「それってパクリじゃないですか?」弁理士視点の感想と視聴者向け法律解説(2)
前回に引き続き、4月19日の「それパク」の感想と一般視聴者向け解説です。知財に直接関係ない部分は書いてないですが、多少のネタバレになってしまうので未視聴の方はご注意下さい。
今回は「パロディ商標」というなかなかいいテーマを突いてきました。商標権の本来の使い方は類似品を排除することです。これに対して、パロディ商標とは敢えて有名商品と類似した商標を使うことで面白がることであって、ある意味商標権とは相反するものです。商標制度としてパロディをどう扱うかは難しい問題です。
日本の今までの審査や裁判の実務では、パロディ商標だからどうしたという要素はあまり加味されず、単純に言葉として(あるいはマークとして)似ているか否かで判断されることが多いです。
ところで、これは今までに何回も書いている個人的見解ですが、パロディをする権利は「表現の自由」として絶対に認められるべきです。しかし、それを商標登録するということはどんなもんかと思います。商標登録とは「このパロディをやっていいのは自分だけ」という権利を獲得することであり、他人の「表現の自由」を制限することになってしまうからです。パロディとは、本家が大目に見てくれる(あるいはいじってもらえて美味しいと思ってくれている)という条件の下で誰でも自由にやれるものであって、かつ、本家から怒られたらすぐやめるというのが正しい姿だと思います。
さて、法律的な話をすると、「商標の類否」という専門用語が出てきました。「類否」とは類似しているか否かということです。商標の類否判断は読み方(称呼)、外観、概念の3要素を、取引の実情を加味して総合的に行うものとされています(実際には結構なグレーゾーンがあります)。商標の類否は商標権侵害訴訟、および、類似先登録商標による出願の拒絶という局面で関係してくる重要な判断です。
「緑のお茶屋さん」と「緑のおチアイさん」が類似するかは微妙なところですが、「緑のお茶屋さん」がTVCMを打っていて周知性が高い(世の中に広く知られている)という前提であれば、類似とされる可能性はあるでしょう(「取引の実情を加味」とはそういう意味です)。一般に、周知性が高い商標は類似する範囲も広く判断されます。しかし、商標権は使用対象となる商品やサービス(役務)とペアで発生しますので、「緑のお茶屋さん」がお茶を、「緑のおチアイさん」が菓子を指定商品にして登録されているという前提であれば、月夜野ドリンクは商標権を行使できません。
「不正競争防止法なら差し止められるかも」という発言があったので、訴訟は商標権ではなく不正競争防止法に基づいて行うつもりだったのでしょう。ここは、さすがにややこしいので説明しなかったのだと思いますが、不正競争防止法であれば、商品やサービスが非類似でも差止や損害賠償請求が可能です。また、相手が商標権を持っていても、それもオーバーライドして権利行使可能です。この場合には、「緑のお茶屋さん」が周知(かつ、消費者が混同している)あるいは著名(周知よりも有名度が高い)ことが必要ですが、その条件は成り立っているという前提なのでしょう。
ところで、「ふてぶてリリィ」の件は投げっぱなしになっていましたね(次回以降で回収されるのでしょうか?) 商標登録も(特許と同様に)先願主義であり、先に出願された方が優先される、そして、他人の勝手出願により商標権を取られると大変なことになるという点の説明のために出てきたような話でしたね。
相手の出願より先にこちらの方が有名になっていたことを立証できれば商標権を取り戻せるかもという話が出てきました。これは、無効審判を請求することだと思います。さすがにややこしいので番組中では説明がなかったですが、前回のように特許の場合にはパクリであること(冒認出願であること)を立証できれば無効にできますが、商標の場合には自分の商標が周知(有名)になっていたことを立証しなければなりません。これは、現実にはかなりハードルが高いです。ネット上で多少売れているくらいでは不充分であり、TVや新聞に広告を打っている、TVや新聞に頻繁に取り上げられている、消費者のアンケート調査での認知度がきわめて高いといったレベルの周知性が必要です。「ラーメン二郎は周知ではない」とした特許庁の判断もあるくらいです(関連過去記事)し、そこそこ有名なYouTuberさんがチャンネル名を勝手出願されてしまったケースもあります(その後に勝手出願主が炎上を恐れてか登録料を支払わず取下になったので何とかなりましたが)(関連過去記事)。