台風第30号、フィリピンへ 中心気圧「895hPa」は3年ぶり
今年は台風の発生数が非常に多くなっています。すでに平年の年間発生数を上回り、19年ぶりに第30号の発生に至りました。この台風第30号はフィリピンの東の海上を発達しながら西へ西へと進み、きのう(11月7日)の夜21時からは、中心気圧895hPaに(速報値)。900hPa未満(800hPa台)にまで発達するのは、2010年の台風第13号以来、約3年ぶりのこととなります。
台風の中心気圧はどうやって決める?
観測点のほとんどない海上を進む台風の中心気圧は、主に気象衛星の画像からの分析で推定します。日本では気象庁が北西太平洋の熱帯低気圧(台風のタマゴ)の監視を国際的に担っており、最大風速が17.2m/s以上に達したものを「台風」としています。この風速の推定にも気象衛星の画像が重要な解析手段として使われます。
アメリカの気象学者ドボラックが、衛星画像から得られた雲のパターンから、熱帯低気圧の強度(最大風速や中心気圧など)を推定する方法を考案し、これを「ドボラック法」と呼んでいます。日本の気象庁でも、多少の修正を加えてはいるものの、これをもとにして台風の中心気圧の決定(推定)を行っています。
800hPa台の台風は珍しい?
1980年代半ばまでは、飛行機が台風の中に飛び込んで観測機器を投下し、実際の中心気圧を測定する時代がありましたが、現在は定期的なものは行われていません。
ドボラック法は、過去の台風事例から得られた統計的な手法ですので、過去事例が少ないような極めて強力な台風については、ある面では推定に多少の誤差が生じてしまう懸念があります。飛行機による観測がなくなり、ドボラック法による解析が主力となってからの台風について、中心気圧が920hPa以下まで下がった(強まった)台風が減少している、との研究結果もあるくらいです。
確かに、ドボラック法のみで900hPa未満と文句なしで解析ができるのは、かなり限られた場合のみのようです。また、過去の台風のデータを見ると、中心気圧が800hPa台まで下がったものは2000年代に入ってからはわずかに2つ(今回も含む)。1980年代の10年間では9つもあったことから考えると、800hPa台にまで発達して解析される台風は最近ではとても珍しい、と言えます。
極めて強い台風の発生数が単に本当に減っているのか、それともドボラック法という推定手法によるものなのかは、なかなかハッキリとは分かりませんが、今後の研究の進捗を待ちたいと思います。
台風第30号の今後の見通し
気象庁によると、台風第30号の今回の「895hPa」は総合的に判断して、とのこと。今回は、台風の周辺の観測点では測器の破壊事例もあった模様です。実際の観測値として800hPa台が観測されたわけではないものの、測器が壊れるほどの過去事例などに基づく「状況証拠」や、ドボラック法による推定、周辺で観測されている風速分布も全て含めて、科学的に総合的に判断して「895hPa」との解析をした、という話でした。
台風は今後、フィリピン中部をさらに西へ進み、南シナ海へ抜ける見込みです。8日は、フィリピンでは中部中心に猛烈な暴風雨に見舞われていると考えられます。NASA(米国航空宇宙局)の衛星観測部局は、「過去の観測史上、最も強烈な熱帯低気圧のひとつ(one of the most intense tropical cyclones ever observed)」と評するほどで、被害が懸念されます。来週初めにはインドシナ半島に接近するおそれがあり、この方面でも一層の警戒が必要になります。
今後、進路を日本へと向けることはまずなさそうですが、東南アジア方面に関係のある企業の方や船舶関連の方などは、今後の台風情報に十分な注意が必要です。
(参考文献・ウェブサイト)
◆デジタル台風:台風画像と台風情報(国立情報学研究所)
◆日本気象学会 2005年春季大会 予稿集
「ドボラック法による台風観測の問題点について:台風は本当に昔より弱くなったのか?」(森田正光、渡辺正太郎)
◆気象庁台風情報(最新の予報をご確認ください)