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『24時間テレビ』水卜麻美アナを矢面に立たせて「心苦しい」と言わせた違和感、求められる「本当の説明」

田辺ユウキ芸能ライター
水卜麻美アナウンサー(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

毎年恒例の番組『24時間テレビ』(日本テレビ系)の2024年の放送に対し、厳しい意見が相次いでいる。

同番組は、福祉支援、環境保護などへの理解や必要性を伝えることを目的に1978年にスタート。チャリティー募金も呼びかけられ、その寄付総額は2023年までで433億円をこえている。もっとも多かったのは2011年の第35回で、約19億8千万円。東日本大震災の発生年ということもあり、多数の義援金が集まった。寄付金は、24時間テレビを放送する全国31社の放送事業者で組織された公益社団法人「24時間テレビチャリティー委員会」を通して、支援を必要とする各所へ充てられている。

ただ2023年11月、そんな『24時間テレビ』で重大な不祥事が発覚した。公益社団法人「24時間テレビチャリティー委員会」の1社である系列局関係者が10年にわたり、寄付金を着服していたことが分かったのだ。

6月20日放送の情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)では、8月31日、9月1日に『24時間テレビ47』の放送をおこなうことを伝えた上で、同番組の水卜麻美アナウンサーが「寄付をしてくださった方々、チャリティー事業に関わってくださった方々、並びに視聴者の皆様の信頼を裏切ることとなり、改めて心よりお詫び申し上げます」と着服問題を謝罪。

さらに同日午後放送『DayDay.』(日本テレビ系)でも水卜麻美アナウンサーが登場し、改めて謝罪。これまで寄付をおこなった人、支援を受けた人、番組出演者らに対して「心苦しく思う」とし、答えを簡単に見つけることはできないが、真摯に問題と向き合っている姿を『24時間テレビ47』を通して伝えたいと語った。

心が痛んだ水卜麻美アナウンサーの謝罪について、“街の声”は「意味が分からない」

2つの情報番組で口にされた、謝罪、反省、そして今後の方向性。ただ視聴者的には、水卜麻美アナウンサーがその矢面に立つ形になったことに大きな違和感があったのではないだろうか。実際、筆者が放送当日、別件取材で訪れていた飲食店のスタッフらが同件を話題にしていたので話を訊いてみたところ、「今日(6月20日)のネット記事で初めて着服問題を知って『こんなことあるんだ』とびっくりした。しかもそれを水卜アナが謝罪? なんで? 意味が分からない」と首をひねっていた。これが率直な“街の声”である。

いくら『24時間テレビ』の総合司会者であり、またアナウンサーという立場が自局の意思を代弁する役割もあるとは言え、水卜麻美アナウンサーに同件を背負わせるようなイメージをつけたのはかなり疑問である。その場で詳しく説明するべきなのは、少なくとも水卜麻美アナウンサーではない気がする。

一番の責任者ではない立場の人が駆り出されて謝罪や説明をする場面を見て、心がキュッとする気持ちになったのは、筆者だけではないだろう。なぜならそれは、テレビ業界に限らずさまざまな社会・状況にも重ねることができる「苦い光景」だったからだ。なによりそこで水卜麻美アナウンサーに「心苦しい」と口にさせたのは、日本テレビとして「正しい判断」だったとは思えない。

意地が悪い見方をするならば、2番組にわたる謝罪と説明は、好感度が高い水卜麻美アナウンサーのイメージを使って問題をやわらげようとしている風に映ってしまった。

「愛は地球を救うのか?」という新テーマの是非

もう一つ違和感があったのは、長年の番組テーマだった「愛は地球を救う」から「愛は地球を救うのか?」に変更した点。チャリティーの本質を見直す「決意」をメッセージとして込めたそうだが、どうしても“上の立場”で決められたように見え、新テーマとしてチープな印象も拭えない。

この新テーマは、募金する人たち、支援を受ける人たち、番組をがんばって作っているスタッフ、善意で出演しているタレントに対してやや失礼にも感じられる問いかけではないだろうか。『24時間テレビ』は「愛」という言葉をどのように捉えているのか。そもそも番組が問う「愛」とはなんなのか。それを誰に向けているのか。救うべきものは一体、なんなのか。もしテーマを変更するのであれば、もっと根本的なところを大きく見直す必要があった。

少なくとも水卜麻美アナウンサーに謝罪を任せた部分に、「愛」は感じられなかった。

優れた映像作品とは鑑賞者に行動させること、しかし今回の『24時間テレビ』は?

『24時間テレビ』内の、ドラマ、ドキュメンタリーに関しては、非常にクオリティが高いと筆者は感じている。

筆者自身の持論として「優れた映像作品とは鑑賞者に行動させること」だと考えている。たとえば、グルメ番組でも観た者が「おいしそう、今度ここへ行ってみよう」と思えたら、それはテレビ番組として「勝ち」である。ネットでも、児童支援、動物愛護・支援の広告動画をよく見かけるが、胡散臭いものであっても「自分も役に立ちたい」と行動に移させることができれば、それは動画的には「勝ち」だ。

その点で『24時間テレビ』は、視聴者によっては「偽善的」と批判されることもあるが、チャリティーに対する意識を喚起させ、また多くの人が実際に募金などをおこなっている点で大きな役割を担っている。存続するべきか、するべきではないかと問われたら、筆者個人はどちらかというと「存続するべき」を選ぶ。

それでも、あってはならない不祥事が起きたにもかかわらず『24時間テレビ47』の放送を敢行するのは、さすがに引いてしまうところがあった。しかも「心苦しい」と涙ぐむ水卜麻美アナウンサーを観て、果たして視聴者は「『24時間テレビ』のチャリティーに参加しよう」と行動するだろうか(当然ながらそれは水卜麻美アナウンサーの力不足というわけではない)。

放送がおこなわれる限りは、作り手、出演者たちを応援したい。出演するタレントのファンも、推しの呼びかけに応えたいはず。また、筆者自身も毎回、こういった機会を通してできるだけなんらかの支援と向き合いたいと考えている。ただ、番組を通してそういった一体感を作り出したいのであれば、そして「愛は地球を救うのか?」というテーマを成立させたいのであれば、「本当に出るべき人が出てきて、自分たちの言葉で説明すること」が求められるのではないだろうか。

『24時間テレビ』はまさに今、岐路に立たされている。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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