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「今年の子ども」にコロナのしわ寄せをしての「正常化」は「大人の都合」でしかない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

「授業についていけない子が増えているそうです。そういう子がクラスに増えている気がすると、自分の子どもから聞きました」

 送られてきたメールにあった、この一文が気になってしかたない。送り主は、公立小学校にかよう子どもの母親である。

 小学生の子どもが実感してしまうほど、授業についていけない子どもが増えているというのだ。これは、ただごとではない。

 文部科学省(文科省)は5月15日、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の影響で長期休校したことで生じた学習の遅れを、複数年度で解消することを認める「通知」をだした。中1でのカリキュラムが残った場合に、中2に繰り越し、さらに中2で残れば、中3に持ち越していいというわけだ。

 それでは、中3の段階で残った分は、どうするのか。それは、先に繰り越すというわけにはいかない。いつまでも繰り越していくわけにはいかないから、急ぎ足の授業にならざるをえない。

 しかも文科省は、小6と中3は繰り越しの対象外としている。小6で残ったカリキュラムを中学に引き継ぐのは無理、と判断したわけだ。かといってカリキュラムを削ることについて文科省は拒否しているので、来年3月までに決められたカリキュラムを終えなければならない。当然、急ぎ足になる。

 急ぎ足でやるために学校は、授業時間や休み時間まで短縮して、授業時間を捻出している。それによって、授業時数を増やすのだ。夏休みの短縮は多くの学校で決まっているが、これも授業時数を確保するためだ。

 同じ小学校で小6と他の学年で始業時間や終業時間、休み時間を別々に設定するわけにはいかない。混乱するだけだからだ。つまり繰り越しを認めるといわれても、他の学年も小6と中3と同じペースにならざるをえない。同じ急ぎ足となるわけだ。急ぎ足で授業がすすめられるのだから、授業についていけない子が増えるのも無理はない。

 ただ、授業についていけない子がいるのは、新型コロナの影響を受けている今年にかぎったことではない。新型コロナ以前の教室でも、授業についていけない子はたくさんいた。新型コロナ以前に取材した公立小学校の教員は、次のように語ったものだ。

「子どもたちが理解できているか確認しながら、分かっていなければ理解する手立てをとってすすめるという研究授業をやりました。すると普段どおりの授業だと、理解の浅い子が多いのに驚きました。そこを無視して、授業をすすめていたわけです。丁寧な手立てをとると、子どもたちの理解は深まりました」

 それなら研究授業だけでなく、普段の授業も理解度を確認しながら、手立てをとりながらすすめたらいいんじゃないですか、と質問してみた。それに教員は、「とてもじゃないが、そんなに時間はかけられない。全部の授業でやっていたら、決められたカリキュラムは絶対に終わらない」と即座に答えた。

 普段から、学校の授業は急ぎ足ですすめられているのだ。にもかかわらず、長期休校から再開した学校では、普段以上の急ぎ足での授業が行われているのだ。ますます授業についていけない子を増やしている。

 文科省も学校も、今年度の教育課程を来年3月までに終えることに必死になっている。「正常化」したことにしてしまおうとしている。そして、「自分たちは責任を果たした」と言おうとしている。「大人の都合」でしかない。

 そのために、さらなる急ぎ足の授業を強いられている子どもたちは、授業についていけないまま置き去りにされる。新型コロナに直撃された「今年の子ども」だけに、しわ寄せがいくことになる。そんな学校でいいのだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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