パリインテリア最前線 - AD Interieurs 2017 展覧会 -
ヴァカンスが明けて新年度がスタートした今週。セーヌ河を挟んでルーブル美術館の対岸にある造幣局で、なんとも贅沢な展覧会のオープニングがあった。
フランスで最もハイセンスなインテリア雑誌とされている『AD』の主催で、パリのインテリアシーンを代表する10数名のデザイナー、クリエーターたちがこの展覧会だけのオリジナル空間を創造するというものだ。舞台となった造幣局はパリでも指折りの歴史的建造物の一つだが、昨今は前衛アーティストのエクスポジションを次々と開催することでも注目を集めている。
今回の展覧会では上階の各室をクリエーターたちがそれぞれのテーマでデザインするというもの。ダイニング、寝室、キッチンなど住まいの各パートの用途を想定し、さらに、木、メタル、革、布など、得意のマチエールに焦点を当てて表現するというお題が設けられている。
招聘された一人、トーマス・ブーグ(Thomas BOOG)氏はかねてから私が注目してきたクリエーターで、貝や半貴石を素材にして夢のような空間やオブジェを創造する。スイスの生まれだが、生粋のパリジャン以上にパリのエレガンスを体現してきた人で、その稀有なセンスとクリエーションはフランスだけでなく世界の富豪から支持され、世界各所でデコレーションを手がけてきている。
そんな彼が今回の展覧会で選んだお題は「トイレ」。「家の中のとても大切な部分」という彼の意見に賛同する人はきっと多い。ついつい後回し、隅っこに追いやられがちなパートだからこそ逆に腕の見せ所。案の定、大小様々な無数の貝殻を駆使しながら、まるで玉手箱のようなトイレ空間を披露した。鏡と洗面台周りは竜宮城、はたまた蓬莱山を思わせるようなボリューム感のある石の造形で、それらが最新システムと見事に調和している。ちなみに、便器はフランスでも一目置かれるTOTOが採用されていた。
そのほかのデザイナーによる作品で特にスマホの被写体になっていたのは、日本の茶室を思わせるようなダイニング。巨大な四角い竹かごの中で食事をするようなイメージが新鮮だ。日本的ということで言えば、「見晴らしのいい閨房」と名付けられた室内の壁紙もその一つ。金彩を背景にした丹頂鶴という私たち日本人には親しみぶかい意匠が、ヒョウ柄の椅子などと大胆に取り合わせてある。
オープニングのこの日は、招待客が建物の前に行列を作るほどの盛況で、インテリア業界の要人も多く詰め掛けていた。フランスを代表するテキスタイルブランド「Pierre Frey(ピエール・フレイ)」のオーナーも3兄弟揃っての出席。今年で8回目になるこの会が業界でいかに重要視されているかが伝わってくる。
「ご覧なさい。あそこにも向こうにも億万長者がいるわよ」
と耳打ちしてくれたのは、ベテランフランス女性ジャーナリスト。
「千だか2千平米だかの館の内装を、今度はどんな風にしようか思案しているってところね」
確かに。そう言われてみれば、通常の展覧会のオープニングの雰囲気よりぐっと紳士淑女率が高い。つまり彼らにとって、これは単に眺めて楽しむ展覧会ではなく、最先端のインテリアショールームという様相。さらに言えば、パリの社交界の面々がこんがりと灼けた顔で再会するイベントの一つという位置付けなのかもしれない。
会期は2017年9月20日まで。