「それってパクリじゃないですか?」の弁理士視点の感想と一般視聴者向け法律解説
知財業界でも話題沸騰の、日テレのドラマ「それってパクリじゃないですか?」を見ました(原作は未読です)。弁護士を中心にしたドラマは数え切れないほどありますが、弁理士を中心にしたドラマって今までなかったんじゃないでしょうか?弁護士ドラマは法廷という否が応でも盛り上がる場が用意されていますが、弁理士ってどう考えても地味です。
そもそも、視聴者の大多数の人は弁理士という士業の存在すら知らないのではと思います。弁理士→便利屋?という、お約束過ぎるギャグが冒頭に出てきたので笑ってしまいました(メーカーの商品開発勤務の人が、新人とは言え弁理士を知らないという設定はちょっと無理があるように思いましたが)。
弁理士先生が監修に入っていることもあり、法律的におかしな点もなく、かと言って一般視聴者にとって難解になり過ぎることもなく、ドラマとしての面白さとのバランスも取れていたのではと思います。
さて、以降は、一般視聴者の方向けに簡単な法律的解説をしてみます。多少ネタバレになってしまうので、録画視聴の方はご注意下さい。
「冒認出願」という専門用語が出てきたのでちょっとびっくりしました。「冒認」とは普通の辞書にも出てこないかなり専門性が強い用語です(古い用語であり、現在は条文上でも使われていないと思います)。一般の方は「冒認」という字面を見てもイメージしにくいですよね。さすがにわかりにくいと思ったのか、画面でも解説出していました。発明者(あるいは、発明者から権利を引き継いだ人(多くの場合は発明者の雇用主))ではない人による出願です。簡単に言えば、他人のアイデアをパクって勝手に特許出願してしまうことです。
「先願主義」という言葉も出てきました。特許取得の上で優先されるのは、先に発明した人ではなく、先に出願した人ということです。「特許は言葉を使った陣取り合戦」というのは実務家から見ても名言だと思います。
しかし、先願主義が成り立つのは、特許を受ける権利を持つ人(多くの場合は発明者の雇用主)が出願した場合であって、そうでない場合、つまり、上記の冒認出願の場合には、先願であろうが関係ありません。第三者が無効審判を請求して冒認出願を立証できればその特許を無効にできます。
ただ、単に無効にしてしまうと、特許権が消滅して、正規の権利者になる資格がある企業(月夜野ドリンク)も困ってしまいます。このような場合には、無効審判ではなく、特許権移転請求訴訟を提起して、特許権を取り戻すことができます。最初は「冒認出願を立証できれば特許を無効にできる」とずっと言っていたので、うーんと思っていましたが、最後に特許権移転請求訴訟の話(正確に言うと訴訟を材料にした交渉)が出てきて、つじつまが合ったので安心しました。
なお、現実には、冒認出願の立証はきわめて困難であり、このドラマのようにはいきませんが、そこは突っ込んでもしょうがないでしょう。また、現実にあんな弁理士がいるかというのも触れないでおきます。