死と隣合わせの日本最難関コースに溢れる登山者 山岳ガイドが感じた危機感
さて、夏も終盤。とはいえ残暑が続くわけですが、標高が高い山岳ではそろそろ、長袖と防寒ウェアが手放せなくなる9月です。四季を通じて楽しむことができる日本の登山、遭難しないために一番大切なことをお伝えします。
この8月18日、日本山岳登山コースの最難関といわれる「奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳」を歩いてきました。岩場の不安定さ、一瞬の転倒が致命的な事故につながる圧倒的な高度感の険しいルート、より安全な道を探すこと(ルートファインディング)の難しさなど、天気が悪くなれば撤退することさえも困難となる上級者向けのコースです。
美しい写真、動画とルート解説、個人の感想などは、雑誌やインターネット上には多く存在しています。それらを見たと思われる実に多くの若者が挑戦していました。正直言って、どこでミスしても簡単に「死ねる」場所だらけの日本最難関コース上に、何ら緊張感乏しく歩き回る登山者の姿に恐ろしさも感じました。
挑戦自体はとても素晴らしいことですが、一瞬のミスが一生を台無しにしてしまうシビアな挑戦であるという認識は少ないようです。今年の夏も重大事故が発生しました。
この登山コースは地質学面からの不安定な岩質と北アルプス高所の気象条件から、今後も最難関コースであり続けることでしょう。しかし、この特有の難しさがアルプス最高の登山ではないことを強く主張しておきたいと思います。素晴らしい登山は無数にあるのです。
遭難しないために一番大切なこと、それは不安定な登山道を歩く身体能力と歩き続けられる体力なのです。
1:他人のレビューを見てあとは天気だけが心配だな、と思っていたら、あなたはあぶない登山者です。
2:大勢が登っているから行けるだろうと考えていたら、あなたはあぶない登山者です。
道迷い遭難、転倒による骨折や捻挫で歩行困難、体力不足による歩行遅延、悪天候による体力消耗など、現代人の遭難事例からみて、その発生の第一原因は「登山者自身の体力不足」であると私はみています。身に付けた技術を発揮するにはしっかりとした体力の裏付けが必要なのです。
登山は前日までに培った自分の体力が全てです。その体力を温存させるには小まめな栄養補給と水分+ミネラル補給が欠かせません。あわせて、メンバーの体力に応じた運動負荷の調節が重要です。
さて、あなたの身近に登山ができる山はあるでしょうか。登山口から頂上までの標高差は何百mあるでしょうか。
自分の登山体力を測ってみましょう。極端に特殊な技術を必要としない登山という前提で、次の点をクリアできるか試してみましょう。
その時、自分の健康管理を自分自身でコントロールする必要があります。
第一目標:体重の10%重量の荷物を背負って、1時間あたり標高差300mを登ることができる、且つ、4時間連続して歩き続けられる。
第二目標:体重の10%重量の荷物を背負って、1時間あたり標高差450mを登ることができる、又は10時間連続して山を歩き続けられる。
第三目標:体重の20%重量の荷物を背負って、1時間あたり標高差300mを登ることができる、且つ、6時間連続して歩き続けられる。
第四目標:体重の20%重量の荷物を背負って、1時間あたり標高差450mを登ることができる、且つ、10時間連続して山を歩き続けられる。
「奥穂高岳~ジャンダルム~西穂高岳」ルートを安全に楽しむなら、第四目標を継続的にクリアできるようになってから計画してはいかがでしょうか。
秋山はすぐそこまでやってきています。週末、体力チェック山歩きしてみてはいかがでしょうか。