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「ウォーキング・デッド」の天才子役ケイリー、初の映画主演でインタビュー。「早くトトロを観なくちゃ…」

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ブルー きみは大丈夫』のメインキャラとプレミアで一緒に。ケイリー・フレミング(写真:REX/アフロ)

天才的な演技をみせた子役が、年月を経て成長し、新たな魅力を開花させる姿は、それだけでうれしい。このプロセスを実感させてくれるのが、2007年生まれ、現在17歳のケイリー・フレミング

8歳で『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で主人公レイの幼少期を演じ、人気シリーズ「ウォーキング・デッド」のシーズン9から、メインキャラクターの少女ジュディス役で出演。過酷な世界をサバイブし、親との別れなどで渾身の名演をみせ、観る者の涙を振り絞った。

2019年「ウォーキング・デッド」プレミアでのケイリー・フレミング。この時、12歳。
2019年「ウォーキング・デッド」プレミアでのケイリー・フレミング。この時、12歳。写真:REX/アフロ

そんなケイリーが、映画でクレジットのトップ、つまり主演を任され、すでに公開された全米で大ヒットを記録したのが『ブルー きみは大丈夫』。

ケイリーが演じたのは12歳のビー。母親を亡くし、父親も病気で手術を受けるという悲痛な状況で、彼女には不思議なものが見えるようになる。それはイマジナリー・フレンド。多くの子供が、現実には存在せず、自分にしかわからない“空想の友達”と遊ぶことは知られているが、ビーは他人のイマジナリー・フレンドも見え、交流できるという能力にめざめる。一見、子供向けのファンタジー映画のようだが、むしろ大人の観客にとって感動のツボを押される瞬間が多発する。それが『ブルー きみは大丈夫』で、ゆえに全米でも支持を受けたと考えられる。

ビーは、イマジナリー・フレンドと、彼らのかつての友達だった大人の現実に触れるうち、彼女自身も大人へと成長していく。演じながら自分の成長も感じたのか。ケイリー・フレミングに聞くと、こんな答えが返ってきた。

「私は仕事をしながら、つねに自分がどう成長するか考えて、時には怖くなったりもします。でもこの映画は、年齢を重ねたからといって、心は子供のままでいい、つまり大人にならなくても大丈夫だと伝えていますよね? 撮影を通していろんなことを学んだけど、その事実を知ったことが特別でした。言葉でうまく説明できないけど……そんな感じ!」

監督はジョン・クラシンスキー。俳優としても活躍し、監督作の『クワイエット・プレイス』シリーズ2作を大ヒットに導いた。ホラーから一転し、今回はファンタジックな感動作で才能を示したうえ、ビーの父親役で出演もしている。それについてケイリーは「ジョンとの共演シーンは、演技をしている感覚はありませんでした。撮影の終盤だったので、特別な関係が築かれていたからです。このスケジュールに感謝ですね」とのこと。クラシンスキー監督は、父&娘の親密さを自然に出すため、まずケイリーに監督と俳優の関係に慣れてもらい、共演シーンを最後にまとめたのだ。その効果はテキメンだった。

本作を観た多くの人が、イマジナリー・フレンドのブルー、そのモフモフな丸味を帯びた外見に、日本の有名キャラクターを連想するかもしれない。「トトロ」だ。ジョン・クラシンスキー監督は「トトロをデザインの参考にしたわけじゃない」と言いつつ、大人を感情移入させるスタイルとして、スタジオジブリの多くの作品をヒントにしたことを吐露していた。ケイリーも『となりのトトロ』を観たのか聞いてみると……。

「ごめんなさい。ジブリの映画、まだ観たことがないんです。でもそんなことを聞かれると、早く観なくちゃ」と正直に答え、横にいるクラシンスキー監督にオススメを尋ねた。監督は「それなら最初は『千と千尋の神隠し』。その次に『となりのトトロ』という流れで、あとはゆっくり観ていけばいいんじゃない?」と丁寧に説明。おそらく今ごろ、ケイリーは『千と千尋』を観始めているのではないか。

では完成した『ブルー きみは大丈夫』を観て、ケイリーは何を感じたのか。率直な感想を聞いてみた。

「じつは昨日の夜、初めて観たんです。ジョンにも感想を聞かれたのですが、正直言って言葉でまとまらないんです。このビー役は3年くらい前にキャスティングされ、その日からずっと完成作を観るのが楽しみで、ようやく夢が叶ったので、ちょっとショック状態の中にいる感じ(笑)」。

このインタビューはプレミアの翌日に行われたので、むしろケイリーのまとまらない感想はリアル。変にお行儀のいい答えを用意しなかった彼女に、むしろ好感度がアップした。

ジョン・クラシンスキー監督が「8歳の観客、あるいは80歳の観客もこの作品に入り込めるのは、主演にふさわしいケイリーの演技、すべてそこに尽きる」と語るように、たしかに終盤のいくつかのシーンで、ケイリーは奇跡のような表情を見せ、われわれ観客の心を鷲づかみする。

「私は、ライアン(・レイノルズが演じる役)の部屋のセットが大好きでした。そこには私の知らない時代の素敵なアイテムがいっぱい置かれ、部屋の中にキラキラと輝く妖精の粉が舞っているように感じられたんです。そのキラキラの輝きは、きっと映画全体の魅力と一致したのでしょう。それは本当にクールなことでした」

大人の観客がノスタルジーを感じる。そんな仕掛けにも満ちた『ブルー きみは大丈夫』で、演じたケイリーも、ノスタルジックな要素に新鮮な輝きを感じたようである。

間違いなく、ハリウッドを代表する次世代スターの階段を駆け上っているケイリー・フレミング。数年後、さらに飛躍した姿を、われわれは目にすることになりそうだ。

『ブルー きみは大丈夫』

6月14日(金)、全国ロードショー

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映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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