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ダニー・ガルシアが涙のリング復帰 スーパーウェルター級で3階級制覇なるか

杉浦大介スポーツライター
Amanda Westcott/SHOWTIME

7月30日 ブルックリン バークレイズ・センター

スーパーウェルター級12回戦

元世界スーパーライト、ウェルター級王者

ダニー・ガルシア(アメリカ/34歳/37勝(21KO)3敗)

12回判定2-0(114-114, 116-112, 117-111)

元WBA世界スーパーライト級暫定王者

ホセ・ベナビデスJr.(アメリカ/30歳/27勝(18KO)2敗1分)

不安障害、鬱病を乗り越えて

 フィルデルフィアのベテランが3階級制覇に向けて最初のテストマッチをクリアしたといってよいのだろう。

 過去、スーパーライト、ウェルター級戦線の主役の1人として活躍したガルシアが、34歳にしてスーパーウェルター級進出。その初戦で実力者のベナビデスを2-0ながら明白な判定で下し、実力をアピールしてみせた。

 序盤こそほぼ互角だったものの、スキル、経験で勝るガルシアは徐々にペースを掌握。ジャブ、左右のボディ打ち、機会を見て叩きつける右強打で危なげなくポイントをピックアップしていった。

 今ではスーパーミドル級を席巻する弟デビッドのほうが有名になったが、ホセ・ベナビデスはもともとトップアマとして鳴り物入りでプロ入りした選手。2018年10月にはテレンス・クロフォード(アメリカ)にも善戦しており、戦前はガルシア危うしと見る関係者も少なくなかった。

 しかし、2020年12月、エロール・スペンス Jr.(アメリカ)に判定負けを喫して以来、約20ヶ月ぶりのリングでのガルシアの戦いぶりはやや地味ではあったものの、今後に再び興味を持たせるには十分な勝ち方ではあった。

 「不安障害、深刻な鬱病を経験したが、強くなろうと務めてきた。まだ辛い日はあるけれど、ポジティブであろうとしているよ」

 これがバークレイズセンターに9度目の登場となるガルシアは、試合後のリングで涙ながらにメンタルヘルスに苦しんできたことを告白した。

Amanda Westcott/SHOWTIME
Amanda Westcott/SHOWTIME

 久々の勝利で、少なからず心も解き放たれたのだろうか。家族を連れて会見場に登場した際の笑顔は爽やかだった。隣町の出身ながら、ブルックリンをホームグラウンドのようにしてきたガルシア。そのリング内外の戦いを、ファンはこれからも熱くサポートするに違いない。

ウェルター級でも小柄だった選手のSウェルター級挑戦

 こうして中量級戦線に役者が戻り、今後の見どころは近未来の方向性に移ってくる。

 スーパーライト級時代には印象的な強さを誇示した通称“スウィフト”だったが、ウェルター級では6勝(4KO)3敗という少々微妙な戦績だった。キース・サーマン、ショーン・ポーター(ともにアメリカ)、スペンスというビッグネームには惜敗。トップファイターではあったものの、アミーア・カーン(英国)、ルーカス・マティセ(アルゼンチン)、ザブ・ジュダー(アメリカ)らを連破したスーパーライト級時代のような勢いを感じさせることはなかった。

 そんな経緯を考えれば、焦点は“ウェルター級でも小柄だったガルシアがさらに上の階級でも通用するのかどうか”に絞られる。

 最新試合では同じくウェルター級上がりのベナビデスと比べても、フレームには大きな違いがあった。現在のスーパーウェルター級には4冠王者のジャーメル・チャーロ(アメリカ)をはじめ、セバスチャン・フンドラ(アメリカ)、ティム・ジュー(オーストラリア)といった大柄な選手がずらりと揃っているだけに、慎重なマッチメイクが必要になってくるかもしれない。

 ガルシア対ベナビデス戦のファイトウィーク中、「Showtimeは来年、チャーロ対ガルシア戦の挙行を望んでいる」という噂がメディア間で流れていた。一方、試合後のガルシアは、「サーマンともう一度戦いたい。あるいはキャッチウェイトでのエリスランディ・ララ(キューバ)戦でもいい」と公言。実際にチャーロ、フンドラ、ジューといったサイズと時の勢いを兼備した階級トップの選手たちとの激突前に、もう1、2戦を挟むことになるのだろう。

 ウェルター、スーパーウェルター級はもともとShowtimeが力を入れてきた階級であり、めぼしい対戦相手候補は枚挙にいとまがない。すでにミドル級に上げたララとはウェイトの設定が少々厄介な面があり、だとすれば元スーパーウェルター級王者のトニー・ハリソン(アメリカ)、スペンス対クロフォード戦が実現してダンスパートナーがいなくなった場合のサーマンとの対戦が有力か。

 次戦はおそらく来年だろうが、アル・ヘイモンの寵愛を受けてきたガルシアにはそれ相応のレールが敷かれるに違いない。年齢的にも、立ち位置的にも、おそらくこれから先がラストラン。3階級制覇への挑戦はリスクも大きくなるが、それゆえにスリリングで楽しみな道のりになるはずである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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