『ドラゴンボール』で悟空が行った「重力100倍」の特訓は、どれほどすごいのか!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
『ドラゴンボール』のフリーザ編に、忘れられないエピソードがある。
悟空が人工重力発生装置を使って「重力が地上の100倍」という環境を作り、壮絶な特訓を行ったのだ。
人工的に重力を増減させる装置など、人類はまだ開発できていないから、ちょっと羨ましい……とも思うが、冷静に考えると恐るべきことである。
重力を100倍にしちゃって大丈夫なのか? 空想科学的にも興味深いこのエピソードについて考えてみたい。
◆不眠不休の特訓
悟空がこの修行を決意したのは、深刻な必要に迫られていたからだ。
ベジータとの激闘で、悟空は重傷を負い、多くの仲間が命を落としてしまった。生き返らせるためには、ナメック星にドラゴンボールを取りにいくしかない。
そこで、クリリン、息子の悟飯、ブルマの3人が、先に宇宙船でナメック星に向かい、悟空は傷を治してから追いかけることになった。ナメック星では、激しい戦いが予想されるため、悟空は強くなっておく必要があった……というのが、このエピソードの背景だ。
悟空は、自分の乗る宇宙船に人工重力装置を搭載してもらい、地球を飛び立つと、まず重力を20倍にして修行を始めた。慣れてくると、30倍、50倍……と強くしながら、不眠不休で自らを追い込む。
そして5日後。ナメック星に着く直前には、100倍の重力下でも、自由に動けるようになっていた……!
などと書くと、なんだかお手軽な特訓のようにも思えますなあ。だが、本当にやろうとしたら、あまりにも大変である。
◆あらゆる物が重さ100倍に!
重力や遠心力の強さを表す単位「G」。地上の重力と同じなら1G、100倍なら100Gだ。
出発前、人工重力装置を開発したブルマの父はこう警告した。
「100Gといやあ なんだよ 60キロの体重だったら6000キロになっちまうんだよ! 6tだよ! 死ぬよ ふつうだったら」。
そのとおりでしょうなあ。100Gのもとでは、すべてのものの重さが100倍になる。鉛筆一本が400gになり、消しゴム一個が2kgになり、250gのスマホは25kgにもなるのだ。
自分自身の体重も、ブルマの父が指摘するように100倍になる。
人間の太ももの骨は、片足で800kgの重さに耐えるし、カルシウムを摂取してトレーニングすれば、1.5倍ほどに強化できるともいう。それでも体重が6tにもなれば、どれほど筋肉を鍛えていても、確実に骨折するだろう。
ただし、悟空はサイヤ人。なんらかの方法で、骨も100倍ぐらいに強くなったのかもしれないが……。
◆壮絶すぎる100Gの世界!
100Gの重力下で起こることは、それだけはない。過酷な事態がいくつも考えられるのだ。たとえば――。
その1・落下の衝撃が100倍に!
これは、同じ高さから落ちても、100倍の高さから落ちたのと同じダメージを受ける、ということだ。たとえば、高さ20cmの段差を降りると、高度20mから落ちたのと同じ衝撃。並の人間なら、階段を下りただけで命を落としますなあ。
その2・落下のスピードが10倍に!
物体を同じ高さから落としたとき、速度は10倍になり、落下にかかる時間は10分の1になる。何かにつまずいて転ぶ場合も、それは同じ。
たとえば、身長170cmの人が地球上で転ぶと、つまずいてから0.42秒後に時速15kmで地面にぶつかる。ところが100Gだと、時間は10分の1の「0.042秒後」に、速度は10倍の「時速150km」になる。あ、転んだ……と思ったら、手を突くヒマもなく、顔面を大強打。その衝撃は、高速道路での事故クラスだ。死にますなあ。
その3・血液が体の低いところに集まる!
10Gを超えると、その影響で、脳に血液が不足したり、血液が集まりすぎたりして、失神するといわれる。100Gになると、失神どころか、血液を送り出す心臓にもモノスゴイ負担がかかり、これもやっぱり命を失うでしょうなあ。
◆修行の成果がすごすぎる!
というわけで、確実に死んでしまいそうな重力100倍だが、それはもちろん普通の人間の場合。われらが悟空は、5日間の修行でとてつもないレベルに達していた。
100Gの重力下、右腕1本で逆立ちして、その右腕だけで2mほどジャンプしたのだ。これ、地球上なら、右腕だけで200mジャンプできるということだ。
そんなことができるとは、悟空はどれほど己を鍛えたのか。
前述のジャンプの直前、右腕を10cm曲げたとすると、そこから地上で200mジャンプできるヒトは、腕は体重の200m÷10cm=2千倍の力を出せることになる。悟空の体重が60kgなら、片手の腕力が120t!
体操選手のなかには、片手で逆立ちできる人がいるが、その体勢からジャンプはできないだろう。つまり、人間は鍛えても、片腕で体重を支えるくらいが精いっぱいなのに、悟空は自らをその2千倍にまで鍛えたのだ。
その後、悟空は人工重力装置のスイッチを切って、どれほど強くなったかを確かめた。野球ボールほどの石を水平にぶんっと投げ、シャッと走って、自分の投げたボールを追い越し、パシッとキャッチしたのである。
悟空の表情から、普通の人間が時速80kmで投げる程度の力を入れていたと考えよう。すると、実際にはその2千倍の力がこもっていたはずで、速度は45倍となり、時速3600km。その石をキャッチできたということは、悟空は時速3600km以上で走れるようになったわけだ。これはマッハ2.9であり、100m走のタイムは0秒1!
う~ん、あまりにすごくて、もう人間の理解を超えておりますね、重力100倍特訓。
普通の人なら確実に死ぬので、もしあなたが人工重力発生装置を手に入れても、決して実行しないようにしましょう。