【JAZZ】北欧が生んだ歌姫が漂わせる“いにしえの残り香”とゴージャスな“ジャズならでは”の歌心
話題のジャズの(あるいはジャズ的な)アルバムを取り上げて、成り立ちや聴きどころなどを解説。今回は、スウェーデン発の新星歌姫、イザベラ・ラングレン『サムハウ・ライフ・ゴット・イン・ザ・ウェイ』。
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スウェーデン中部のヴェルムランド地方出身という注目の歌姫、イザベラ・ラングレンから2014年11月に届いた新作『Somehow Life got in the way』は、彼女に対するシーンの期待度の高さが表われたゴージャスな内容になっていたので、改めて彼女を紹介するのにちょうどいいから取り上げてみたい。
彼女のバイオグラフィーを調べようと思ったら、スウェーデン語の自己サイトしかなかったので(英語版は準備中とのこと)、翻訳ソフトの助けを借りながらたどってみよう。
18歳でスウェーデンを出て、ニューヨークのニュースクール大学へ入学。すぐにライヴシーンで活躍を始めたようなので、スウェーデン時代からすでに自他共に認める音楽の才能があったことをうかがわせる。ギャヴィン・デグロウや、ウディ・アレン・バンドのリーダーとしても知られるエディ・デイヴィスなどとの共演を経てニューヨークでも頭角を現わしていった彼女は、2012年にデビュー・アルバム『It Had To Be You』をリリース。これは2013年に日本でも紹介され、一躍ジャズ・シーンの最前線へ飛び出すきっかけとなった。
オリジナルのカリスマ性を感じさせる魅力的なヴォイス
彼女の声でまず最初に「はっ!」としたのが、高音部がビリー・ホリデイに似ているという点。
これは偶然で、彼女は意識してそう歌っていないと思うのだが、ニューヨークのライヴ・シーンで彼女に優位性を与えた潜在的な原因になっていることは想像に難くない。
もちろん、イザベラ・ラングレンがビリー・ホリデイのコピー・シンガーという印象は薄いし、彼女の声の要素にビリー・ホリデイの魅力とされる嗄れた低音はまったくといってよいほど含まれていない。
なので、イザベラ・ラングレンを紹介するときに、ビリー・ホリデイの名前を出すのは適当ではないと思うのだけれど、もう一方で「はっ!」としたときに彼女がビリー・ホリデイと比肩しうるジャズの表現力をもっていると感じたのであれば、それはあながち的外れではなかったかもしれないと思ったりする。
周囲が贅を尽くすにはそれだけの理由がある?
本作は、2014年6月にスウェーデンのハーノサンド劇場というところでライヴ収録された音源だ。
バックには、ジャズ・バンドのほかに、ザ・ノルディック・チェンバ・オーケストラが参加して、室内楽の壮麗な装飾を施している。さらに、スウェーデン・ジャズ・シーンの人気ミュージシャンたちもゲストに迎え、まさに盛りだくさん。
ニューヨーク(および日本)でも注目される新星の登場で、プロデューサーを含めたスウェーデン陣営がかなり気合いを入れて制作に臨んだことが伝わってくるわけだ。
ただ、ジャズとは不思議な音楽で、贅を尽くしたからといって必ずしも評価されない“あまのじゃく”なところがあったりする。だから本作がいくら着飾っても、「だからスゴいんですよ!」と言えないバイアスがついついかかってしまうんだけれど、それでもなにか言いたくなるんだから、きっとそれ以上の魅力があるに違いない。
着飾ったこと以上の魅力とはすなわち、すっぽんぽんのイザベラ・ラングレンに起因しているということになる。
着飾るという意味が、誇張ではなく、マーキングを狙ったものであるとすれば、本作ほどその効果を発揮しているものはないと言えるだろう。