謎が謎呼ぶ…北朝鮮ミサイルに書かれたハングル文字
「北朝鮮のミサイルには、謎のハングル文字が書かれている」――。北朝鮮が軍事的な挑発を重ねるなか、12月14日に早稲田大学で行われた北朝鮮の非核化をめぐるシンポジウムの懇親会で、そんな話がちょっとした話題になった。
長年、北朝鮮ウォッチャーの間で「未解決案件」となっている事案だ。
●ミサイル番号前にハングル文字
それは、軍事パレードなどで北朝鮮のミサイルが映像や写真で映る際、ミサイルの番号の前には、きまって次のハングル文字が付いていることだ。
この文字はカタカナの "ス" のような形だが、子音で「チウッ」と発音する。
このハングル文字は、いったい何を意味しているのか。大陸間弾道ミサイル(ICBM)をはじめ、ミサイルを管轄する「戦略軍」や、北朝鮮の政治理念「チュチェ(主体)思想」といった言葉は、このハングル文字の表記で始まるが、それらを指すのか。あるいは、「朝鮮」や「自衛」、「装備」などの言葉もこの文字で始まるが、この中のいずれかを意味するのか。
●朝鮮総連中央本部は「わかりません」
東京都千代田区にある在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部に12月17日、電話取材をすると、同中央本部の広報担当者は「わかりません」との返答だった。「どこに聞いたら、それがわかりますか」との筆者のさらなる質問にも、「まったくわかりません」との回答だった。
東京都小平市にある朝鮮大学校の学校関係者は筆者の取材に対し、「ミサイルに記されている文字ですが、私も正式なことはわかりません」と述べたうえで、「ロケット発射は戦略ロケット軍の管轄下で行われているはずなので、『戦略軍』を指す文字かなと思ってはいるのですが…」と答えた。
一方、日本の情報機関に務める当局者も、「映像分析の担当者と兵器の分析を担当している人物に聞いたところ、ミサイル最初の一文字は『戦略軍』の頭文字という認識でした」と明かした。
ソウル在住の北朝鮮専門家、ダニエル・ピンクストン米トロイ大教授(国際関係学)も「単なる推測ではあるが、『戦略軍』を意味する可能性がある」と指摘した。
●単なる記号か
一方、北朝鮮の軍事技術に詳しいアメリカ科学者連盟(FAS)非常勤シニアフェロー、アンキット・パンダ氏は筆者の取材に対し、「私もこれまでに他の北朝鮮ウォッチャーたちと、この件で話をしたことがあるが、まだ答えがわかっていない。いくつかのセオリーがあるが、どれも良い回答ではない。それは単に、北朝鮮が使用する『通し番号』のしきたりかもしれない」と述べた。
「戦略軍」を意味する可能性については、パンダ氏はきっぱりと否定した。「北朝鮮版イスカンデル」と呼ばれ、KN-23のコード名で知られる新型短距離弾道ミサイルといった"戦術"ミサイルシステムにも、この文字が見られるからだという。
北朝鮮事情に詳しい聖学院大学の宮本悟教授は筆者の取材に対し、「(この文字について)北朝鮮国内で聞いても(誰も)知らなかった」と述べた。さらに、北朝鮮の漁船にも同じ文字が付いている場合があることを明かした。
そのうえで、宮本教授は「漁船の場合には付いていたり、付いていなかったり、バラバラです。『朝鮮』を意味するかとも考えましたが、単なる記号で意味がない可能性もあります」と指摘した。
さらに、「文字や数字を記号とするのは、かつてのソ連がそうだったように、社会主義国家で流行した『科学性』です。漁船では別のハングル文字も使われていたので、やはり識別番号としての記号と考えた方が良いかも知れません。漁船については、あれが名前だと言っていました。識別番号=名前という意識なのでしょう。正確には船番号と言います」と説明した。
パンダ氏や宮本教授の述べるように、はたしてこのハングル文字は単に通し番号や識別番号なのか。興味がそそられるばかりだ。