分の様々な症状が気になる。そして、自分がこれからどうなるのか人生について悩む。一方で、医療者は治療の先が判っている。なので、治療を行うための優先順位を付ける対応が、時に淡々としているように見えてしまうのです」と説明する。

 谷島氏らは、「働く世代」のがん経験者の社会参加を、「当事者」の視点から考えようと取り組んでいる。「がんになった時、やはり人によって考え方は異なります。職場で広く知ってもらいたいと考える人もいれば、必要最低限の担当者だけに知っていてもらいたいと考える人もいます。今回のアンケートの結果も、なにかこれが正解だというものがあるわけではなく、医療者と患者双方に知識や経験、そして価値観の違いによる視点・視界の差というものがあるのだということを多くの人に知ってもらえれば」と話す。

・地域社会や地域経済の活性化にとっても、疾病や障害を抱えながら働こうと考える人たちを受け入れることは、非常に重要

 がんなど、かつては不治の病、死の病と考えられてきたものが、様々な治療法によって、完治されたり、あるいは闘病しながらでも社会生活を継続できるようになっている。患者は仕事を続けたいし、企業側もできるだけ、それを受け入れようとしている。そのためには医療者による支えも重要だ。

 一方、インターネットの普及などによって、一般の人たちでも医療情報に容易に接することができるようになっているが、一方で玉石混交の情報を選別できず、医療者を困惑させ、疲れさせることも多くなっている。医療者と患者の間のコミュニケーションは、そのためにも、より重要になっている。

 若年世代のがんサバイバーの増加や、何らかの疾病を抱える中高年齢層が多くなる中で、企業側も無関係ではいられない。さらに、地域社会や地域経済の活性化にとっても、疾病や障害を抱えながら働こうと考える人たちを受け入れることは、非常に重要なこととなっている。そういった視点に立てば、今回のアンケートは、医療者、患者だけではなく、多くの人たちにとっても様々な意味で参考になるだろう。

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「わかりあえない?!“医療者”と“患者”よりよい関係を築くために…」アンケート

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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