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実効性のある不当寄附勧誘防止法にするためには、どのような見直しが必要なのか

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

全国統一教会被害対策弁護団の会見が5月16日に司法記者クラブで行われ、村越進弁護団長は「不当寄附勧誘防止法の施行2年後の見直しに関する日弁連の検証」と現在、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を相手方として行っている民事調停における「統一教会側が提出した答弁書における対応」や「最高裁で継続している重要な訴訟」について、3点の報告があると話しました。

「判断基準を不当に変容させる要素」とは何か

川井康雄弁護士は「令和4年12月10日に、不当寄附勧誘防止法ができましたが、課題が多いことは指摘してきた通りです。これには附則があり、第5条で2年後見直しが明記されている」といいます。

昨年、日弁連で霊感商法に関するワーキンググループから「霊感商法等の悪質商法により個人の意思決定の自由が阻害される被害に関する実効的な救済及び予防のための立法措置を求める」という意見書が出されています。

「悪質な霊感商法では財産的な被害が注目されますが、この本質は『なぜ、人生を大きく変え、生活ができなくなるような被害が生じるのか』です。勧誘された方が統一教会の意図する判断基準に、不当に変容させられていることがポイントになります」(川井弁護士)

意見書ではこれまでの裁判における事実認定から「判断基準を不当に変容させる要素」として「正体隠し」「助言の遮断」「不当なつけ込み」をあげて、不当寄附勧誘防止法の2年後見直し及び消費者契約法にそれらの禁止を設けるよう提言しています。

「正体隠し」「助言の遮断」「不当なつけ込み」の禁止

「調停の申し立てを行っている方の被害を分析しても、入信した被害者のほとんどが勧誘の主体が統一教会ということを秘匿されて『正体を隠された』教え込みを受けたことが確認されています。この勧誘方法は信教の自由、あるいは自由な意思決定を侵害しているものと考えています」

「助言の機会を奪うことの禁止」についても「教義を教え込まれるビデオセンターでの受講や修練会への参加、共同生活をする際には、家族や友人にこのことを口外しないように言われている事例がほとんどです。もし相談をしていれば、疑問を差し挟む余地が生まれていたはずです」

「不当なつけ込み型勧誘の禁止」についても「勧誘当初において被害者が抱えていた家族や健康に対する不安などにつけ込んで、それが先祖の因縁によって生じているという言い方をして財産拠出を迫られています」(いずれも、川井弁護士)

特に「口止めをする行為」に関していえば、教団内部では当然のこととして行われており、「積善陰徳」(良いことは黙って行うことが大事)や「好事魔多し」(良いことには魔が入るので、誰にも相談しないように)などといい、相手方を説得します。私自身も信者としての経験から、教え込みをするうえでは重要なファクターの一つであったことは間違いないと思います。同法の見直しは迫っており、今後の被害を生み出さないためにも、この点を踏まえた早急な改正の議論が必要とされています。

「集団調停における統一教会の不当な対応について」の声明

同弁護団は、旧統一教会に損害賠償等を求めて7次にわたる集団交渉の通知を発出しています。そのうち138名が東京地裁に集団調停の申し立てを行っていますが、阿部克臣弁護士から「集団調停における統一教会の不当な対応について」の説明がありました。

「統一教会からの答弁書が(第一回調停期日において指定された)4月26日までの提出がなされずに、5月10日になって出されました。しかも、出てきたものは、10ページにも満たない不十分な書面でした。弁護団が作成した調停申し立て書に簡単な回答内容を追記した書面と、消滅時効(除斥期間)に関する反論を記載しただけのものと求釈明書で目新しいものは何もなかった」といいます。

「1年以上前から当弁護団の主張を把握していたにもかかわらず、この間十分な調査も行わず、献金記録の開示にも応じず、わずかな書面だけを出してきたことで、被害者に対して真摯に向き合う姿勢がないと言わざるを得ません。統一教会の対応はあまりにも遅く、今回提出された書面等も準備に3ヶ月を要するようなものでもありません。いまだに解決への道筋も見えてこず、いたずらに解決を遅らせようとしているとしか思えません」(阿部弁護士)

声明のなかでも、統一教会に対して自らが生み出した被害を直視し、被害者に真摯に向き合い、調停においても被害者救済に向けて速やかにかつ誠実に対応するように強く求めています。

