Yahoo!ニュース

広島ドラゴンフライズ:終盤のディフェンスと昨季の経験が違いをもたらし、初のセミファイナル進出

青木崇Basketball Writer
2試合とも4Q終盤のディフェンスで勝利を手にした広島 (C)B.LEAGUE

 広島ドラゴンフライズと三遠ネオフェニックスのクォーターファイナルは、レギュラーシーズン終盤の戦いぶりを象徴するシリーズだった。レギュラーシーズン終盤からチャンピオンシップ(CS)で王手をかけられたような1つ負けたら終わりという中で戦ってきた広島に対し、三遠はCSの出場権とセミファイナルまでのホーム開催を早々と決めていた。

 しかし、CS前の6ゲームで4敗と調子を落としていた三遠と違い、広島は敵地で島根スサノオマジックに連勝した後に、琉球ゴールデンキングスとの初戦に競り勝ったプロセスを経てのワイルドカード1位でCS進出を果たしていた。チームとして大きな自信を手にしていた広島は、B1屈指の得点力を誇った三遠を相手に試合終盤まで強固なディフェンスを継続した結果、2試合とも土壇場での攻防で競り勝ったのである。広島を率いるカイル・ミリングコーチは、初のセミファイナル進出となる三遠とのシリーズを次のように振り返った。

「選手たちはやろうとしていることを信じてくれたのがハッピーだし、我々のスタイルでプレーできた。60点台、70点以下のゲームにしたかったけど、我々はそれを成し遂げた。三遠は80点以下だと2勝10敗か12敗(注:レギュラーシーズンでは3勝9敗)だったから、ディフェンス主体となるゲームにしたかったし、この2試合で選手たちがそれをやってくれた。改めて、選手たちは我々がやってほしいことを信じてやってくれた。信じてくれたことに感謝している」

 ゲーム1が3分17秒間、ゲーム2も2分43秒間、広島は試合終了までの重要な時間帯で三遠を無得点に抑えていた。試合終盤で見せたディフェンスは、正にミリングの言葉を象徴するものであり、特にゲーム1では帰化選手の河田チリジが三遠を止めたい局面でスティールとブロックショットを決めていた。

 帰化選手の大半は、得点面での貢献が期待されるものだが、河田はフィジカルの強さを活かしたディフェンス、チームメイトのためのスクリーンなど、スタッツ以外の部分での貢献度が高いロールプレイヤー。また、河田の存在によってドウェイン・エバンスがスモールフォワードでプレーできるため、オフェンスで優位な状況を作り出せることも広島は最大限活用していた。

ディフェンスで存在感を発揮した河田と得点でチームに大きく貢献した山崎 (C)B.LEAGUE
ディフェンスで存在感を発揮した河田と得点でチームに大きく貢献した山崎 (C)B.LEAGUE

 ディフェンス以外でシリーズに違いをもたらした点は何かといえば、今季群馬クレインサンダーズから移籍してきた山崎稜の存在。ゲーム1では4Q5分58秒に同点、1分1秒にリードを4点として勝利に大きく前進させる3Pショットを成功させるなど19点。ゲーム2も4Q4分25秒に逆転の3Pショット、20.7秒にペイント内にカットしたエバンスのショットをアシストするなど、ビッグプレーで勝利に貢献していた。

 もう一つ違いをあげるとするならば、CSでの経験値だろう。昨季千葉ジェッツ相手に先勝しながらも、ゲーム2と3に敗れた苦い経験を味わった選手たちが広島には多く残っていた。また、エバンスは琉球をファイナルに導く原動力になった実績もある。三遠は大野篤史コーチが2021年に千葉ジェッツを頂点に導くなど、CSの戦いを熟知する指揮官だが、選手の経験という点で少し広島に分があった。

 そう感じさせたのはゲーム2の4Qだった。その象徴は、8分14秒に山内盛久がファウルをコールされ、選手交代が行われて少し間が空いた直後のプレー。インバウンドでボールを入れた中村拓人がエバンスからリターンパスをもらうと、左コーナーから見事な3Pショットを決めて2点差に詰めたのだ。

 三遠はゾーンディフェンスで対応しようとしたのだが、一瞬の隙を突かれたと言えるようなシーンだった。もちろん、インバウンドの直後に山崎がコティー・クラークに対してしっかりスクリーンをかけたことも、中村がオープンになった要因であることを忘れてはならない。

 三遠にとってはデイビッド・ダジンスキーが3Pショットを決めてリードを5点に広げて勢いに乗りそうな状況だっただけに、ここで止めることができなかったのは大きな痛手。CSにおける1ポゼッション1ポゼッションが、いかに大きな意味を持っているかを認識させられることになった。司令塔として奮闘した大浦颯太はこう語る。

「来シーズンもCSを目指していく中で、一つ一つのポゼッション等が大切になってくると改めて体験できたことは、自分のキャリアにおいてもステップアップできるポイントと思える試合でした」

 6分31秒にケリー・ブラックシェアー・ジュニアがレフェリーへ文句を言ってテクニカルファウルを吹かれたものの、広島は決して冷静さを失っていなかった。ゲーム1で22点、ゲーム2で18点を記録したエバンスは、激しさのレベルが上がる終盤で冷静にプレーできたことについて質問すると、次のように返答した。

「(冷静さがチーム全体に)波及することを望んでいる。第4クォーターは激しい瞬間が続くけど、これこそがバスケットボールをやる理由だ。チーム全員が一貫性を保っていることを誇りに思う。そして、タク(中村)が我々をリードしたり、アイザイア・マーフィーがディフェンスでビッグプレーをするなど、それぞれの選手がプレーを決めた。アイザイアがやっている多くのことはスタッツに残らないけど、我々がやろうとすることができる大きな理由は彼の存在なんだ。とにかく、ポジティブなエナジーを一貫して維持していくことだ」

2022年にファイナルを経験しているエバンスはオールラウンドなプレーでチームを牽引 (C)B.LEAGUE
2022年にファイナルを経験しているエバンスはオールラウンドなプレーでチームを牽引 (C)B.LEAGUE

 セミファイナルの対戦相手は、広島同様に終盤の猛チャージによって西地区制覇を土壇場で成し遂げた名古屋ダイヤモンドドルフィンズ。レギュラーシーズンの対戦は2勝2敗だ。B1全体で3位の平均84点を記録した名古屋に対し、広島は三遠戦同様に質の高いディフェンスでスローダウンさせられるかが、初のファイナル進出を実現するか否かのカギになるだろう。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事