ステマ法規制が検討される今こそ気をつけたいステマの境界線
いよいよ、日本でもステマに法規制が検討されることになるようで、業界でも動向が注目されています。
9月9日(金)に消費者庁が「ステルスマーケティングに関する検討会」を開催し、令和4年中を目処に結論を得るというプレスリリースを発表したのです。
これは、テレ朝ニュース等の報道によると、8月に消費者担当大臣に就任した河野太郎大臣の「広告でないと思って飛びついたら、実はそれは広告だったということは、消費者の消費行動にとってどうなのよっていうことがある」という問題提起が背景にあったようです。
参考:“ステマ”に法規制検討 年内めどに結論 河野消費者担当相「消費行動にとってどうなのよ」
実は、日本でもステマの法規制の必要性については、ステマが社会問題化するようになってから何度も議論の俎上に載り、見送られてきた経緯があります。
ただ、今回は河野太郎大臣肝いりの検討会ということもあり、なんらかの法規制に踏み出す可能性が高そうな印象です。
自分が普段SNSに投稿している内容が、ステマにあたらないかどうか不安になる方も少なくないと思いますので、ここでステマの整理をしておきたいと思います。
米国や欧州ではステマは法律で明確に規制
日本でステマの法規制を議論する際に、必ず比較対象として話題になるのが、すでに米国や欧州では消費者を欺くようなステマ行為を法律で規制しているという点です。
しかも、米国では現状の法規制ですらゆるいのではないかという議論が出てきており、丁度ルールの厳格化を検討しているというニュースが6月に話題になっていたばかりでした。
参考:米FTCが「ステマ追放」へ、偽の肯定的レビューの禁止を検討
報道によると、米国規制当局は昨年1年間だけで1,000以上の企業に警告を行ったそうですが、その米国ですら英国などの罰則規制に比べると規制が遅れているという議論があるほどなのです。
当然ながら何の法規制も存在しない日本がこのままで良いのかという疑問は、河野大臣だけではなく多くの関係者が感じていたことでしょう。
筆者は、クチコミマーケティングのガイドラインを検討するWOMマーケティング協議会の立ち上げに携わった人間ですので、元々アンチステマ側の人間ですが、当初は闇雲な法規制には後ろ向きでした。
ただ、それから10年以上がたち、ここまでいろいろやってもステマが減らないなら、法規制はやむを得ないなと考えるようになった経緯があります。
日本においては現行法の範囲で対応
しかし、日本においては現行法の法体系の中では、ステマ行為を明確に規制する法律を制定するは難しい、というのがこれまでの識者の間の議論結果でした。
もちろん消費者庁も、水面下に潜ってステマ行為を継続する事業者を放置していたわけではなく、昨年11月には悪質なステマを継続していたバストアップサプリを景品表示法の優良誤認の観点で措置命令をだすなど、現行法の範囲内で対処されてきました。
参考:「ステマは違法じゃないから大丈夫」が通用しない時代に注意すべきこと
実際問題として、過去に大きな騒動になったディズニーのアナと雪の女王2や、吉本興業の芸人による京都市観光促進、そしてフジテレビのアナウンサーの美容院優遇などにみられるように、ステマ行為に対しては法的規制はなくとも社会的制裁の方が大きくなっており、大企業や著名な芸能人が手を出すメリットは明確に無くなっていると言えるでしょう。
筆者自身も、メディア出演時に芸能人の方が、ステマを実施していると誤解されるリスクをクチにされているのを耳にして、時代の変化を痛感したことがあります。
「ステマは違法ではないんですよ」という言い訳
一方で、現在のステマにおいて問題なのは、消費者庁が措置命令を出したバストアップサプリのように、確信犯で水面下でステマを継続している企業や、そうしたステマ行為をサポートするステマ事業者が未だに後をたたない点です。
特に、悪質な事業者は、こうしたステマなどの知識がない一般人に対して、メッセージなどで投稿を依頼してくる際に、「日本ではステマは違法ではないんですよ」とステマであることを認識しつつ、法的に問題ないことを根拠にまるで一切問題がない行為かのように説明してくるケースもあるようです。
その結果、「私も長いことやっているけど問題になってないから大丈夫」「黙っていれば絶対バレないから」というような友人からの勧誘も発生してしまうようです。
ある意味で現状のステマというのは、厳罰化される前の飲酒運転に似ている状況と言えます。
「一杯ぐらいなら」「私もいつもやっている」という人が周りにいることによって、本来なら飲酒運転をしない人がしてしまう、というのと似たような状況が、ステマにおいても発生してしまっているわけです。
そういう意味で、今回のステマ法規制の議論の結果、明確に法規制の対象になるかどうかで、現状の水面下で活動しているステマ事業者やその発言が明確に違法認定でき、状況が大きく改善する可能性はあります。
今は大きな分岐点に立っていると言えるでしょう。
なお、現在のところは日経新聞などの報道によると、景品表示法で定義されている「優良誤認表示」「有利誤認表示」「誤認されるおそれのある表示」の3項目の3番目に、ステマに関する記載を追記する案があるというところまで言及されていますので、過去の議論に比べるとかなり規制に対して前のめりな議論のように見えます。
自分が加害者にならないために
ステマのようなSNS投稿レベルの行為を、人命に関わる飲酒運転と比較するのは大袈裟だと思われる方もおられるかもしれませんが、実はステマを通じてペニーオークションのような詐欺行為の片棒を担ぐことになってしまったり、リスクのある健康法を推奨してしまったりという騒動が過去にありました。
参考:血液クレンジング炎上騒動で考えるネットとメディアの話題のスパイラル
ステマを投稿している方にとってはちょっとした小遣い稼ぎかもしれませんが、その投稿が思いもよらない犯罪行為の片棒を担ぐ結果になってしまうリスクもあるのです。
そういう意味で、是非読者の皆さんに気をつけて頂きたいのは、ご自身がステマの加害者側にまわらないことです。
SNSの投稿でお金をもらえるというオファーが来たら、是非ステマにならないかに注意することを忘れないで下さい。
また、もしステマが法規制された場合、過去の投稿に対する社会的制裁は今まで以上に重くなる可能性もあります。
もし、まだ今もステマに近しい手法に関わっているという方は、早急にやめることを強くお勧めします。
最も重要なのは「関係性の明示」
なお、最近は「それステマじゃん」という風に、ステマという言葉が「それ宣伝じゃん」という意味で使われてしまうケースもあるため、混乱している方も少なくないようです。
あくまで、本来のステマというのは「ステルスマーケティング」という相手にマーケティングであることが分からないように隠すことを言います。
ステマについての詳細は、是非下記のマンガを読んで学んでいただきたいと思いますが、知らずにステマに関わらないために最も重要なキーワードは「関係性の明示」です。
お金をもらったらお金をもらったことを明示する。
無料でサービスを受けたなら無料で受けたことを明示する。
SNSで紹介してと商品をタダでもらったなら、タダでもらったことを明示する。
とにもかくにも、SNSの投稿を見た人がこの「関係性」が分かるように明示されていれば、ステマで違法認定されるリスクはほとんどありません。
もちろん、自腹で買った商品やサービスをSNSで褒めるのは、ステマでも何でもありませんから、心配する必要はありません。
ある意味、友人や職場の同僚を騙すような投稿をしないように心がけていれば問題ないとも言えるのです。
実際にステマが法規制の対象になるかどうかは、もちろんまだ決定したわけではありませんが、是非後から後悔することのないように、今のうちにステマの境界線を学んでおいていただければと思います。