念書の有効性をめぐる裁判

3つ目は現在最高裁で継続している、旧統一教会に対する損害賠償請求事件についてです。

この被害では、2004年に当時75歳だった女性(Aさん)が入信して、2009年までに1億円を超える献金をしています。そのうち6500万円超は被害者の夫の財産です。さらに、所有していた果樹園を3回にわたって売却させられて、その際、統一教会の信者が立ち会います。総額7000万円を超える金額のほぼ全額を信者が持っていったといいます。2015年に被害者の長女が帰省した際に、Aさんが「手元に全くお金がなく、こんな生活は嫌だ。やめたい」と話して、旧統一教会に多額の献金をしていたことを知ります。

Aさんが同年8月に教会に脱会の意思を伝えると、11月に教会で「損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わない」とする念書を作成させられます。その後、返金などを求めて裁判を起こしますが、念書の有効性が認められて、地裁、高裁では訴えは敗訴となります。しかし最高裁は6月10日に口頭弁論を開く予定で、地裁、高裁の判断が覆る可能性が出てきています。

不起訴合意の有効性と勧誘行為の違法性

最高裁の弁論の案内には争点として「1.本件不起訴合意の有効性、2.本件勧誘行為の違法性」をあげています。木村壮弁護士によると「1億以上の献金をさせたことが違法か否かと、この後に作らされた念書が有効かどうか。この2点が争点になっており、これが最高裁で審議される」ということです。

「統一教会側からすると長女への相談や脱会の話が出たことで、返金請求を受ける可能性があり、身構えたのだと思います。そういった状況で、教会が被害者(Aさん)を呼んで念書を作らせています。翌日に、念書を公証役場に持って行き認証を受けて後、教会に戻ってきて、念書を作ったことを確認させるビデオを、婦人部長の立ち会いの下で行わせています」(木村弁護士)

しかし公証役場に行った際に、言動が十分ではなかったことで、公証人からは「認知症なのではないか」という指摘を受けています。翌年にAさんは「アルツハイマー型の認知症」の確定診断を受けます。

「判断能力がかなり減退していると思われる状況で、念書にあるような不法行為に当たるのかについて判断できる状況ではなかったにもかかわらず、先手を打って念書を書かせた。このような経緯からすると、到底、認められるようなものではないと考えてはいたのですが、地裁、高裁でも念書の有効性を認めて、被害者の請求は却下をされてしまったのです」(木村弁護士)

最高裁で念書無効の判断が示されれば多くの人の救われる道が生まれる

山口広弁護士は「初めて(長女から)相談を受けたのは、2015年の11月でした。お母さんは認知症に近い状態のようで、相続した果樹園も売却したといっているわけです。びっくりしてお話を聞いたのですが、客観的事実と前後関係から見れば違法性は認められるだろうということで、東京地裁に提訴しました。しかし(被害者が)被害の内容をいえないので、同じ元信者の方の証言を聞いてほしいと、裁判官に強く申し上げたんですが、採用もされず、結果として敗訴しました。さらに東京高裁で敗訴したのが一昨年の7月7日です。翌日に安倍晋三さんの殺害事件が起こりました。もう絶望しました」と当時を振り返ります。

木村弁護士は「社会一般の通念で、こういう状況で作られた念書の有効性を認めるべきではないことは、法的にも考えられるところなので、最高裁でその点について、適正な判断を求めていきたい」と話します。

念書や合意書を書かされた人は、現在の旧統一教会の集団交渉をしている方にも複数いるということです。おそらく被害者のなかには、念書や合意書を教団側と取り交わしたことで、被害の回復を諦めている人はかなりいると思われますので、最高裁の判断によっては、旧統一教会の被害救済が大きく進む可能性もあり、目が離せません。

不当寄付勧誘防止法に基づく勧告や命令を実施したケースはなかった

消費者庁によると、2023年度の不当な寄付勧誘における情報の件数は1701件で、不当寄付勧誘防止法に基づく調査対象としたのはそのうち97件で、同法に基づく勧告や命令を実施したケースはなかったということです。現行法のままでは、不当な寄附勧誘を受けて苦しむ人たちを救済できない状況が続く恐れがあります。

過去の献金被害を通じてみえている「正体隠し」「助言の遮断」「不当なつけ込み」の禁止を含めて、実行性のある法律となるように不当寄附勧誘防止法の見直しが何より求められています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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