NHKの90分におよぶ渡辺謙の番組でも、新作の公開情報を出せない苦渋の対応。ここにもストの影響?
ハリウッドの俳優ストライキは、ようやく解決の光明が見えてきたが、現在(10/10)も継続中。
トム・クルーズの来日キャンセルに始まり、現在公開中の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でも、主演のキアヌ・リーブスがバンドのツアーで日本に来ていながら、映画のプロモーションは一切できないなど、日本でもストの影響が続く。『ジョン・ウィック』新作には真田広之も重要な役で出演しているが、彼もハリウッドで活躍する俳優。日本でのプレミア参加やテレビの露出など宣伝活動は叶わなかった。
そしてもう一人、ハリウッド作品にも多く出演する日本の俳優といえば、渡辺謙。
10/9にNHKで放映された、90分におよぶ番組「役者道 〜渡辺 謙があなたに語る仕事と人生〜」では、タイトルどおり彼が一人で、これまでの足跡を振り返っていたが、ちょうど10/20に、出演した新作が日本公開されるという絶好のタイミングでもあった。
それは、ハリウッド映画の『ザ・クリエイター/創造者』。渡辺はメインキャラクターの一人、それもかなり“特殊”な役にチャレンジしており、役者人生の重要なトピックとして話すことも多かったと思われる。
現在、SAG-AFTRA(全米映画俳優組合)のストライキによって俳優の新作プロモーションは原則禁止。特にストライキの対象になっているスタジオの作品(『ザ・クリエイター』もそうである)には、このルールが徹底されている。
しかし番組の終盤、短い時間ながら『ザ・クリエイター/創造者』の話題は出てきてはいた。ただし作品の内容はまったく語られず、タイでアクションシーンの撮影が行われた日に、ロシアのウクライナ侵攻が始まった……という流れ。『ザ・クリエイター』はタイトルが小さくテロップで出たのみで、作品の写真は紹介されず、当然のごとく10/20に日本で公開されることも伝えられなかった。この番組は今年の2月にWOWOWで放送されたものの再編集版。渡辺も「『ゴジラ』を(一緒に)撮ったギャレス・エドワーズ監督が誘ってくれた、近未来のアクション作品」と語っただけで作品名を口にしていないのは、日本での公開タイトルが決まっていなかったからだろうが、テロップでは加えられていた。新たに画像を加えたり、公開日を出すことは可能だったはずだが、そうすると「宣伝」と扱われ、ストのルールに抵触するからだろう。
「出演俳優が作品のプロモーションをしている」という状態が極力、回避されたわけだ。かろうじて作品名テロップと、わずかな撮影の思い出が収められたのは、最低限できる苦渋の判断だったと考えられる。
渡辺謙の過去のハリウッド出演作である『ラスト サムライ』や『硫黄島からの手紙』、『インセプション』、もちろん日本の映画やドラマ、ブロードウェイやロンドンで舞台に立った「King and I 王様と私」などは写真とともに語られたし、『ザ・クリエイター』のギャレス・エドワーズ監督との過去の作品『GODZILLA ゴジラ』での思い出はかなりたっぷり振り返っていた。それだけに『ザ・クリエイター』の話がもう少し聞きたかった、と惜しまれる。
なぜ残念かというと、この『ザ・クリエイター/創造者』が注目に値する作品であるから。
今から約50年後の未来を舞台に、超進化したAI(人工知能)が人類に反旗をひるがえすSFアクション大作。ここで渡辺が演じるのは、人類側ではなくAI側のキャラクター。ぱっと見は人間である、AIシミュラント(模造人間)のハルンという役だ。
この手の作品は、人間に対してAIが「敵」という構図が予想されるが、本作はそうではない。物語が進むにつれ、人間側の「悪」の側面が浮き彫りになっていき、むしろAIに共感する作りなのが独創的。それゆえに渡辺謙の役割が大きい。また、アジアも舞台のひとつになっていることから、アメリカのベトナム戦争も重なるし、現在の世界各国の混乱も連想され、「人間がいかに愚かなのか」をAIの視点から突きつけられもする。自国批判的なテーマを、こうして大作で伝えるのもハリウッドらしい。
しかも未来の映像、さまざまなデザインが極上で、SF映画としてのクオリティも高い。日本のシーンも意外なかたちで出てきたりする。
10/20の公開までに、この『ザ・クリエイター/創造者』について渡辺謙が何を語るのか、もう少し知りたかった。しかしあと10日では、さすがにストライキは終わりそうもない。ぜひ1人でも多くの人に映画館へ足を運んでほしい。そして渡辺謙の存在感を改めて確かめてもらいたい。
『ザ・クリエイター/創造者』
10月20日(金) 全国劇場にて公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c) 2023 20th Century Studios