晩婚子なし夫婦。夫の家までドアツードアで1時間。週末婚がほどよい関係性です~スナック大宮問答集50~
「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催140回を超えた。のべ2800人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代までの「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めて対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***マリコさん(仮名。既婚女性、46歳)との対話***
人の輪に入っていくのは割と得意。でも、どこまで深く付き合うのかは考えてしまう
――ご自宅と職場がある熊本県から九州新幹線で来てくれたそうですね。福岡市内に住んでいる旦那さんとは週末婚だと聞きました。
はい。熊本にいる時間が長くなったので気持ちは熊本県人ですけど、遊ぶのは福岡が楽しいので、週末は私がこちらに来ることが多いです。バスに乗って観光地に行ったり、ウォーキングをしたり。ひたすら歩くので「死の行脚」と2人では呼んでいます(笑)。
――仲が良さそうですね! お互いの家まではかなり時間がかかるんですか?
新幹線を使えば熊本駅と博多駅は約40分なので、夫の家までもドアツードアで1時間ぐらいです。熊本の職場までもがんばれば通えますし、会社から交通費も出してもらえます。夫婦が一緒に住める範囲で、だけど別の拠点で働けるようにしてくれています。会社の配慮はありがたいのですが、私たちはお互いの職場に近いところでの別居婚を選びました。
37歳のときに社内結婚をして、うち4年間はお互いの職場までの中間地点で一緒に暮らしていました。それでも私は通勤が辛くて、職場の近くに住むことに。朝が弱いのでギリギリまで寝ていたいのです……。夫は「あなたがどうしても一緒に住みたいというならば僕が熊本に行ってもいいよ。キツいけど」と言っていましたが、平日はそれぞれ職場との往復で1日が終わるので別々に住むことにしました。夫婦仲はいいと思います。
――マリコさんはもともと熊本出身なのですか?
いえ、生まれは北海道です。父が転勤族で、家族で日本各地を転々としました。小学好低学年までは関東にいて、中学校時代は九州で、大学時代は関西です。転勤族の子にはありがちですが、どの地域にもアイデンティティを持たない根無し草ですね。人の輪に入っていくのは割と得意ですが、どこまで深く付き合うのかは考えるところがあります。いずれ遠く離れることを想像してしまうので……。
あるライターの文章がきっかけで集まる人々。雰囲気が驚くほど似通っている
――そんなマリコさんがスナック大宮に参加してみようと思ったきっかけを教えてください。
他県で暮らしていた独身時代に通っていた空手道場も遠くなり、夫とも職場内での出会いです。人間関係が狭くなってしまっているので、そろそろ全く違う場所に出ることを自分に課そうと思っていました。でも、はじめましての方々の会に自ら参加することは滅多にありません。どういう方が来るのかと不安と期待が両方でした。
大宮さんの文章や、行間から醸しだすものに惹かれて集まる方々。職業などはバラバラなのに、雰囲気は驚くほど似通っていますね。優しくて、ゆるい感じ。ビックリしましたし、とても居心地が良かったです。朗らかだけど実は超個性的な皆さんで、もっとお話を聞きたいなあと思いました。
――会場となった飲食店もいい感じでしたよね。博多に詳しい常連さんにチーママ(お店の選定と受付係)をお願いして予約してもらいました。
料理もとても美味しかったですし、店員さんのつかず離れずな距離感も素敵でした。福岡の隠れ家的なお店を知ることもできて、勇気を出して参加してよかったです。
参加してみてわかったのは、私のようにドキドキしながら初参加した人もいれば、たまたま博多に行く用事があったので寄ったという常連さんもいました。参加のスタイルはそれぞれでいいんですね。
――このイベントは12年間も続けているので、参加者は本当にいろいろです。3年に一度ぐらいに思い出したように来てくれる人もいます。その土地のかなりコアな店で地元在住の人とも交流しながら食事ができるので、旅行がてらに参加する人も少なくありません。8月は東京の池袋(満席)、9月は兵庫県内のどこかで開催します。よかったらまた遊びに来てください。
いいですね。私も独身時代は一人で海外旅行もしていました。大人になった今は自由に使えるお金もあるし、今の時代はオンラインも駆使できるので、新しい出会いだけでなく過去の交友関係もたどってみようかと思っています。
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「新しい出会い」と「過去の交友関係」の合わせ技。人間関係は先制パンチが基本です
以上がマリコさんとの会話だ。新卒で入った「堅めの職業」で管理職をしているとは思えないほどフラットな雰囲気の女性。転勤族の子どもとして育って根無し草だと自嘲するが、それが強みにもなっていると感じた。1対1の人間関係は大事にするが、集団や社会には信頼を置きすぎない。都会的、と言い換えることもできる。生まれ育った地域で長く安住している人にはマリコさんのような客観性や軽やかさは持ちにくい。
家族と勤め先以外での人間関係の構築に関しては、「新しい出会い」を求めると同時に「過去の交友関係」もたどってみるという発想が面白い。子どもの頃は全国各地を転校し、大人になってからは海外一人旅をして、会社では転勤もあったマリコさん。振り返って、「あの人と一緒にいる時間は楽しかったな。久しぶりに話してみたい」と思う人が各地にいるだろう。そのうち数人でもつながり直すことができたら十分だ。
お勧めは「先制パンチ」をすること。同窓会などに誘ってもらうのを待つのではなく、自分から連絡をとって会いに行くのだ。お互いに「会いたいな。でも、忙しいだろうな」などと遠慮していたら、人生が終わってしまいかねない。
筆者の場合は「フリーライター生活も長くなっている。ファンクラブができたらいいな」と夢想していてもファンクラブは一向にできなかった。だから、自分でスナック大宮を主催して、読者に集まってもらっているのだ。ちょっと恥ずかしいし手間暇もかかるけれど、「優しくてゆるい感じ」の人たちに毎月囲んでもらえるので寂しくはない。これからも先制パンチを繰り出し続けたい。