シリアのアル=カーイダが支配する地域に忍び寄る新型コロナの脅威:重篤患者がトルコからイドリブ県に
解放区で新型コロナウィルス感染者が死亡したとの情報拡散
シリアの反体制系メディアは4月9日、シャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県内の反体制派支配地、いわゆる「解放区」で、高齢の男性1人が新型コロナウィルスに感染して死亡したとの情報がSNS上で拡散されていると伝えた。
シャーム解放機構は、国連安保理や米国が「シリアのアル=カーイダ」とみなしているテロ組織。かつてはシャームの民のヌスラ戦線と称していた。
反体制系サイトの一つBawaba-syによると、死亡したのは、イドリブ県カファルナ村出身の高齢の男性。
4月8日にトルコからイドリブ県バーブ・ハワー国境通行所を経由してシリアに帰国したが、その際、新型コロナウィルスに感染したと思われる症状を発症していたため、サルキーン市内の病院に隔離され、9日早朝に死亡した。
また、Brocar Pressによると、この男性は心臓と肺に基礎疾患を煩っており、トルコで治療を受けていた。だが、合併症を引き起こしたため、トルコ領内の病院からシリアに移送され、サルキーン市で新型コロナウィルス感染を疑われたという。
症状が悪化した男性がなぜトルコからシリア領内に移送されたのか理由は不明。
サルキーン市でのPCR検査で採取された男性の検体は、世界保健機構(WHO)の緊急対策によって辛うじて検査・治療態勢が整えられたイドリブ市に運ばれ、「解放区」で保健衛生活動を行っているイドリブ保健局の早期警戒センターで分析にかけられた。
その後、シャーム解放機構に自治を委託されている自治組織の救国内閣の保健大臣を務めるマラーム・シャイフ氏がツイッターに次のように綴り、新型コロナウィルス感染によって死亡したとの情報を否定した。
シャイフ氏によると、3月25日から4月8日までに「解放区」で81人がPCR検査を受けたが、結果はいずれも陰性で、同地で感染者は確認されていないという。
シリア国内の感染状況
シリアの保健省は4月8日、新型コロナウィルス感染者1人が回復したことを明らかにした。
これにより、4月8日現在のシリア国内での感染者数は計19人、うち死亡したのは2人、回復したのは4人となった。
一方、北・東シリア自治局(クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体)の支配地域、トルコ占領下の「ユーフラテスの盾」地域(アレッポ県北部)、「オリーブの枝」地域(アレッポ県北西部)、「平和の泉」地域(ラッカ県北部およびハサカ県北部)では、感染者は確認されていないという。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)