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トップモデル出身女優はハリウッドの根強い偏見を跳ね返せるか!?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
まるで自分自身を演じる「ネオン・デーモン」のアビー・リー

トム・ハーディを主役にイギリス犯罪史上に名を刻む凶悪犯の半生を追った「ブロンソン」(08)や、孤高の天才ドライバーが愛する女のために裏社会とガチで勝負する「ドライヴ」(11)等、演出、画質ともに濃厚なタッチを信条とするデンマーク人監督、ニコラス・ウィルディング・レフンの最新作は、意外にもファッション業界が舞台である。しかし、さすがに個性派監督。生き馬の目を抜く熾烈なモード界で、エル・ファニング演じるドールのような新進モデルが、彼女の若さに惹きつけられるエージェントやカメラマンたちによって文字通り消費されていくプロセスを追うだけでなく、さらに映画をそこから別次元へとシフトチェンジさせて見せる。別次元の正体は見てのお楽しみとして、この「ネオン・デーモン」で注目されるのは、ヒロインに群がる先輩モデルの1人をアビー・リーが演じている点だ。

ランウェイから消滅後、「マッドマックス」で堂々女優デビュー

ヒロインは人形のようなエル・ファニング
ヒロインは人形のようなエル・ファニング

アビー・リーは実際に2010年代にロシア人モデルのナターシャ・ポーリー等と共に世界のランウェイを席巻したスーパーモデル。オーストラリアのメルボルン出身で180センチの長身と独特のすきっ歯が魅力で、パリやミラノでは度々ファーストルックを飾ったこともある。その後、モデルの宿命としていつの間にかランウェイから姿を消したアビー・リーだが、2015年にアメリカのグリーンカードを取得すると速攻で女優に転身し、同郷の監督、ジョージ・ミラーのライフワーク「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15)でマックス等と共に脱走する妊婦の1人を演じて映画デビューを飾る。「ネオン・デーモン」以降も、マシュー・マコノヒー、イドリス・エルバ共演のファンタジーホラー「The Dark Tower」や、ミステリー「Welcome the Stranger」(共に17)でビリングのトップを奪取する等、けっこう多忙な彼女。モデルとしてはやや後輩にあたるカーラ・デルビーニュ(「スーサイド・スクワッド」16他)と共に、ハリウッドでは売れっ子のモデル出身女優として知名度と認知度を高めつつある状況だ。

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モデル出身女優たちを待ち受ける厳しい現実

しかし、モデルから女優に転身してオスカー女優にまで上り詰めたアンジェリーナ・ジョリーやシャーリーズ・セロンは別格として、ランウェイで光り輝いていた個性がスクリーンでも同じく効力を発揮するかと言えば、必ずしもそうではない。かつて、1990年代のスーパーモデル・ブームを牽引したシンディ・クロフォード(「フェア・ゲーム」95他)を筆頭に、ナオミ・キャンベル(「ガール6」96他)、クラウディア・シファー(「ラブ・アクチュアリー」03他)、クリスティ・ターリントン(「Ready to Wear」94他)等、元スパモ軍団の女優転身計画は、ほぼ失敗に終わっている。つまり、美しくてスタイルが良ければ必ず女優として成功するとは限らないという当たり前のロジックが、ハリウッドでは常識とされているのだ。否、むしろモデル出身女優への偏見すらあると聞く。

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先輩たちはみんな絶え凌いできた!?

シャーリーズ・セロンはかつて、ハリウッドのプロデューサーから「ブロンドで美人なら頭は空っぽに違いない」と露骨に決めつけられて悔しい思いをしたと告白している。そんな経験が彼女のモチベーション維持につながったことは容易に想像がつくし、トップモデル出身女優のパイオニアとして「アメリカン・ジゴロ」(80)の有閑マダム役でブレイクし、今や伝説的な存在であるローレン・ハットンは、当時メディアから「体で役を取ったのか?」とありもしない偏見に満ちた酷い質問をされ続けることにぶち切れて、「そうそう。お察しの通りよ!」と居直ったという逸話がある。

そんな先輩たちの血と涙の歴史を、アビー・リーやカーラがどう跳ね返し、そして受け継いで行くのか?彼女たちが「ネオン・デーモン」のヒロインのように物珍しさから使い倒され、消費されて行って欲しくないと心から願うばかりだ。

ネオン・デーモン

2017年1月13日(金) TOHOシネマズ六本木ヒルズほか 全国順次ロードショー

配給:ギャガ

(C) 2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

公式HP:http://gaga.ne.jp/neondemon/

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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