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運転見合せ!なぜ、こんなに鉄道の橋げたにトラックがぶつかるのか~腹立たしさの背後に潜む問題

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

・「橋げたのトラックがぶつかったために遅延」が多くないか

 1月に入り、JR西日本では遅れが発生しない日の方が珍しいほど、毎日、なにかしらで遅れている。そんな中でも、最近、目立つ理由が一つある。22日夕方にも、JR神戸線で橋げたにトラックがぶつかり、運転見合わせが起こり、ちょうど帰宅ラッシュ時に当たったために振り替え輸送ルートになった阪急神戸線も大混雑になった。

 しかし、多くの人が感じたのは「また、橋げたにぶつかったのか」という疑問だったろう。実は、2日前の20日午前にも、やはり橋げたに車両がぶつかり、運転を見合わせていたからである。

 利用者の話を聞いても、「橋げたにトラックがぶつかるという事故が、ここ数年で多すぎないか」、「以前は、そんなに聞いた理由ではなかった」と言う。この傾向は、JR西日本に限られたことではない。

JR西日本の遅延状況(JR西日本のホームページより)
JR西日本の遅延状況(JR西日本のホームページより)

・ほぼ毎月、トラックがぶつかる橋げたも

 JR九州は、2019年10月に大分県トラック協会に「鉄道橋への衝撃事故防止のお願い」と題した文書を送った。この中で、JR九州は「近年、橋桁(陸橋)及び防護工への衝撃事故が年々増加し」ているとし、「特に大分市内、日豊本線東別府・西大分間祓川橋りょう(大分県道696号高崎大分線)で、2019年1月~10月間で8件の防護工への衝撃事故が発生して」いるとしている。さらに、この文書の送付以降の11月8日は、一日で2件もの衝撃(衝突)事故が発生している。ほぼ毎月一回の事故が起こっていることになり、異常な状態だ。しかし、こうした橋げたへの衝撃事故の増加は、全国的な傾向だ。

労働力の不足感(全日本トラック協会)
労働力の不足感(全日本トラック協会)

・労働力不足が様々な問題を引き起こす

 「以前は運転手もベテランが多く、通ってはいけないルートなどを各自で把握していたのですが、最近は、カーナビ頼りが多く、指示通り走っていき、こうした事故を起こしがちだ」と首都圏で運送会社を経営する経営者は、そう話す。「大きな声では言えないが、運輸会社はどこも人材不足で、慣れていない運転手が乗務することも多い」とも言い、「運転手も高齢化が進んでいて、そういう点でも心配がある」と人材不足にも問題があると指摘する。

 

 実際、全日本トラック協会の2019年8月の調査でも、トラック事業者の70%近くが労働力不足(「不足「」および「やや不足」)だと回答しており、また、トラックドライバーの平均年齢も他業界と比較しても高齢化が進んでいる。その結果、高齢ドライバーの事故も増えており、2017年の死傷事故の運転者の年齢別件数を見ると、総計14,216件のうち、運転者の年齢が60歳から64歳の件数が1,552、65歳以上も1,031となっている。60歳以上のドライバーが絡む死傷事故は、実に16%になっている。事業用貨物自動車による運転者死傷事故の年齢別推移を見ても、この10年間で24歳以下が3分の1に急減しているのに対して、40歳以上の割合が高くなっており、ドライバーの高齢化が進んでいることを表わしている。

高齢化の進む道路貨物運輸業(全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2019」より)
高齢化の進む道路貨物運輸業(全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2019」より)

・規制緩和の影響も?

 別の運輸会社の管理職社員は、「2004年に道路法(車両制限令)に定める車両の高さの最高限度が従来の3.8メートルから、道路管理者の指定道路の通行にあたっては4.1メートルに規制緩和された。その後、指定道路区間の認定が進み、多くの道路で高さ4.1メートルの車両が通行可能になっていることから、ドライバーが勘違いして指定道路以外を走り、特に鉄道の橋げた部分で事故を起こしていると考えている」と話す。

 鉄道の下を道路が通っている場合、もともと明治や大正期に土手を築いてそこに線路を敷く工法が採られている区間も多く、そのため、現在でも充分な高さを確保できていない区間が多くある。また、従来の3.8メートルであれば通行可能であるが、新基準の4.1メールの高さがある車両で通行しようとすると、橋げた部分への衝撃事故を発生させる。

 「ドライバー不足が慢性化しており、使用するトラックの大型化は重要。しかし、運輸会社がドライバーの教育や運行管理システムをしっかりさせないと、今後も事故を誘発する」とその管理職社員は指摘する。

 こうした意見を裏付けるように JR九州は「この種の衝撃事故は、高さ制限に対する自動車運転者の意識の低さが原因」だと指摘し、さらに「列車の運行に支障が生じた場合は、損害賠償請求を行う場合がある」と注意喚起を行っている。

・「腹立たしい」ことの裏側にあるより大きな問題

 「鉄道の橋げたにトラックが、よくぶつかって列車ダイヤが乱れる」というのは、鉄道利用者からすると腹立たしいことだ。しかし、その背景にある問題を考えると、日本の社会が否応なく直面している高齢化や若年労働者不足の深刻さに行き当たる。

 運輸・物流は社会、経済の血管だ。こうした問題を乗り越えるためのICT(情報通信技術)を活用したナビゲーションシステム、自動走行システムなど広範な領域での技術革新、新技術導入が急務になっている。

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☆参考資料

 全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2019」

 国土交通省関東地方整備局「重さ指定道路・高さ指定道路の状況」

 九州旅客鉄道株式会社大分鉄道事業部『「トラックによる鉄道橋への衝撃事故が多発しています!」JR九州からのお願い』

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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