旧統一教会問題の対策は道半ば 財産散逸・隠匿の対策、宗教2世問題、清算人の権限強化など課題は山積み
7月8日、2022年同日に起きた安倍晋三元首相銃撃事件から2年を迎えるなか、全国霊感商法対策弁護士連絡会は司法記者クラブで会見を行いました。
霊感商法や違法な献金勧誘によって多くの信者や宗教2世らの人生が狂わされて、家庭が崩壊するほどの深刻な被害が起きました。旧統一教会問題が今どうなっていて、今後どうするべきなのかについての声明を出しています。ポイントを絞っての内容は、今後の統一教会問題における課題などがよくわかるものとなっています。
何らの救済も得られておらず、苦しみから解放されていない
木村壮弁護士は「政府、関係省庁において、不当寄附勧誘防止法などの被害防止及び救済をはかる対策が進められて、2023年10月13日には文部科学省が宗教法人法に基づき旧統一教会の解散命令請求を申し立てられる動きはあった」としながらも「被害者の多くは何らの救済も得られておらず、苦しみから解放されていない」といいます。
「統一教会はいまだ献金などの被害について一部の信徒が行ったものだと述べ、当連絡会が政治的な目的で統一教会を壊滅することを目的とした被害の作出を行い、被害自体が存在しないという態度を取り続けています。こうした態度を改めて被害者に向き合い、全ての被害を賠償していただきたい」(同弁護士)
国に財産の散逸・隠匿の対策について強く要望
国に対しては、解散命令前後の被害者救済のための(旧統一教会の)財産の散逸・隠匿の対策について強く要望します。
解散命令がなされた場合の教団の財産について「清算手続の中で被害者に対しては一定の配当がなされます。しかし全ての被害者に配当した後に残った財産(残余財産)は、統一教会が指定する別の宗教法人に対して財産が移転されることが考えられる」と木村弁護士はいいます。
「しかし統一教会の被害者については、脱会するまでに時間がかかり、そこから(弁護士らに)相談するまでにまた時間がかかります。これは精神的な呪縛や恐怖から、すぐに相談できないという被害者がたくさんいるからです。清算手続が始まっても、すぐに被害の届け出ができない被害者がたくさん出てくると思います。そういった被害者については、清算手続が終了してしまうと、統一教会に対して損害賠償請求ができなくなります。財産が承継された別の宗教法人に対しても、現行法上は損害賠償請求ができませんので、不合理な結果が生じることがないように、被害者が確実に救済されるような法整備が必要です」(木村弁護士)
解散命令が出されれば「教団から離れたい」という思いはありながらも、長年教え込まれた教義からの悪霊、サタンなどの恐怖心とのはざまのなかで苦しむ人は多く出てくると思います。
声明でも「被害者、脱会者に対する心理的サポートを継続して行うような体制づくりの必要性」を求めていますが、国は早急に取り組む必要があります。
清算人の権限強化の法整備を求める
山口広弁護士も、解散命令が出た後の清算手続きについての懸念を述べます。
「せめて、一般の民事手続きのような破産管財人の権限を付与するような法律改正がすぐに行われないと、解散命令が出た後に混乱することは間違いないと思います。清算人の権限が今のままだと、きちんと機能できるかどうか心配です。清算人の権限強化などの法整備については考えていただきたい」
阿部克臣弁護士は「被害者への救済はされておらず、統一教会の問題というのは、全然、終わっていません」と強く話し、国などが行ってきた対策に関しても「道半ば」と指摘します。
「国としての対策をして、被害者をきちんと最後まで救済していくことが必要です。今後、同種の被害が生じないような社会をつくるところまで行って初めて、この問題が解決したといえると思います」
1995年に起きたオウム真理教事件を例にあげて「世界でも例を見ないような凶悪な事件が起きて、カルト被害を体験したにもかかわらず、日本という国はその反省を十分に生かせないまま、数十年後に統一教会の被害が明らかになったという教訓があります。今回きちんとその対策を取らなければ、数十年後に同じような被害が生じるということもありえます」と取り組みの必要性を話します。
