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今年はやたら目立つ? 80年代など過去ブームに頼る映画界は、行き詰まっているのか。観客のニーズなのか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(C)2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会

5/24に劇場公開される『帰ってきた あぶない刑事』は、メディアでも多く取り上げられ、その期待値の高さが伝わってくる。舘ひろしと柴田恭兵のコンビが復活。浅野温子、仲村トオルといったオリジナルのドラマ版のキャストが集結し、当時のファンには胸アツものである。

1986年10月に日本テレビ系で放映がスタートした「あぶない刑事」は、翌1987年9月まで1年にわたって続いた。その直後の12月には映画版『あぶない刑事』が公開。1988年夏には劇場映画第2弾、直後の秋にはドラマ第2作が始まり、半年後にドラマが終わると、映画第3弾……と、80年代末は「あぶデカ」が社会現象的なブームを作っていた。

これだけの人気を築いたので。1990年代、2000年代、2010年代にも、忘れた頃に映画が誕生。2015年の第7作『さらばあぶない刑事』で完結とアナウンスされるも、2024年、あっさりと撤回されて新作が公開される、舘ひろしは74歳、柴田恭兵は72歳なので、さすがに10年後は難しいかもしれず、今回は見納めとなるのか?

いずれにしても、人気作の何度もの復活に喜びの声が上がると同時に、80年代ドラマのブームに現在も頼って新作映画を作ることには、否定的な意見があるのも事実。過去の栄光に頼ってばかりいたら、俳優をはじめ作り手たちの新たな作品へのチャレンジ機会・精神が減退し、新たな才能の活躍する場がそれだけ狭まるのだから。

今年は「あぶない刑事」だけでなく、80年代あたりを中心に“過去”の栄光に頼った映画が相次いでいる。3月公開の『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』は、1984年の1作目のキャストも大挙出演し、映画ファンを喜ばせた。「あぶデカ」の翌週、5/31公開の『マッドマックス:フュリオサ』は、元をたどれば1979年公開の『マッドマックス』。監督も変わらずジョージ・ミラーが務めている。その他にも4月公開『オーメン:ザ・ファースト』(起源:1976年)、昨年12月公開『エクソシスト 信じる者』(起源:1973年)、5月公開でヒット中の『猿の惑星/キングダム』(起源:1968年)など、かつての人気作、映画史に残る名作の世界を基にした新作が大量出現。この後も、6/21にウィル・スミス主演の『バッドボーイズ RIDE OR DIE』(起源:1995年)が公開。8月には『ツイスターズ』が待機している。竜巻のパニックを描いた1996年の『ツイスター』の28年ぶりとなる続編だ。

日本映画でも4月には『陰陽師0』が公開されたし、大ヒット中の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』にしても、その映画1作目は1990年代である。10〜11月には「踊る大捜査線」の新作が2部作(『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』)で公開される。同作は1997年のドラマがシリーズの発端。このように“おなじみ”の世界がアップデートされ、繰り返されている。

続編やシリーズ、サブキャラを中心にしたスピンオフ、あるいは名作リメイクなど、こうした“過去の遺産”に頼る傾向、その流行は今に始まったことではなく、数十年にわたって映画界の常識にもなってきた。それでも2024年は、例年に比べてこのタイプの作品数が際立っている印象。

ハリウッドでは1988年のコメディ『裸の銃を持つ男』をリーアム・ニーソン主演で、1987年のアーノルド・シュワルツェネッガー主演作『バトルランナー』をグレン・パウエル主演&エドガー・ライト監督で、それぞれリメイク製作が先日発表されるなど、80年代を中心にますます“回顧”の流れは加速している。

前述したとおり、どこか映画界全体に漂う閉塞感、新たなチャレンジへの後ずさり感も伝わってくるが、こうした作品に期待されるのは「カンフル剤」としての役割だ。とくにコロナ禍以降、重要になっている。

2022年の特大ヒット作『トップガン マーヴェリック』が好例で、コロナをきっかけに映画館から足が遠のいた中高年世代の観客を呼び戻すきっかけになった。1986年の『トップガン』以来、34年ぶりの続編であり、まさに80年代のノスタルジーが記録的な人気へと昇華した。コロナ以前ではあるが、『ボヘミアン・ラプソディ』も70〜80年代にもう一度浸る喜びが、大ヒットのひとつの要因になっていた。コロナ禍が一因とはいえ、一度映画館から遠のいた観客層は、それが日常となり、なかなか戻ってこないのが実情。実際、その世代に支えられていたミニシアター系の苦境は今も続いている。こうした状況で、特定の時代のノスタルジーを感じ、人によっては青春を取り戻す作品の必要性は間違いなくあるのだろう。

ただ2024年のように乱立すると、『エクソシスト』『ゴーストバスターズ』『オーメン』のように、明らかに物足りない興行結果の作品が増えるのも現実。そうなると、この流れに否定的論調も目立ってしまう。『マッドマックス』は前作『怒りのデス・ロード』で新たな世界観を構築し、ファン層を広げたので、同種の作品とは比較しづらいが、『あぶない刑事』は80年代ノスタルジーを喚起する作品なので、どこまで観客を取り込むのか。その数字に注目が集まる。成功を収めれば、さらなる“復活”の企画への大きなプッシュとなるに違いない。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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