「Jリーグの日」だからこそ知ってほしいシャレン!のこと 2024シャレン!AWAWDSに寄せて
1993年のJリーグ開幕戦が開催された日にちなんで、毎年5月15日は「Jリーグの日」とされている。開幕31周年となる今年は、前掲のリリースのとおり、復刻版「Jリーグカレー」のCMをYouTube上で公開。さらに、この日に開催されたJ1の試合会場でも限定販売して、大いに話題となった。
その翌日の5月16日、Jリーグは「2024シャレン!AWADS(以下、アウォーズ)」を発表。同日、授賞式とワークショップが都内で開催された。シャレン!とは「社会連携」を意味し、Jリーグに所属する全60クラブの社会連携活動から、投票により各賞を決定する。
今年で5回目となるアウォーズ。各賞の受賞クラブは以下のとおり(※は初受賞)。
本来であれば、シャレン!やアウォーズこそが「Jリーグの日」に話題になってほしいところ。だが、Xでトレンドに上がっていたのは「Jリーグカレー」だった。これは告知不足以前に、シャレン!そのものが、あまり知られていないことが大きな要因であろう。
各賞の内容については、それぞれリンク先をご覧いただくとして、なぜJクラブが社会連携活動を行っているのかについて、あらためて解説することにしたい。
■はじまりは「Jリーグをつかおう!」
第1回アウォーズが開催されたのは2020年だが、そのきっかけとなったのは2018年5月14日に開催された「未来共創『Jリーグをつかおう!』」というワークショップであった。
「われわれJリーグ、54のJクラブの皆さん、そして日本を良くしていきたいと考えている皆さんの力が結集できれば、大きなパワーを持つのではないか。Jリーグを使って、どんなことができるのか。今日は皆さんと一緒に考えたいと思います」
「Jリーグをつかおう!」の冒頭、このように挨拶したのは、当時のJリーグチェアマン、村井満氏である。
この「Jリーグをつかおう!」は、Jリーグ開幕25周年を記念するイベントとして企画された。注目すべきは、単なる周年記念イベントとして内輪で盛り上がるのではなく、Jリーグが「社会連携」という方向性を打ち出し、次の四半世紀に向けて新たなスタートを切ったことだ。
設立当初から「地域密着」を謳うJリーグは、これまで各クラブがさまざまなホームタウンを行っている。2017年の時点では、当時の54クラブによるホームタウン活動の総計は1万7832回。1クラブ平均で330回となり、ほぼ毎日活動していたことになる。
これだけJクラブが地域貢献をしているのに、世の中にはほとんど知られていなかったのが実情。これはある意味、仕方のない話であった。Jクラブのメインの仕事は、あくまでフットボール。ましてや地方クラブともなれば、当然ながらリソースも限られる。
各クラブには、これ以上の負担はかけられない。それならJリーグ本体が、社会貢献のためのプラットフォームにしてみてはどうか──。それが、25周年を迎えたJリーグが出した結論であった。
■きっかけとなった中村憲剛氏の提案
社会貢献の立ち上げの人材集めや資金集め、現役選手やOB選手を活用した情報発信、そしてプロジェクトの仕組み作りや成果測定。それらはいずれも、Jリーグであれば可能となる。
この座組を作り上げたのは、2018年から20年までJリーグ理事を務めた、米田惠美氏である。そして当時の村井チェアマンに、Jリーグ主導の社会連携を促したのが、2人のレジェンドであった。
ひとりは、Jリーグ黎明期の人気を支えた、元ブラジル代表のジーコ氏。村井チェアマンはブラジルのリオデジャネイロまで赴き、毎年チャリティ活動を続けているジーコ氏の姿を見て大いに感銘を受けている。そしてもうひとりは、川崎フロンターレの元日本代表、中村憲剛氏だ。
「Jリーグをつかおう!」の2年前、現役Jリーガーだった中村氏は村井チェアマンと初めて対談。その席で彼は「Jクラブが個別に取り組んでいる、地域貢献や社会貢献の活動について、もっとJリーグと一緒になって取り組むことはできないでしょうか?」と提案している。
中村氏が、プロデビューから引退まで一貫して過ごした川崎というクラブは、Jリーグの中でもホームタウン活動に熱心なことで有名。その活動エリアは川崎市のみならず、2011年の東日本大震災の被災地のひとつ、岩手県陸前高田市も含まれている。その経験を踏まえ、当人は提言した理由をこう語る。
「当時36歳だった僕は、選手の中では最年長だったし、クラブ在籍も最長。つまり、フロンターレの中では誰よりも長く、地域貢献や社会貢献の活動を現役選手としてやってきたという自負がありました」
そうした自負があったからこそ、中村氏は勇気をふるってチェアマンに「Jリーグ自体の努力がちょっと甘い」とまで言い切ったのである。
一方の村井氏は当時、社会貢献活動の軸が定まっておらず、何となく「Jリーグにできることにも限度があるのではないか」と考えていたという。そんな矢先、現役選手から放たれた強烈なパンチ。これが契機となり、Jリーグ内部で熟慮と検討が重ねられ、ついには「社会連携」という結論に至ることとなる。
■5回目のアウォーズで見えてきた課題
あらためて、シャレン!の成り立ちを時系列で整理すると、以下のような流れになる。
・2016年8月 村井チェアマン、中村氏から「JリーグとJクラブが一緒になって社会貢献に取り組む」ことを提案される。
・2017年12月 村井チェアマン、リオデジャネイロで毎年開催されるジーコ氏のチャリティーマッチを現地で視察。大いに感銘を受ける。
・2018年5月 「Jリーグをつかおう!」を開催。
・2020年5月 第1回アウォーズを開催。
ちなみに第1回のアウォーズは、2019年のシャレン!活動が評価対象となっていた。その当時、Jクラブではなかった今治やいわきが、今回初受賞となったのは感慨深い。反面、5回目のアウォーズでは、課題もあらわになったように感じる。
実は私は、メディア賞の審査員のひとりとして、全60クラブのシャレン!の活動内容をチェックしている。そこで気になったのが「自分ごと」としてシャレン!に取り組むクラブが増えた一方で、いささかアリバイ的に「スポンサーのSDGs活動に乗っかってみました」的なクラブも散見されたことだ。
今後もアウォーズは続けるのであれば、毎年60クラブが一斉に参加しなくてもよいのではないか、というのが私からの提案である。クラブにはそれぞれ事情があるし、シャレン!活動の内容によっては単年では結果が見えにくいものもあるだろう。毎年の参加を義務付けるのではなく、たとえば「3年に一度は必ずアウォーズにエントリーする」くらいに緩和することも検討してみてはどうか。
もうひとつ気になったのが、やはりシャレン!の知名度の低さ。「Jリーグの日」に合わせてアウォーズを開催するのはいいとして、肝心のシャレン!が一般にも知られていなければ、内輪感を打破するのは難しい。まずは「Jリーグカレー」を超えられるよう、アウォーズ以外での定期的な発信を強く望みたいところだ。
<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>