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「イノウエはずっと過大評価されている」死闘を制したネリが打倒モンスターを高らかに宣言

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ネリvsホバニシアン(写真:Cris Esqueda / GBP)

どつき合いに決着をつけたネリ

 試合をメキシコに中継したTVアステカのコメンテーターは言った。「イノウエの姿が見えてきた……」

 18日(日本時間19日)米国ロサンゼルス郊外ポモナのFOXシアターで行われたWBCスーパーバンタム級挑戦者決定戦はランキング1位ルイス・ネリ(メキシコ)が2位アザト・ホバニシアン(アルメニア)に11ラウンド1分51秒KO勝ち。WBC王者でWBOとの統一王者スティーブン・フルトン(米)への挑戦権を獲得した。

 「このカードはファイト・オブ・ジ・イヤー(年間最高試合)になる」とプロモーターのゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)が売り込んでいたようにネリとホバニシアンは終始、激しいパンチ交換、どつき合いを展開。スコアカードも8回あたりまで拮抗し、顔面を血で染めるホバニシアンが引き離す様相もあった。しかし10回、一瞬の隙を突いてダウンを奪ったネリが続く11回、レフェリーストップに持ち込んだ。

 ネリ(34勝26KO1敗)の勝因はパンチを被弾する回数が多かったものの、決定打を回避し、最後はサウスポーとして地力の差を見せつけたことだろう。と言っても中盤、ダメージを受けるシーンがあり、ボディーを攻められて失速する場面も見られた。KO負けを喫したブランドン・フィゲロア(米=前WBC世界スーパーバンタム級王者)戦が頭をよぎったが、ホバニシアン(21勝17KO4敗)がフィゲロアほどの強打者でなかったことも味方した。また前日(17日)の計量をスーパーバンタム級リミットの122ポンド(55.34キロ)でクリアしたネリは同日の夜にはスーパーライト級リミットに近い139ポンド(63.05キロ)まで増量していたという。それがパワーアップにつながり、相手のパンチに対する耐久力を増強したのかもしれない。

ヤマナカを倒したようにイノウエも沈める……

 勝利後、リング上のインタビューで「(結果に)満足している。ハードな試合だった。ファンにノックアウトを披露できてうれしい。アザトは素晴らしい選手だった」と優等生のコメントを発したネリは、待望されるフルトンvs前バンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)に関し「(勝者に)挑戦する準備ができていると思う。モチベーションの高まりを感じる」とまずは抑え気味の発言。しかし所属するメキシコの「サンフェル・ボクシング」がフェイスブック発信用に控え室で行ったインタビューでは久々に“ネリ節”を全開させた。

 ホバニシアンのことを「パワーは尊敬できるものだったけど、すごい強打者というほどではなかった。それでもかなり攻略が難しい相手だった。3,4ラウンドでカットを負わせ、5、6ラウンドあたりでKOしたかった。試合が長引いたのは相手が強かったせい」と分析。そして「これで2度、挑戦者決定戦で勝ったから万全だろう」と昨年2月のカルロス・カストロ戦(ネリの判定勝ち)にも触れて挑戦スタンバイをアピール。

 「フルトンか井上か?」と聞かれると「イノウエだ」と即答。「ポルケ?(なぜ)」と問われると「イノウエの仮面を剥いでやりたい。仮面を脱げば彼はミニサイズのモンスターだ。以前も言ったようにイノウエは実際の値打ちよりもずっと過大評価されている。なぜかというと、彼は世界的な強豪と戦っていない。そこに俺が入り込む余地がある」と豪語。徐々にテンションが高まる。

 「きょうの試合で自分の才能、規律の正しさ、ボクシングへの情熱を披露した」と言い切るネリ。極めつけは「イノウエは日本での試合が続き、アメリカに来なくなったが……?」と聞かれると「いいじゃないか。俺が日本へ行く。ヤマナカを倒したようにイノウエも沈めてやる」とビッグマウスを炸裂させた。

 ネリが山中慎介(元WBC世界バンタム級王者)との第2戦後にJBC(日本ボクシングコミッション)から通達された永久処分はもちろん、まだ有効だ。ネリとサンフェル・ボクシングはそれほど真剣に受け止めていると思えないフシもあるが、今のところネリが日本のリングに登場することは不可能。簡単に解除できる問題ではない。今回のホバニシアン戦の前も「ネリが負ける、できれば惨敗するところを見たい」と要望するファンは国内外を問わず多かったようだ。

試合前、控え室で入念なウォームアップをするネリ(写真:Zanfer Boxing)
試合前、控え室で入念なウォームアップをするネリ(写真:Zanfer Boxing)

ネリvsカシメロのヒール対決?

 試合後の発言でますますファンの反感を買いそうなネリだが、ホバニシアンとの死闘を制したことで、商品価値はかなりアップしたとみる。「もしフルトンと対戦したら、軽くあしらわれてしまうだろう」、「イノウエとはやらない方が賢明。ボディーブローの犠牲になることは目に見えている」といった意見が米国やメキシコのファンの間で飛び交っているが、まずは試合内容で魅せたことが大きい。「第9ラウンドはラウンド・オブ・ジ・イヤー(年間最高ラウンド)候補」(リング誌のホームページ)という報道も見られる。

 何はともあれ、フルトンvs井上が締結し井上が勝つことが前提になるが、次にネリが控えているというシナリオは単純に言っておもしろい。もう一人のヒール、ジョンリール・カシメロ(フィリピン)との対決と比肩するか。いや、実現すればそれ以上の刺激を及ぼすだろう。

 アメリカに住んでいるカシメロの関係者に聞いたところ、ネリとの一戦を望んでいたという。いや、それは現在進行形とも受け取れる。モンスターを取り囲む陣容は、フルトンが先頭に立つ状況から、もう一人の2団体統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)そしてネリ、カシメロが後続グループを形成して虎視眈々と金的に狙いを定める。過去のスキャンダルはぬぐえないにしても「井上vsネリ」は観戦意欲を刺激して止まないゴールデンカード。怪物退治に躍起になる役者たちから目が離せない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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