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国賓として訪英する天皇皇后両陛下 授与されるイギリス最高位の勲章「ガーター勲章」とは?

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

天皇皇后両陛下は、6月22日から29日まで国賓としてイギリスを公式訪問される。イギリスを訪れるのは、エリザベス女王の葬儀が行われた2022年(令和4年)9月以来のことで、国賓としてのご訪問は、本来なら2020年(令和2年)に予定されていながら、コロナ禍によって延期されていた。

皇室とイギリス王室とは、1869年(明治2年)にビクトリア女王の子息である、アルフレッド王子が日本との友好をはかろうと来日し、明治天皇と面会したことに始まる。

その後、イギリス国王の戴冠式は現在まで5度行われてきたが、皇室ではその度に天皇の名代として、皇太子あるいは直系の親王を派遣してきた歴史がある。

また皇室の即位礼の際も、大正天皇の時代から国王の命を受けた大使や公使が出席し、平成と令和の即位礼正殿の儀には、皇太子であった現在のチャールズ国王が参列している。

そして今回のご訪問で、注目すべき点は、実は陛下の胸に輝くであろう、イギリス最高位の勲章、その名も「ガーター勲章」だ。

◆勲章は権威と友好の象徴

1906年(明治39年)、日英同盟が結ばれた流れを受け、東アジアの国家元首として、初めて明治天皇に贈られた「ガーター勲章」。

以来、大正天皇、昭和天皇、上皇陛下と代々の天皇が授与されてきた、大変名誉あるものだ。今回、天皇陛下にも、チャールズ国王から授与されると見られている。

この「ガーター勲章」がどれだけ高い権威を持ち、貴重なものなのか、皇室の文化を研究する学習院大学史料館の長佐古美奈子さんに聞いた。

「プロトコル(国家間の儀礼上のルール)では、宮中晩さん会は最も格が高いので、ティアラを着けるのと同じように、相手国からいただいた最も高位の勲章を身に着けます。今回、チャールズ国王からガーター勲章をいただければ、陛下はそれを着けられることになると思います」(長佐古さん)

天皇皇后両陛下は、イギリス訪問中の25日にチャールズ国王夫妻が主催する、バッキンガム宮殿での晩さん会にのぞまれる予定だ。

1971年に、イギリスを訪問された昭和天皇ご夫妻がバッキンガム宮殿での晩さん会にのぞまれた際には、昭和天皇は燕尾服の上着の下に、ブルーのサッシュ(タスキ状の帯)を着け、左胸に十字のマークが入った星型の副章を着けていらっしゃった。このブルーのサッシュと十字マークの副章が「ガーター勲章」である。

上皇ご夫妻が1998年(当時天皇、皇后)国賓として訪問した際も、上皇陛下はその訪問時に授与された「ガーター勲章」を身に着けられていた。

1998年、晩さん会で勲章を身に着けた上皇さまとエリザベス女王(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
1998年、晩さん会で勲章を身に着けた上皇さまとエリザベス女王(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「晩さん会にはお互いに贈り合った勲章を着けて登場されるので、今回、チャールズ国王も日本の最高位の勲章である大勲位菊花章頸飾と同時に授与される、大勲位菊花大綬章を着けて出られるのではないかと想像します」(長佐古さん)

今回も、晩さん会に先立って、日本とイギリス、お互いの国の最高位の勲章を交換されるはずだ。

◆大変な名誉であるガーター勲章

イギリス最高位であるこの勲章は、1348年、国王エドワード3世が創設したもので、国王に忠誠を誓う「ガーター騎士団」に叙された24人に限られており、それ以外には、イギリス王族や外国の王侯に特別に授与されてきた。

明治天皇は、東アジアで初めてにして唯一贈られた人物となった。以来、日本の天皇は4代にわたり、連続して授与されてきたのである。

「ガーター勲章」授与の際には、何か特別なセレモニーでもあるのだろうか?

「上皇陛下の時は特別な儀式は行わなかったと、何かの資料で読んだことがあります。ガーター勲章をいただくと、イギリスのウィンザー城にある王室専用の礼拝堂、セント・ジョージ礼拝堂に天皇陛下のバナー(旗印)が飾られるはずで、大変名誉なことです」(長佐古さん)

ウィンザー城のセント・ジョージ礼拝堂には、ガーター勲章を叙された人物の家の紋章を描いたバナーが掲げられている。その中に、欧州以外の国で唯一、皇室の菊花紋をあしらったバナーが燦然と飾られているのだ。

今回、陛下は27日にウィンザー城を訪問される予定なので、もしかしたら礼拝堂でそのバナーをご覧になるかもしれない。

◆ガーター勲章は、皇室ならではの品にも…

実は、明治天皇や大正天皇がガーター勲章を授与された際にボンボニエール(小さなお菓子入れ)が作られてきたという。

明治天皇へガーター勲章を奉呈しに来日したコンノート公爵家のアーサー王子が、日本側の関係者へ渡したボンボニエールは、黒漆塗に金蒔絵で唐草文とともに英国王紋章が描かれている。

「これはイギリス側が制作したものだと推測されます。日本の皇室でボンボニエールが配られている習慣を知って取り入れたというのが、興味深いですね。イギリス側がわざわざ日本の業者に発注して、制作したものだと考えられます」(長佐古さん)

文庫形金蒔絵唐草文英国王紋章ボンボニエール 画像提供:学校法人学習院
文庫形金蒔絵唐草文英国王紋章ボンボニエール 画像提供:学校法人学習院

大正天皇の時は、やはりアーサー王子が、1912年(大正元年)にガーター勲章を奉呈するために来日。さらに1918年(大正7年)にも再来日した。その際のイギリス側の晩さん会で配られたのが、表面にガーター勲章がデザインされた、銀製のボンボニエールである。日本の皇室ならではの文化であるボンボニエールを、日本に来た際には制作するという慣習が根付いているのである。

楕円煙草入形ガーター勲章紋章ボンボニエール(個人蔵) 画像提供:学習院大学史料館
楕円煙草入形ガーター勲章紋章ボンボニエール(個人蔵) 画像提供:学習院大学史料館

今回、天皇皇后両陛下は国賓として、最上位のもてなしを受けられることだろう。陛下とチャールズ国王は幾度もお会いし、プライベートでも心を開いて何でも話せる旧知の仲だ。もはや家族のようなお二人が、お互いの国の最高位の勲章を交換した時、また新たな時代が幕を開けることになる。

皇后雅子さまの頭上にはきらびやかなティアラ、そして皇室とイギリス王室の友好の証である「ガーター勲章」が陛下の胸に輝く。溜息の出るような晩さん会は、6月25日に行われる予定だ。

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放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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