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外国人観光客が母国語で押し通す行為 かつての日本人も海外旅行で同じことをしていた

中島恵ジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

空前の円安などもあり、全国の観光地に外国人観光客が増加しており、一部でオーバーツーリズムや観光公害といった問題が生じている。観光地のスタッフを悩ませていることの一つが、言語の問題だ。

日本語を話そうとしない観光客

訪日外国人で最も多い韓国、台湾、中国を始め、欧米諸国からの観光客の多くは、日本語ができないため、観光施設や飲食店などで英語、あるいは母国語を話す。しかし、日本人スタッフは英語があまりできないことが多いので、あちこちで小さなトラブルや誤解が発生しているようだ。

一部では、英語メニューを用意したり、翻訳機を使ったり、簡単なやりとりについては事前にスタッフが暗記したりするなど、できるだけ対応しようと努力しているようだが、ゴールデンウィークや週末など、繁忙期にはとても追いつかない。

そんな中、片言の日本語すら話そうとせず、あくまでも英語や自身の母国語で押し通そうとする観光客に嫌気がさす、という人も出てきているようだ。

英語は世界の共通語とはいえ、英語圏ではない日本には、「せめてわずかな日本語でも覚えてから来るべきではないか」と不満に感じたり、困惑したりしている人も多い。

30年以上前の日本人観光客も同じことをしていた

しかし、かつて、80年代のバブル期や90年代の日本人も、海外旅行に行った際、同じように、どこに行っても日本語(母国語)で押し通していた。

日本語で話して通じるわけがないのだが、以前、日本人の旅行は団体観光旅行が中心で、集団で移動していることが多かったため、気が大きくなっており、「相手が(お金を落とす)自分たちに合わせるのが当たり前」と思ったのかもしれない。

また、今では信じられないことだが、ハワイや香港旅行など、日本人に人気の渡航先には、日本語ができるスタッフがいることも多かった。

『週刊朝日』(1985年1月18日号)には、お正月をハワイで過ごした日本人の様子が次のように描かれている。

「(日本人観光客は)日本人か、あるいは日本語ができる従業員がいる飲食店に行き、1日3回、日本食を食べ、英語を話すチャンスはない」

「(日本人)ツアー客がバスでやってきて店内を席捲する。500ドル、1000ドルといった単位で買い物をしている」

免税店でも、百貨店でも、どこでも英語や母国語で押し通す日本人の姿が目撃されていたのだ。

当時「お金持ち」の日本人に対して、海外の観光地の人々がどのように受け止めていたかわからないが、日本語ができるスタッフも多く配備されていたことから、世界中、どこにいっても日本人はあまり不自由しなかったという時代だったのだろう。

どう対応するのがベストなのか

あれから30年以上の歳月が流れ、日本人の海外旅行は減少し、今は円安を背景に、日本の魅力的な観光地に世界中から外国人がやってくるというインバウンドが主流の時代になった。

筆者の専門とする中国の場合、中国人の団体観光客は、かつての日本人同様、どこに行っても中国人スタッフが対応するため、そもそも日本語を話す必要がない。また、個人観光客は日本語ができる人や、英語が流暢なことが多く、「漢字」という共通言語もあるため、中国人はあまり困らないようだ。

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しかし、欧米の観光客については、「母国語や英語で押し通す」人にどのように対応するのがベストなのか、まだ手探りな状態で、各観光地によってその対応は分かれる。人手不足もあり、英語に堪能なスタッフを雇用することも難しいだろう。

相手(観光客)が毎回変わるため、「こうするのがいちばんよい」という正解はないが、日本人もかつて、同じようなことをしていたことを考えれば、彼らが日本語で話さなくても、仕方がないという気にもなる。

せっかくの日本旅行、お互いが気持ちよく過ごせる方策はないものか、夏休みシーズンを前に、いま一度、考えておいたほうがよいかもしれない。

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ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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