旧統一教会と政治の関係の調査と分析の必要性
佐々木大介弁護士は「政治家と統一教会の問題というのがあまり報道されなくなってきてはいますが、問題は根絶されていません。時間が経てば選挙活動などで統一教会の関係者がかかわってくることがありえます。政治家の方には、そのようなことが決して起こらないようにしていただき、それにより新たな被害者が生まれることがないようにしてほしい」と話します。
これまでの統一教会と政治の関係がこの問題を表面化させずにきた一因といっても過言ではありません。同連絡会の声明でも政党及び政治家に対して「これまでの関係について調査し、メディアへの公表を通じて調査結果を有権者に公表するように」求めています。
清算手続きがきちんと機能するような立法が重要
旧統一教会問題に関する課題が山積みであることは声明からもみえています。どれも重要ですが、早急に取り掛からなければならないものについて、山口弁護士は「とにかく解散命令を早く出してほしい。その上できちんと(清算人の権限強化など)法的な対応をとってほしい」といいます。
木村弁護士は優先順位をつけられないとしながらも「日程の関係で考えると、やはり清算手続きがきちんと機能するような立法というのが、重要なのではないか」と話します。
正当な言論を封殺をしたり、誹謗中傷の行為を行わないよう求める
記者から「以前に比べて、旧統一教会に対する社会の関心の勢いが失われているのではないか」との質問をうけて、阿部弁護士は、その原因の一つとして、被害者の声をあげます。
「世の中を動かしていく源泉は、被害者の声が大きいと思います。被害の声を上げる方に対して統一教会が誹謗中傷を行う。これは被害者にとって精神的にとても苦しいことで、こうした状況のなかで2年間ずっと声を上げ続けることが難しくなってきている」と指摘します。
こうした教団や信者らによる対応について木村弁護士は「旧統一教会とその関連団体は、ジャーナリストや全国弁連の弁護士に対して、名誉毀損の損害賠償請求を行ってきております。統一教会が行ってきた不法行為に対する正当な言論であるにもかかわらず、これを封殺するために行ったものと考えざるを得ません。正当な言論を封殺したり、誹謗中傷する行為を行わないよう求めます。被害を名乗り出た2世や元信者に対してもネット上で誹謗中傷が行われています。そうしたことが行われないよう、旧統一教会においても真摯な反省の態度を示していただきたい」としています。
真実の声を上げることを妨げることがないようにする。これが教団が被害を引き起こしたことへ宗教法人としての責任を示す態度の一つだと思います。それがなされない状況は、解散命令の司法判断を受けることもやむなしと国民から見られることにもつながります。
宗教虐待などに適切に対処できる体制を整えること
宗教2世問題について、声明では「2022年12月に厚労省(当時)から出された宗教を背景とする児童虐待に対する指針が、児童相談所または子どもたちに普段接する教職員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーたちに対して十分に周知されているといえない現状があります。これを徹底して児童の健全な成長のための適切な対処が可能な体制を構築していただきたい」としています。
さらに宗教を背景とした児童虐待について「親と子だけの問題ではなく、背後にいる宗教団体による指示、教義による拘束が問題の根幹にあり、児童虐待防止法では十分対応することができない」として法整備の強化が必要との見解も示します。
被害者救済の最大限の取り組みをするためには、何が必要か。
同日に行われた林芳正官房長官の会見で、旧統一教会問題に対しては、政府が一丸となり「法令に基づいた厳正な対応による、被害者救済に最大限取り組む」との考えを述べています。
では、被害者救済をするためには、何がもっとも必要なのでしょうか。
それは文科省が解散命令請求をするために裁判所へ提出した証拠資料などの詳細な分析を行い、一人でも多くの被害者らのヒアリングを通じて、国の側で被害実態を把握することです。被害状況のアップデートをしていくことで、どんな対策や法整備をするべきかが見えてくることになります。