コロナ禍でアスリートは何を考えたのか? 堺ブレイザーズはSNS強化を目指す
チームのグループLineに送られた一通のメッセージ
「僕らが今、行動することが数年後のバレーボール界、もっと先のバレーボール界への貢献につながります。どんどんアイデアを出して行きましょう」
コロナ禍による練習自粛が続くある日、堺ブレイザーズの選手が作ったグループラインに一通のコメントが送られた。発信者は選手会長を務める千々木駿介だった。
今年の4月、新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本国内、ほぼすべてのスポーツ団体が活動を自粛せざるを得なくなった。堺ブレイザーズも緊急事態宣言の影響で、練習はすべて自宅での個人練習となっていた。
「最初は『インスタグラムライブで紅白戦が中継できたらいいですよね』って話をしていたんですが、緊急事態宣言で自宅待機になって、それもできなくなってしまいました。緊急事態宣言が終わったあと、6月になってもなかなか練習を完全に再開できる見通しが立たなかった。練習見学も当然、禁止で、サポーターの方たちと関われる機会がなくなってしまいました。そこでクラブに『選手のほうでSNSを使ってライブ配信をしてもいいですか?』と聞いて、承認されたという経緯です」(千々木)
公式アカウントを使ったインスタグラムのライブ配信を定期的に企画。現在に至っている。
サポーターとつながる機会が失われた今
堺ブレイザーズは大阪・堺市を本拠地として活動している地域密着型スポーツクラブである。サポーターズクラブ会員の会費や、Vリーグのホームゲームでの入場料収入、グッズ売り上げなどがクラブ経営に大きく関わっている。リーグ戦こそ中断なしで行えたものの、4月下旬から5月に開催される予定だった黒鷲旗は中止となり、ファン・サポーターと関わることができる機会がすべて失われた。
入団2年目を迎える樋口裕希は語る。
「やはり試合を見に来て、『バレーボールって楽しいな』と思ってくれる人が大半だと思うので、まずは試合がない、練習を見に来られないという事態に『サポーターのバレーボール離れにつながるんじゃないか』とすごく危機感を持ちました。僕らプロのスポーツ選手は見てくれる人、サポーターの方たちがいてこそ続けられる職業。では、この状況の中、どうしたらサポーターの方たちに喜んでもらえるのだろうかと考えました」
樋口ら選手が抱く危機感が後押しとなって、SNSでの露出アップ大作戦がスタートした。チーム公式SNSや個人アカウントの更新に力を入れるようになったのだ。
最も大掛かりだったのは5月6日、You Tubeのチーム公式チャンネルにアップした、選手による手洗い動画である。「堺ブレイザーズがジャニーズ手洗い動画“Wash Your Hands”をやってみた」と題し、流行のジャニーズ事務所作成の動画を、個人個人が自宅で自分のパートを自分で撮影。編集して再現したものだ。現在1万4千回再生されているが、「もっと多くの人に見てもらうにはどうしたらいいか考えています」と主将の高野直哉はこの数字に決して満足はしていない。
「再生回数はつい確認してしまいます」
樋口は語る。
「再生回数などは、目についたときには、どれくらい増えているか、つい確認してしまいますね。自分がTikTokを始めたのは、10代の若い世代の人がTikTok中心に流行を生み出していると知ったからです。バレーボールって学校の体育でもプレーしたことがあるのに、あまり実際の観戦体験にまでつながらないですよね。だから10代の人たちも含めた、もっと幅広い世代の人にブレイザーズを知ってもらいたいと思ってスタートしました。できるだけ毎日、更新しようと考えています」
チームに所属する選手は全員で15名。そのうちツイッターアカウントを持つ選手が10名。インスタグラムアカウントを持つ選手が10名で、アカウントを持たない選手のフォローはチーム公式で受け持ち、運用している。
アスリートや著名人がSNSを敬遠する多くの理由は、炎上が怖いからではないだろうか。不特定多数の人が目にする以上、意図とは違うとらえられ方をしたり、理不尽な攻撃を受ける恐れもある。
「そういう怖さはもちろんあります。でも自分たちアスリートは、どういう場に出ても規範となれる行動や発言ができるようになるべき。それが一流のスポーツ選手の姿だと僕は思っているので、炎上やミスを恐れて何もやらないというのではなく、SNSについて学んで準備をしてから取り組むべきだと思う。スポーツ選手はプレーをしているだけでいいとは僕は思っていませんし、自立したスポーツ選手を育てるためにも、チームが進んで実現するべきだと思っています」(千々木)
「バレーボール観戦から離れてほしくない」
7月1日にはVリーグ機構から2020/2021年シーズンの日程が発表された。感染者が再び増えている現状を見ると、開幕する10月の時点で、どれくらいの観客を入れることができるのか、まだ不明だ。
「今の段階では、もちろんファンフェス(ファン感謝イベント)もリモートでやることになる。そこをいかにおもしろくできるか、話し合いをしていきますが、それもすべてVリーグの試合につながっていて、『バレーボール観戦から離れてほしくない』という思いからです。ですから、今後もバレーボールの魅力を伝えるような動画を出せたらいいなと思います。同時にブレイザーズの良さって、練習見学のあとに、見に来られた方が気軽に選手と会話できるところだと思うんです。でも、それが今はできなくなって、アットホームな雰囲気が売りのうちとしては、サポーターの皆さんに寂しい思いをさせているのではないか、と……。インスタグラムライブでは、そういう、アットホームな雰囲気もサポーターの皆さんと楽しめればいいなと思っています」(千々木)
部活動ができなくなってしまった学生プレーヤーなどに向けた練習動画などとともに、今後はYou Tubeでの配信作業も進めていきたいと語った。
今後の活動について、樋口は言う。
「先日もインスタグラムのストーリー機能で、『選手のどんな姿が見たいですか?』とアンケートを取りました。感染症の拡大で、今後はリモートが当たり前の世界になるかもしれません。その中で、サポーターの方たちにどうしたら楽しんでもらえるのか、これからもいろいろと考えていきます。そして、ゆくゆくはプレーや試合にからめた、少し長い文章を書くことなどにも挑戦していきたいです」
サポーターとのつながりを断たないために、ブレイザーズは今後も発信を続けるつもりだ。