タリバンと手を組む中国――戦火のアフガニスタンを目指す3つの目的
- 米軍がアフガニスタンから撤退を進めるのと入れ違いに、中国はタリバンとの協力を深めている。
- そこには「一帯一路」に基づく経済的利益、ウイグル締め付けの強化、そして大国イメージの強化という3つの目的が見出せる。
- ただし、「火中の栗」を拾おうとする中国には大きなリスクもある。
米国が撤退を進めるアフガニスタンに、入れ違いのように中国がアプローチを強めることには、「一帯一路」構想を進めるだけでなく、ウイグル問題への対応、さらに「米国を超える大国」のイメージ化という3つの目的があげられる。
タリバンを迎えた中国政府
コロナと五輪の報道で埋め尽くされた日本のメディアではほとんど報じられなかったが、中国政府の王毅外相は7月28日、アフガニスタンのイスラーム勢力タリバンの代表団を北京に迎えた。この代表団にはタリバン創設者の一人で、外交を統括するアブドゥル・ガニ・バラーダル氏も含まれ、タリバンにとってかなり重要度の高い外交使節といえる。
今回の会談は中国側の招待で実現したと言われ、王毅外相は会談で中国が「アフガニスタンにおける和解と再建のプロセスで重要な役割を果たすこと」を約束した。これに対して、タリバンのスポークスマンはTwitterで「二国に関係する政治、経済、安全保障の問題や、アフガニスタンの現状や和平について話し合われた」と認めている。
現在のアフガニスタンは大爆発する直前にある。
昨年2月、米国はタリバンとの和平合意に調印し、約20年に渡るアフガン駐留を終わらせることに合意した。米軍は今年5月から撤退を開始している。
しかし、それと並行してタリバンは軍事活動を活発化させており、7月初旬までにアフガニスタンの85%を実効支配するに至った。これは2001年の9.11後、米軍の攻撃でタリバンが首都カブールを追われて以来、最大規模となっている。
このようにアフガン全土で戦火が拡大するタイミングで、中国があえてタリバンに熱心にアプローチすることには、大きく3つの目的が見出せる。
「一帯一路の穴場」アフガニスタン
第一に、アフガニスタン接近は中国政府にとって「一帯一路」というパズルのピースを埋める作業になる。
長らく戦乱が続いてきたアフガニスタンは、国際的に「援助」の対象ではあったが、ビジネスの対象にはなりにくかった。また、これまでのアフガニスタン政府は中国主導の「一帯一路」国際会議に代表団を送ってこなかった。
しかし、タリバンが攻勢を強め、全土を掌握すれば、「国家再建」のためのインフラ整備などで中国が投資を増やす余地が広がる。それは中国政府にとって「一帯一路」構想の空白地帯だったアフガニスタンに一気に進出し、イランやパキスタンとのルートを拡大させる足がかりになる。
ウイグルの締め付け
第二に、新疆ウイグル自治区での反政府運動の取り締まりを強化することだ。
新疆ウイグル自治区に多いウイグル人のほとんどはムスリムだ。そのため、1990年代から断続的に続いてきた新疆での反政府運動の参加者のなかには、イスラーム武装組織に吸収される者も少なくない。実際、2014年にシリアで「建国」を宣言した「イスラーム国(IS)」には中国から5000人が参加したといわれる。
なかでもアフガニスタンは中国と隣接することもあり、「タリバンに加わるウイグル人」は2000年代から報告されてきた。
米国との和平合意をきっかけに、タリバンは「他国を攻撃する者にはアフガニスタンの土地を使わせない」と言明してきた。それは主にアルカイダなどの国際テロ組織についての文脈で語られてきたことだ。
しかし、今回の外交団は「中国に敵対する者にはアフガニスタンの土地を使わせない」と踏み込んだ表現をしている。当然そこにはウイグル人も含まれることになる。
タリバンにしてみれば、同じムスリムとはいえウイグル人の協力者を引き込むことより、中国からの投資を呼び込むことに大きなメリットを見出しても不思議ではない。一方、中国にしてみれば、ウイグル締め付けを強化できるだけでなく、タリバンとの協力によって「ウイグル=テロリスト」というイメージ化を強化できる。
それはイスラーム圏で中国の評判を大きく傷つけない宣伝材料になる。
「史上最高の大国」
そして最後に、タリバン支援は中国にとって「米国を凌ぐ大国」としてのイメージ化の一歩となる。
ユーラシア大陸の中央部に位置するアフガニスタンは、その地政学的重要性から常に大国との戦いに呑み込まれてきた歴史を持つ。19世紀、この地は大英帝国とロシア帝国の覇権争いの舞台となり、20世紀にはソ連軍の侵攻を受け、そして2001年9月11日の米国同時多発テロ事件後は、米軍との戦いが続いた。
その米国も結局アフガニスタンに和平を築くことはできなかったばかりか、タリバンとの戦闘で消耗し、撤退していった。これは米国の事実上の敗北であり、米国との和平合意を受けてタリバンが「勝利」を宣言したことは当然ともいえる。
大国の侵入を常に弾き返してきたアフガニスタンに、中国が投資やインフラ事業を持ち込み、多少なりとも経済成長が実現すれば、「どの大国もできなかったアフガニスタンの発展を中国が成し遂げた」という宣伝材料となる。いわば「中国こそ史上最高の大国」というイメージ化だ。
「火中の栗」は甘くない
こうして見た時、戦火のアフガニスタンにあえて接近することで、中国は火中の栗を拾おうとしているといえる。それがうまくいけば、確かに中国にとって大きな成果となるかもしれない。
ただし、そこには当然リスクもある。
事実上の内戦に陥るアフガニスタンで、一方の当事者であるタリバンに、中国は露骨に接近している。それはタリバンの勝利を見込んだ投資にはなるだろうが、中国がこれまで盛んに強調してきた「内政不干渉」とは相いれない(この主張によって中国はミャンマー軍政を擁護してきた)。
それはこれまで以上に「利益のためには言行不一致も気にしない国」というイメージを増幅させるきっかけにもなるだろう。
これに加えて、アフガニスタン国内で反中感情が一気に高まる可能性も拭えない。
中国の経済進出は、その規模の大きさとスピードの速さから、しばしば相手国で拒絶反応を生んできた。例えば、アフガニスタンの隣国パキスタンでは、圧倒的な存在感をもつ中国企業に対して、イスラーム勢力「バロチスタン解放軍」がテロ攻撃を増やしている。
アフガニスタンの場合、他の国にも増して、中国の経済的影響はスピーディーに、しかも大きくなることは容易に想像される。米国をはじめほとんどの国は、治安への懸念からアフガン進出を躊躇しているためである。
強力なライバルがいないなか、中国企業がリスクをいとわず本格的に進出すれば、アフガニスタン経済のかなりの部分を握ることは難しくないだろう。しかし、それは「中国の経済的侵略」という反感を増幅させる導火線にもなり得る。
アフガニスタンで反中感情が高まれば、中国はこれまでにないリスクを背負うことになる。その場合、米国をもはね返したタリバンだけでなく、アフガニスタン内部に潜伏するアルカイダ、ISの残党を相手にしなければならない公算が高いからだ。
中国が拾おうとしている火中の栗は、決して甘くないといえるだろう。