順番が違う!デジタル教科書の使用基準撤廃より後になって視力との関係を調査研究
菅義偉首相が、ICT端末利用と子どもたちの視力の関係についてふれた。先ごろ文科省は、デジタル教科書を使用する基準を撤廃する方針を決めた。ICT端末利用で懸念される視力問題がクリアされた、と受け止められかねない方針転換だった。しかし、やはりクリアにはなっていなかったのだ。
■なぜ調査研究が後まわしなのか
昨年12月22日の有識者会議での合意を受けて、文科省はデジタル教科書の「各教科等の授業時数の2分の1に満たないこと」という基準を、今年4月以降は撤廃することにした。全部の教科の全時間についてデジタル教科書を使うことも、認めたことになる。極端な話、小学校で6時限の授業があれば、6時限ずっと子どもたちはICT端末を見つづけることにもなりかねない。
そもそもデジタル教科書の使用を2分の1未満としていたのは、子どもの健康問題が大きな理由のひとつになっていた。ICT端末のモニターを見つづけると、視力低下につながりかねないからだ。
その基準を撤廃したものの、ICT端末を長時間使いつづけても視力低下にはつながらない、と文科省が明言したわけでもなかった。そこにはふれないで、基準だけを撤廃したのだ。
1人1台端末が今年3月末には実現されるが、それを利用していくにはデジタル教科書の普及が必要だ。文科省が財務省をねじ伏せて実現した1人1台について評価されるには、デジタル教科書が自由に使えるようにする必要があったと想像できる。
ところが、1月21日の参議院本会議で菅首相は、「児童生徒の健康面に留意することも重要だ」として、「デジタル端末を使う機会が増えるなかで今後、児童生徒の視力と日常生活との関連について文科省で改めて調査研究を行い、ICT活用に関するガイドブックにも反映していく」と述べている。
ICT端末と視力の関係について懸念があることを認めている。さらに、その問題がクリアになっていないことも認めたことになるわけだ。
使用基準が撤廃される今年4月から、ICT端末を使ったデジタル教科書での授業が多くなっていくはずである。それを調査研究してICT活用のガイドラインにつなげる、ということらしい。
なぜ、基準を撤廃する前に調査研究を優先させなかったのだろうか。基準撤廃よりも、調査研究が優先されても良かったはずである。菅首相は、子どもたち全員を「実験対象」にする指示をしたことになる。