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英・EU・米、GAFA念頭にあの手この手の規制策 巨額罰金や企業分割も

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

今年4月、英政府がオンラインプラットフォーム企業を監督する専門組織を設置したと、ロイター米ウォール・ストリート・ジャーナルなどが報じた。

グーグルやFBなど監督の「デジタル市場ユニット」

競争・市場庁(CMA)内に「デジタル市場ユニット(DMU)」と呼ぶ組織を発足。行動規範を整備していくという。政府が規制の対象として念頭に置くのは米グーグルや米フェイスブックなどの大手だ。

英政府は2020年11月に同組織の設置計画を明らかにしていた。サービス内容や個人データの利用法、広告表示などに関し透明性を高めるようプラットフォーム企業に求めるほか、他社サービスを利用しにくくするような行為を禁ずる。また、報道機関などの企業に対し、不公正な契約を強要しないように監督する。

オリバー・ダウデン英デジタル・文化・メディア・スポーツ相は声明で、「世界で最も競争の激しい市場を創出するための重要な節目だ。より低料金の新しいデジタルサービス開発への道を開き、消費者の選択の幅を広げる」と述べた。

英政府は20年11月「オンライン・ハーム」(オンライン有害情報)と呼ぶデジタル規制法案を公表した。フェイスブックや米ツイッターなどのSNS企業に違法コンテンツの削除や拡散防止を義務付けるもので、違反があった場合は世界売上高の最大10%の罰金を科すという。

英政府は巨大プラットフォーマー(図1)を対象にする反競争行為に関する規制案も策定した。強大な市場支配力を持つ企業を「戦略的市場地位(SMS)」に指定し、法的拘束力のある行動規範を順守させるとしている。

こちらもグーグルやフェイスブックなどが対象になる見通しで、競争を阻害したと判断すれば最大で世界売上高の10%の罰金を科すよう提案している。19年の売上高を基に算出すると、グーグルに対する制裁金は162億ドル(約1兆7600億円)、フェイスブックは71億ドル(約7700億円)になる見通し。

図1 コロナ禍も利益増大の米IT大手(インフォグラフィックス出典:ドイツStatista)
図1 コロナ禍も利益増大の米IT大手(インフォグラフィックス出典:ドイツStatista)

EU、巨大テック対象のデジタル規制法案

今回の英政府の新組織発足は、世界で最もテクノロジー大手に対する規制が厳しい欧州連合(EU)の動きに続くものだと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

EUの欧州委員会は20年12月、米国のテクノロジー大手を念頭に置いたデジタル規制法案を公表した。「デジタル市場法」と「デジタルサービス法」の2つからなるもので、20年前に制定した現行法の大幅改正を狙っている。

このうち「デジタル市場法」は、自社製品・サービスの優遇などを禁じたり、企業を買収する際の事前通知を義務化したりと、巨大企業による競争阻害行為の抑止を狙っている。スマートフォンの標準搭載アプリの削除などを要求する可能性があり、米アップルやグーグルが影響を受ける見通し。EUによるとこれは、検索エンジンやSNS、オンライン仲介などのサービス上で不公正な商慣行を続けている大手のみを対象にする規制。フェイスブックや、オンラインマーケットプレイスを運営する米アマゾン・ドット・コムも対象になるようだ(図2)。

重大な違反には、世界年間売上高の最大10%の罰金を科す可能性がある。また、違反行為が組織的で、他の是正策がないとEUが判断すれば、企業分割などの罰則を科す可能性もあるという。

一方の「デジタルサービス法」は、EU域内人口の約10%にあたる4500万人以上の利用者を抱えるオンラインプラットフォームを対象にする。違法なコンテンツや商品、サービスの迅速な削除などを義務付け、利用者ごとに異なるネット広告には、その表示基準の開示も求める。こちらもグーグルやフェイスブック、アマゾンを念頭に置いており、世界売上高の最大6%の罰金を科す可能性がある。

図2 米IT大手の1分当たり売上高(インフォグラフィックス出典:ドイツStatista)
図2 米IT大手の1分当たり売上高(インフォグラフィックス出典:ドイツStatista)

バイデン米政権、GAFAへの圧力継続

テクノロジー大手に対する規制強化の動きは米国でも起きている。グーグルは米国で3件の反トラスト法(独占禁止法)訴訟を提起されている。

米司法省は20年10月20日、11州の司法長官とともにグーグルを提訴した。この訴訟には後にカリフォルニア州などの3州が原告団に加わった。20年12月16日にはテキサス州など10州の司法長官がグーグルを提訴。同12月17日にはコロラド州など38州・地域の司法長官が同社を提訴した。また、米連邦取引委員会(FTC)とニューヨーク州などの48州・地域の司法長官は12月9日、反トラスト法違反の疑いでフェイスブックを提訴した。

バイデン米大統領は21年3月22日、FTCの委員に米コロンビア大法科大学院のリナ・カーン准教授を指名すると発表した。カーン氏は反トラスト法・競争法の専門家。米議会下院司法委員会反トラスト小委員会の法律顧問を務めた。同小委員会は20年10月にグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのいわゆる「GAFA」を対象にした反トラスト法調査報告書をまとめたが、カーン氏はこれに携わった。

アマゾンを標的、米小売り団体が全米規模の連合

ウォール・ストリート・ジャーナルは21年4月6日、中小企業で構成する複数の米小売り団体が、アマゾンなどを念頭に反トラスト法の強化を求める全米規模の連合を結成すると報じた

食料品店や書店、オフィス用品店、金物・工具店などを代表する複数の小売り団体や経済団体が結集し、全国組織「スモール・ビジネス・ライジング」を立ち上げる。参加企業は数千社に上る。法改正や法執行の強化を求めていくという。

オンラインマーケットプレイス運営企業が他の業者と競合する自社製品を販売することを禁じるべきだとして米議会議員に訴えていく。アマゾンはマーケットプレイス事業の分離を余儀なくされる可能性があるとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

  • (このコラムは「JBpress」2021年4月8日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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